旅立ちの時
遅れてごめん!
前回から見てくれた方がわかりやすいかもですけど、全然楽しめもするかも!
それは兄さんの、14歳の誕生日からだいたい半年のことだった。
晩御飯の時。
「アラム、わかるな?」
いつもより暗い顔、声の父さん。
「……はい」
怖い。
今から兄さんが怒られるのかな。
そんな不安が頭をよぎる。
「お前には明日、4月からの一年間、旅に出てもらう」
一言一言全て噛みしめるように言った。
「はい」
みんな静かだ。
メイドさんたちも、父さんも母さんも兄さんもお姉ちゃんも。
「……本当に、行かなくちゃいけないの……?」
震えた声を漏らす母さん。
「カナン。俺は、旅であらゆる人に出会い、成長することが出来た。それは丁度アラムと同じ14歳の時、放り出されるように家を出たんだ。1年だけでも、得られるものは多い」
あまり聞けないお父さんの昔話。
珍しくて聞いていた気持ちと、今何が起きてるのかわからない気持ち。
もうおかしくなりそうだ。
「アラムのためにも、これは必要なんだ。わかるな?」
「……」
涙ぐんで肩を揺らす。
見てるだけで……
そして父さんは俺とお姉ちゃんを見て───
「ダフネ、ハベル、これは二人もいずれすることになるんだ。その時は、より多くを学んで、より多くの……っ」
下を向く。
お姉ちゃんもメイドさんも。
今、わかった。
きっと俺たちは兄さんと離ればなれになるんだ。
胸の中から込み上げてくる。
嫌なもの、やめてほしいのに止まらない。
「うわああっぐ!……ああっ」
目を開けてるのに何も見えない。
透明な壁、うねうねと動いて。
喉が痛い。息もしずらいのに声は止まらない。
目を拭って前を見る。
勢いよく立ち上がった母さんは、そのまま部屋を出ていった。
「明日、村の入り口に馬車が待っているはずだ。それに乗って、どこかへ行きなさい。ハベル、お前も部屋に戻っていいぞ」
顔を向けずに話しかけられるのは初めてかもしれない。
言われるままに、俺はタエさんと一緒に部屋に戻った。
◇
「うっうぐっ……うっ」
「坊っちゃま……」
部屋に戻った俺は、すぐにベッドに潜って、枕で目を黒色で覆う。
考えたくないのに頭がよく回ってしまう。
きっと俺じゃ何もできない。
自分は弱いんだ、そんな気持ちと一緒にわいてくるのは───兄さんとの今まで。
───「おいハベル!」
昔からそうだった。
「ハベル!ストレア家たるもの!───」
兄さんはずっと俺を叱ってて
「───あれは木と言って……あっ特にあの木は───!」
好きなものは、とことんまで話してくれる。
「お兄様、そんな難しい話まだわかんないわよ」
「勉学は早いに越したことはない!」
それで困ることもあったっけ。
でも───
「《地の束縛》!」
家族思いで、とても頼れる兄さん。
───止まらない。
涙も、鼻水も喉が熱いのも。
勢いよく体を起こす。
「坊っちゃま、どこに行かれるのですか?」
目の前のタエが僕に向かって言った。
真剣な眼差し。
「兄さんのところ」
「ダメです」
頭に浮かぶはてなの文字。
明日なんだ。
明日から会えないのに。
「なんで!?明日から会えないんだよ?!」
「……だから、ダメなんです」
いつも通り、まっすぐこっちを見ている。
でも何か……
「なんで───」
そして僕の言葉を遮るように、口を動かす。
「坊っちゃまはお辛いことでしょう。1年間、会うことも姿を見ることもできない。でもそれはアラム様も同じ、いえもっとお辛いのです。誰にも会えずに、一人で旅立たれる。きっと怖くて寂しくて……しかし、今アラム様は耐えておられるのです!そこに坊っちゃまが行ってしまっては台無しになってしまう。……だから、行ってはダメなんです」
鼻の詰まった声。
肩も少し揺れている。
「うっうぐっ……」
溢れ続ける気持ちを拭い続ける。
そしたら、柔らかい腕で包まれた。
温かくて優しい。
「だから、一緒にめいいっぱい泣きましょう。明日笑顔で送れるように」
「……うんっ」
◇そして◇
とてもはやい朝。僕たち家族は、門の前に集まっていた。
雲はすっかりないきれいな晴れ。
兄さんだけが門の傍に立って、俺たちは家の方から見つめる。
「うっうう……」
「グリーナちゃん……」
「泣かないの。みんな我慢してるんだから」
「だって……うぐっ」
メイドの何人かは泣いてしまってる。
少しして、兄さんがこっちを見つめる。
「では、行ってきます」
進む方へと向き直り、門に手をかざす。
「「「いってらっしゃい!!!」」」「「「いってらっしゃいませ!」」」
全員の声が奇麗に重なり、大きな一つとなって兄さんの髪を揺らす。
そして、俺は───
「兄さん!!!」
影を帯びた背中に大きく叫ぶ。
開ける手が、微かに止まった。
「絶対、帰ってきてね!!」
門を開け、そのまま道を進んでいく。
結局俺は、頑張って作った笑顔を見せることは敵わないのだった。
◇◇◇
馬車に揺られ、今までのほとんどを過ごした村が遠のいていく。
全く、長かったのか短かったのか。
それはこれからの旅でわかることだろう。
すると、運転手がこっちを向いて───
「どうしたんですかお客さん?今生の別れですかい?」
俺の顔を見て尋ねてきた。
「……いや、そんなこともないさ」
補足:ストレア家では、メイドも家族として扱われます。
また、ストレア領の村は大きな山脈と巨大な森で囲われているため出入口は一つしかありません。
ありがとうございました!




