ハベルの成長、そして謎
前回は夢で誰かと会った話でしたね!
では第3話、よろしくお願いします!
━━━あれから3ヶ月が経った。今でもあのことはよく覚えている。
あれは、なんだったんだろうか。
そして今は━━━
「お…おお!!」
「あ…あなた、この子…!!」
「「は、ハイハイが!!」」
サルトとカナンは、俺の一挙手一投足を喜んでいる。
かなりしんどいが、両親の笑顔のためだ。
「まだ半年よね……ハベル坊っちゃまちょっとすごいわね…」
「は…ハベル坊っちゃま…ぐすっ私はっお世話係としてっうぐっ」
タエは目には涙を浮かべている。
「ええ……何泣いてんのよ……」
「だってぇ……」
ゆっくり、一歩ずつ。
二人に向かって。
「そう、そうだ!ハベル!」
2人は手を広げて俺を迎える。
もう少し、もう少しだ。
「いいわよ、その調子!━━━」
間もなく1階からノックの音。
「サルトォ!おーい!」
外からの声が響き渡る。
なんというか、むさくるしい声だ。
「あら、あの人よあなた」
「まったく、こんな時に……」
見たことない悲しそうな顔。
すると、扉が開く音、そしてスタスタという音が近づいてくる。
ガチャッと開き━━━
「ご主人様!シャック様がお見えです」
「分かってる、今行く……はあ」
ため息とともに、ゆっくりと立ち上がるサルト。
行ってしまうのだろう。
さみしい。
「いつになく大きなため息ねえ、さっき掃除したから多分ホコリたくさんあるのに」
「ゴホッ!ゲホゲホ!」
咳をしながら部屋を出た。
カナンの胸に向かって倒れこむ。
「あらぁよーしよしぃ」
やわらかくて、温かい手だ。
横からのぞき込むと、急いでいたのか扉は閉まり切っていないようす。
そのかすかな隙間に、朝の光が差し込んでいる。
向こうに、サルトがいるのだろうか。
俺は、カナンから離れて、向こうへとよばれるみたいに、手を、足を伸ばす。
「あ━━━━━━」
「ハベル坊っちゃま!」
タエとカナンの声をよそに、必死に体を進める。
「お待ちくださいハベル坊っちゃま!」
やがて扉を超えても、俺の歩は止まらず風を切って進んでいく。
なんだか、体が軽い。どこまでもいけそうだ。
すると、後ろにある扉が開きタエから俺を隠してくれた。
「どうしたんだタエ、そんな騒いで、らしくないぞ」
「ほんとにどうしたのよタエちゃん」
現れたのはアラムとダフネ。
「アラム様、ダフネお嬢様!ハベル坊っちゃまが……ってはや!!」
「待てハベル危ないぞ!!」
アラムは俺を追いかけようとするが━━━━
「待て待てハベルーー!!」
ダフネが笑いながら先に追いかけてきた。
ドタドタという音がかなりこわい。
俺の中で、ドキドキという感じが響いている。
なんというか、楽しいような。
後ろからカナンが顔を出す。
「ねえそっちにハベルが━━━あらぁ、ふふっ」
━━━その頃、サルトと訪問者のシャックは玄関で談義に勤しんでいた。
「なんか上、騒がしくねえか?」
「たしかにな、ハベルがどうしたんだろうか」
シャックがそのいかつい顔をしかめる。
何か引っかかるような、そんな顔。
「ん?ハベルってのは誰なんだ?」
「ああ、俺の息子だ」
サラッとした返答に、呆気にとられるシャック。
「は?」
「なんだよ」
「い、言えよぉぉ!!」
強く肩をつかむ。
行き場のない気持ちを移すように。
「だがお前、声大きすぎてまだ小さい頃のアラムもダフネも毎回泣いてただろ。あと顔が怖い」
「最後のはどうしようもねえだろ!」
だが確かに、図星のようだ。
「まあな」
小さく笑うサルト。
「それはすまんってところだが……せめて祝い酒ぐらいはさせてくれよ、相棒だろ?」
「まあそれはすまんな」
「お前いつ空いてる?」
「ええと…なあ、いつ空いてる?」
サルトは後ろを向いてメイドに尋ねる。
「はい、確認してまいります」
「ああ、頼む」
メイドはそそくさと2階に駆け上がっていった。
「ところで今何歳なんだ、そのハベルは?」
「半年だが」
「ほーう、じゃあダフネ嬢とは4個差か……あの子、相当そのハベル坊にベッタリだろ?アラム坊は……ダフネ嬢に甘やかすな!!とか泣いてるハベル坊にストレア家たるもの!!とか言ってるとみたぜ」
「なんで全部わかるんだ…気持ち悪いぞお前」
中から階段を下りる音がする。
そして、現れたのは先ほどのメイド。
「ご主人様、お待たせしました」
「かまわない、で、どうなんだ?」
「はい、来週の土曜日、日曜日はそれぞれ一日中空いております」
「らしいが?」
「ならその日にしよう!」
「2日連続か?」
疑うような顔。
「あたりめえだろ!そりゃ空いてりゃ使うぜ!」
当然かのような言い草。
「まあいいか」
「1日目は出産祝い、2日目はハベル君のお披露目会って感じか!」
「それ分ける意味あるか?まあ…いいか」
「お前も嬉しそうじゃねえか!」
からかうような顔。
「うるさいぞ」
サルトの笑顔が、まんざらでもないことを表している。
「じゃあとりあえず、狩りいくか」
「ああ、なあ、カナンたちに狩りに行くと、伝えといてくれ」
玄関の扉を開き、外へと出る二人。
「はい、承知しました。行ってらっしゃいませ」
深々と頭を下げる。
「ああ」
頭を上げ、近くのメイドに駆け寄る。
「ところで、ほんとに上はどうしたのかしら」
「さあ?ハベル坊っちゃまが何かされたんでしょ」
━━━俺は尚もハイハイを続ける。
少しだけ疲れてきた。
3人はまだ追ってきているようだ。
そしてカナンは後ろでこちらを見つめている。
「別に追わなくてもいいのに、だってその先は━━━」
俺の目の前には、きれいに並ぶいくつもの段差。
それは、この前絵で見た崖のよう。
さすがに、これは無理だ。
「な、なんでハイハイでそんなに……ハベル…もしかして、いやそんなわけ……」
そんな声とともに、足音が一つ消える。
「す、すごいハベルー!」
ダフネが駆け寄って、俺を抱えあげる。
ブンブンと風の音が気持ちいい。
「ハベル坊っちゃま、危ないですから部屋に戻りましょう?ダフネお嬢様、ハベル坊っちゃまをお部屋まで運びますので渡していただけますか?」
困ったみたいな顔だ。
「タエちゃん、私が持っていってもいい?」
ギュッと抱きしめられて、少し息苦しい。
「ええ……構いませんが」
そうして俺は、ダフネによって部屋に戻されてしまった。
━━━その夜、サルトとカナンとタエが話し合っていた。
「奥様、なぜ私まで……」
少し疑問めいた顔のタエ。
「だってあなた、あの子の世話係でしょう?」
「では、ハベル様についての話し合いですか?」
「ええ、あのことについてよ」
サルトは少し置いてけぼりなようだ。
「カ、カナン、ハベルがどうしたんだ?昼間に上で騒いでた事が関係あるのか?」
心配そうな声。
「ええ、そうよ。あの時、ハベルがすごい速度でハイハイしていたの」
「はい、見た事のない速度でした、まるで小走りしているかのような」
サルトの顔に疑問符が増える。
「あれはおそらく、“魔法”よ」
「「ま、魔法!?」」
疑うような声が重なる。
「だ、だが俺は教えた覚えはないぞ!!」
「そ、そうですよ!それに教えるにしてはまだ早いです!」
二人の不安そうな顔。
「ええ、それは知ってるわ。だから何か秘密があるのかも…」
顎に指を当て、下を向くカナン。
「何かってなにが……」
サルトの不安が声になって現れる。
「分からないわ、でも、これだけは確認しておきたいの。あの子にたとえ何があっても、私たちの子で、このストレア家の、私たちの家族よ」
カナンは拳を強く握る。
爪が食い込むくらいに。
「ええ、もちろんです」
「ああ、分かってる」
自信に満ちた二人の顔。
「これから、あの子を守るために私たちが見守ってあげる必要があると思うの、協力してくれる?」
「はい、とうぜんです」
「ああ、もちろん俺たちの大事な家族だからな、守るのは当然だ」
3人が決意した瞬間だった。
第3話、読んでくださりありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!