限界なんですけど
「限界だぁ…もう無理だぁ…」
ここにきて、アザレアはとうとう諦め始めていた。
最初こそ…命拾いしたことには感謝しているが、クリザンテーモを好きにはなるまいと思っていたのだ。
だって、彼は隠しキャラの一人とはいえ自分が避けてきた攻略対象の一人(ファルファッラは元々手の内にいたのでノーカン)。
ヒロインはもう不在とはいえ、いつどう転ぶかわからない相手に惚れるのは…怖い。
でも、彼が真っ直ぐに愛を注いでくれるから…アザレアはつい、絆されてしまったのだ。
「好きになっちゃったよぉ~…うわぁああああんっ」
風邪をこじらせて熱に浮かされる中で、アザレアは嘆いた。
熱に浮かされたまま喋るから、隣の気配に気付けなかった。
「アザレア。誰を好きになったの?」
優しい声で聞かれる。
熱のせいか上手く目の焦点が合わない、しかもぼーっとする頭では相手が誰かもわからない。
「クリス様っ…クリス様を好きになっちゃったの…」
「おや、それは嬉しいな」
「…うん?」
「嬉しいよ、アザレア。オレを好きになってくれてありがとう」
ふと目の焦点が合う。
そこには満面の笑みを浮かべるクリザンテーモ。
アザレアは力一杯叫んだ。
「ふみゃー!?」
「大丈夫だよ、アザレア。怖くない、怖くない」
「いやー!怖いー!これ以上好きになりたくないー!」
グズグズとぐずって拒絶するアザレアに、クリザンテーモは柔らかく微笑む。
「アザレア、オレを信用できない?」
「出来ないっ!」
「…おや」
これは困った、とクリザンテーモは笑う。
「今日のアザレアは人一倍手がかかるね」
「やだやだやだぁっ」
「でもね、アザレア。それでもオレは、君を愛しているよ」
「…」
何故だろうか。
熱のせいかもしれない。
あれだけちょろくて、でも頑なにクリザンテーモを拒否していたはずのアザレアの心にたしかにその言葉は響いた。
今まで何度も言われていたというのに。
やっぱり、風邪をこじらせたせいだろうか。
「本当に?」
「うん、本当に。愛しているよ」
「絶対に?」
「うん、絶対に。今更他の人なんて見れないよ」
「…私も、好き。愛してる」
やっと素直になった、とクリザンテーモは笑う。
そんなクリザンテーモに氷嚢を変えてもらって、アザレアは再び眠りについた。