推しキャラからお嬢って呼ばれるの良いよね
「お嬢」
「ファルファッラ。どうしたの?」
「取り急いで耳に入れたい情報がある」
アザレアは頬を緩めてファルファッラに耳を貸した。
ファルファッラはアザレアの一番の推しキャラだ。ファルファッラのためにゲームを攻略していたと言っても過言ではない。
とはいえ、ここは現実。ゲームではないので、忠臣として可愛がるのみで手を出す気はさらさらない。恋愛感情というより可愛い妹みたいなものだ。
ファルファッラは乙女ゲーム本来の設定と違い、優しく可憐なアザレアを命に代えても守るべき大切な主人と定めている。こちらも恋愛感情はない。
しかし。
「アザレア、遊びに来たよ…え」
婚約者に見られてしまえば、ちょっとばかり面倒なシーンなのは言うまでもない。
「…アザレア、浮気かい?」
「く、クリス様違います!この子は私の腹心の部下で、疚しい気持ちなんて一切ないです!」
「ふーん。どう思う?リュカ」
「お嬢様は嘘をつく方ではありません。ただ、ちょっと無防備すぎるというか…彼も、忠臣だと言うのならもう少し主人の評判を落とす行為は控えるべきですねー」
「…そう。お前の目にそう見えるなら、そうなんだろうね」
クリザンテーモはリュカの言葉に少し落ち着いたらしい。
ファルファッラはそんなクリザンテーモに土下座する。
「ファル!?なにしてっ」
「恐れ多くも婚約者がいるお嬢様に気安く触ってしまい申し訳ありませんでした」
「…アザレアが腹心の部下と呼ぶほどだ。役に立つ人材だろうし、我が国にアザレアが嫁に来る時にはむしろついてきて欲しい。だが、そのときのためにも今のうちにリュカに適切な距離を学んでおきなよ」
「えー、私ですか?まあいいですけど…どうせなら女の子が良かったなぁ」
「…はい?」
ファルファッラがリュカの言葉に首をかしげる。
クリザンテーモとリュカはその反応に引っかかりを覚えて、聞いた。
「え、アザレア…この子は男の子だよね?」
「いえ、女の子ですけど…短髪だし中性的な美女で、背も高いし筋肉質だから間違えちゃいました?」
アザレアはわかっていて白々しく返す。
ファルファッラとの恋は、禁断の百合ルートとしてプレイヤーの間でもそれはもう人気が高かった。
「…すっすまない!こちらの早とちりだったようだ!」
「いえ、自分が男勝りなのはわかっていましたから。初見では見間違えますよね…声も低いですし」
「うぐっ」
しょぼんとするファルファッラにクリザンテーモは良心を抉られる。
「なら、色々お勉強しないとですねー」
「え?」
「普段男に見間違われる仕事着を着ている時のお嬢様への振る舞い。プライベートで女の子として過ごす時のお嬢様への振る舞い。両方お勉強しましょうねー」
「は、はい」
「あと、お嬢様の隣に女の子として立つ時のファッションや小物の選び方なんかも覚えましょうか。主人に恥をかかせるのは忠臣の名折れですよ」
上手いことファルファッラを口車に乗せるリュカ。
なんで鮮やかな手口だろうとアザレアは閉口する。
クリザンテーモはいつもの悪い癖が出てるなぁと遠巻きに眺めていた。
「では、そういうことでさっそく…お嬢さん、名前は?」
「ファルファッラですけど」
「ファルファッラさんとレッスンに行ってきますねー」
空き部屋へと連行されていくファルファッラを心配して侍女を一人見張りに付けつつアザレアは見送った。
クリザンテーモはカレンドゥラが泣くことになりませんようにと天に祈った。
その後戻ってきたファルファッラは羞恥心で涙目になっており、リュカは非常に満足そうだった。
アザレアはこれは酷いと思いつつファルファッラを慰める。
ファルファッラは、でもこれでお嬢様とデート出来ますね!と嬉しそうだったのでアザレアももう何も言うまいと心に決めた。
クリザンテーモはリュカにやり過ぎだとチョップした。