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子連れの冒険者  作者: ポリ 外丸
第 2 章
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第 97 話


「うぅ……」


 少し前にエルヴィーノが探し当てた森の中にある誘拐犯の拠点と思わしき場所に、5人の男がたどり着く。 

 その5人の側には両腕を後ろで縛られ、猿轡に目隠しをされた男女が地面に転がされており、男性の方が女性の方へ向かって声を漏らす。

 女性の安否を気遣っているようだ。


「おいっ! うるせえぞ!」


「うっ!!」


 その声に対し、5人の中で一番若く、赤ん坊を抱えた男が苛立ちを覚える。

 そして、男性の頭を思いっきりひっぱたいた。


「おいっ! こいつらが例の奴かもしれないんだ。あんまり痛めつけんな。特にガキは丁重に扱えよ」


「う〜すっ!」


 彼らがカンリーン王国内で誘拐事件をおこなっている理由。

 それは、ハンソー帝国内の内乱に関係している。

 彼らが仕える帝国第一皇子の弟であり、現在皇帝の地位を争っている第二皇子。

 その子供がカンリーン王国内にいる第二皇子の知人によって匿われているという情報を得た。

 その情報から、第二皇子とそれを支援する貴族たちを潰す人質とするため、見つけ出して捕縛するという任務を主人の第一皇子から受けたためだ。

 第一皇子を勝たせるためには、できる限り早く任務を達成することが望ましいのだが、派手にやればカンリーン王国側に気付かれてしまう可能性もある。

 そうならないためにも上手く誤魔化してきた。

 しかし、この町の黒髪黒目の赤ん坊を育てている家庭もそろそろ残り少ない。

 もしかしたら、今回捕まえてきた家族が目的の者たちの可能性がある。

 そのため、5人の中で隊長とも思える男が、男性をひっぱたいた若い男に注意を促す。

 注意されなくても分かっているためか、若い男は軽い口調で返事をした。


「どうやら、あっちはまだ着いていないようだな…‥」


「よっしゃー!」


「俺たちの勝ちだ!」


「明日の飯はたらふく食ってやるぜ!」


「酒も飲みまくってやる!」


 捕まえてきた男女と赤ん坊を拠点の中の部屋に閉じ込め、5人は嬉々として言葉を交わす。

 先程も言ったように、黒髪黒目の赤ん坊を育てる家族はもう残り少ない。

 それならば、自分たちの存在がバレる前に、残りの家族を捕まえて第二皇子の子供かどうかを確認するため、二手に分かれて犯行に及ぶことにした。

 その時仲間内で、二手に分かれる時にただ犯行に及ぶだけではつまらないというなり、同じ日にどちらが先に人質を拠点まで連れて来られるかを競い合うことになった。

 勝った方には、負けた方が翌日の夕飯を好きなだけ奢るという賭けだ。

 その結果、自分たちが勝利したことを確信し、5人は明日が楽しみだと喜んでいるようだ。


「もしかしたら今回もハズレの可能性があるからな。あんまり羽目を外しすぎて、余計なことを口走るなよ」


「そんなことしないっすよ」


 今回連れて来た家族も第二皇子の子供ではないかもしれない。

 もしもそうだとしたら、他の町へ拠点を移さなければなならない。

 これからも犯行に及ぶためにも、少しでも自分たちが疑われないようにしておくべきだろう。

 第一皇子の側近である自分たちは、戦闘においてエリートだ。

 様々な訓練を受けているため、酒で酔っても余計なことを言わないことは当然である。

 しかし、先程赤ん坊を抱いていた若い男は入隊したばかりのため、酔った時にどんな反応を示すかまだ分かっていない。

 そのため、隊長と思われる男は、念のため若い男に警告しておく。

 若い男からすると、酔って櫃を喋るようなヘマをするように思われているのではないかと、若干不満げに返答した。


“ドンッ!!”


「「「「「っっっ!?」」」」」


 陽気に話していたのも束の間、拠点の外から大きな音が聞こえてきた。

 その音に5人はすぐさま反応する。

 側に置いていた自分たちの武器を手に取り、出入り口となる扉に向かって少しずつ近づいて行った。


「行くぞ!?」


「「「「おうっ!」」」」


“バッ!!”


 扉に手をかけ、隊長と思われる男が他の4人に向かって小さく声をかける。

 それに対し、4人も小声で返答する。

 それを受けて扉を開くと、5人は一気に拠点の外へと飛び出した。


「「「「「…………」」」」」


 外に出た5人は、高い警戒感のまま周囲を見渡す。


「……どういうことだ?」


「さあ……?」


 この時間でこの場所だと、魔物が出現したのかと思ったのだが、 周囲を探知しても何の反応もない。

 そのため、先程の音が何だったのかと、5人は首を傾げるしかなかった。


「……っっっ!?」


 警戒を切らさず、隊長と思われる男は拠点の方へと視線を向けた。

 すると、僅かながら違和感を覚えた。

 相当に集中しないと気付けないような魔力の揺れ。

 それを感じた瞬間、隊長と思われる男は急いで拠点の中へと戻って行った。


「くそっ!!」


 嫌な予感が的中した。

 人質の家族を閉じ込めていた部屋の扉が開いており、そこには何も存在していなかった。


「なっ!?」


「何だとっ!?」


 隊長と思われる男に続くように、他の4人もこの部屋の状況を見て驚きの声を漏らす。


「探せ! まだ遠くまで逃げていないはずだ!」


「「「「りょ、了解!!」」」」


 自分たちが拠点から出ていたほんの僅かな時間に、何者かが人質を連れて逃げ出した。

 それ以外考えられない。

 その僅かな時間に、赤ん坊を含めた3人を連れて遠くに行けるわけがない。

 そう考えた5人は、四方に散って周囲の探索を始めた。



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