第 96 話
「こいつらを頼む」
「あぁ……」
誘拐事件を起こしていると思われる者たち5人を捕まえたエルヴィーノは、すぐさまギルドへと向かう。
エルヴィーノに連れられて、魔力の糸のようなもので一纏めにされて気を失っている5人組。
そんな彼らを見て、捕まえた経緯を聞いたシオーマの町のギルド所長のサブリーナは、エルヴィーノの頼みに若干引き気味に返答する。
「……こいつら全く動かないけど大丈夫なのか?」
「……多分」
捕まっている5人が全く動かない。
気を失っているとはいっても、あまりにも動かないため、危険な状況なのではないかと気になったサブリーナがエルヴィーノに問いかける。
あっさり捕まえることには成功したが、この5人組は実力のある者の動きをしていた。
そのことからも少し強めに攻撃したのだが、そういわれるとエルヴィーノも心配になってきた。
そのためか、返事も曖昧なものになってしまった。
「間違いだったとしても、夜中に家宅侵入を働こうとしていた不届き者だから、これくらい問題ないだろ?」
「……まぁ、そうだな……」
全身黒づくめで、顔を隠すようにローブを被り、夜中に人の家に侵入しようとしていたも者たちだ。
もしも誘拐犯じゃなかったとしても、家宅侵入罪未遂で強めに痛めつけたで問題ないはず。
平和に暮らしている何の罪もない一般家庭に侵入しようとしたのだから、多少怪我を負わせても文句を言われる筋合いはない。
むしろ、殺されなかっただけでもありがたいと思うべきだ。
そんな思いから、この5人が大怪我していても心配する必要はないと考えを切り替えたエルヴィーノは、平然とサブリーナに話しかける。
未遂にしては少しやり過ぎなきもしないでもないが、同じ思いに至ったサブリーナもエルヴィーノに賛同した。
「俺はまた行かせてもらう」
「分かった。こいつらは任せておきな」
この町で密かに誘拐をおこなっている集団は全部で10人。
捕まえてきた5人の他にもまだいるということだ。
その残りの5人が犯行を起こしそうな場所には辺りを付けている。
その場所へと向かうため、エルヴィーノはこの5人組の対応をサブリーナに求める。
冒険者には荒事が頻繁に起こる。
その者たちを捕まえて反省させるために、このギルドの地下には簡易的な牢が備えられている。
気が付いた時に情報を聞き出すために、サブリーナはこの5人を地下牢に入れておくことにした。
逃げ出さないために魔力の使用を封じる手錠をかけることも忘れない。
「じゃあな!」
「あぁ……」
サブリーナが5人に手錠をかけ始めたのを確認して、エルヴィーノはギルド所長室から退室していった。
そんなエルヴィーノを、サブリーナは手錠を掛けながら返答する。
「フゥ~、それにしても……」
遠ざかっていく足音を聞きながら5人に手錠を掛け終えたサブリーナは、ため息を吐きつつ、この状況を認識していた。
「こんな奴らを、あっさりと捕まえてきたもんだね……」
冒険者時代の戦闘能力から、ギルド所長にまでなったサブリーナ。
魔力を探れば、相手の実力はある程度予想することはできる。
この5人の魔力から実力を考えると、はっきり言って自分1人で捕まえることはかなり難しい。
それを無傷でこなしてきたエルヴィーノのことを考えると、確実に自分よりも上の実力を有していることが予想できる。
「あれでBランクはサギみたいなもんね……」
シカーボの町のギルド所長であるトリスターノのお墨付きだから、相当な実力があることは予想できたが、この結果は予想以上だ。
あれでBランクだというのは信じられない。
ランクを上げれば、受けられる依頼の難易度も上げられ、更には知名度も上がる。
難易度の高い依頼を達成すれば、受け取れる報酬も相当な額になる。
そのメリットなんか、エルヴィーノにとってメリットになり得ないということだろう。
「もしかしたら、何か裏があるのかもしれないわね。でも、触らぬ神に祟りなしっていうからね……」
Bランクで抑えている理由。
そうしなければならない何かがあるのかもしれない。
しかし、それを知ろうとしてエルヴィーノから睨まれることになったら、今の地位だけでなく命まで危険に晒されることになるかもしれない。
そのことを考えると寒気がしたサブリーナは、余計な詮索をすることはやめ、5人を牢に閉じ込め、残りの5人をエルヴィーノが捕まえて来た時のことを考え、魔力封じの手錠の準備をすることにした。
◆◆◆◆◆
「……たしか、ここら辺のはず……」
ギルドの建物を出たエルヴィーノは、あっという間に目的地に到着する。
残りの5人が行動しているであろう地域だ。
到着したエルヴィーノは、すぐさま探知を使用して周囲に異変が無いか探り始める。
「っ!!」
探知を始めて少しすると、エルヴィーノは異変を感じる。
そして、すぐさま動き出し、異変を感じた場所へと向かった。
「チッ!! もう犯行をおこなった後か……」
異変を感じた場所に到着すると、エルヴィーノは思わず舌打ちをする。
何故なら、玄関の扉が壊され、室内が荒らされ、住人が誰もいない家がそこにあったからだ。




