第 88 話
“キンッ!!”
右後方から迫る頭と呼ばれた男の攻撃。
それに対し、エルヴィーノは剣を盾にするようにして弾くことで回避する。
「良い連携だ」
「……チッ!!」
「今のを防ぐか……」
2人による連携攻撃。
それを防いだエルヴィーノは、2人から距離を取って感想を述べる。
攻撃を防がれた上に上から目線とも取れる言葉に、ダンは舌打ちをし、頭と呼ばれた男はエルヴィーノの実力の評価を更に上げたらしく、ここからは2人がかりで攻めかかると言わんばかりに剣を構えた。
「「ハッ!!」」
全身に魔力を身に纏うことによる身体強化。
それを出現した時から行っていた頭とダンだが、2人は使用する魔力をさらに上げることで肉体を強化する。
それと同時に、エルヴィーノに向かって走り出した。
“バッ!!”
「っ!?」
直線的に向かってくると見せ、2人はエルヴィーノの剣の間合いに入る前に左右へと分かれた。
「セイッ!!」「ハッ!!」
エルヴィーノの真横の来た時、2人はほぼ同時に斬りかかかる。
右側から攻めかかる頭は上段からの振り下ろし、左側から攻めかかるダンは右斬り上げを放つ。
「っと!」
2人からの攻撃に対し、エルヴィーノは回避の行動に出る。
この状況で避けるとしたら前か後ろ。
その2択のうち、エルヴィーノは後方に跳ぶことを選択する。
「「ハッ!!」」
「っ!!」
エルヴィーノの実力から、剣による攻撃を躱されることを想定していたのだろう。
2人は左手に魔力を溜め、野球ボールサイズの火球をエルヴィーノに向けて放つ。
魔力を溜める時間が僅かのため、威力的には大したことはないだろうが、至近距離でまともに食らえば多少なりともダメージを受けことになる。
そう見込んでの魔法攻撃なのだろう。
「フッ!」
至近距離から放たれた火球攻撃。
このわずかな時間のやり取りで、エルヴィーノの実力なら2つとも当たれば幸運、片方防いでもう片方が当たれば御の字といったところだ。
しかし、エルヴィーノは高速の剣撃によって火球を斬り裂いた。
「っ!?」「なっ!?」
最悪、掠りでも良しとしていたところだが、全くの無傷。
予想外の結果に、頭とダンの2人は目を見開く。
「……師弟関係か? ずいぶん息が合っているな……」
言葉を交わさずとも、2人の攻撃のタイミングは一致している。
余程の信頼関係が築かれていることが窺える。
そして、足運びや剣の軌道などから、2人が同じ流派の剣術家であることが予想できたエルヴィーノは、確認する可能ように呟く。
「……ダン。こいつはまともじゃない。ここからは全力だ」
「……はい!」
最初から警戒していたが、先程の攻撃も難なく防ぐことに成功し、自分たち2人の動きを分析する余裕すら存在している。
そのことから、こちらも本気を出さなければ自分たちもただじゃすまないと判断したらしく、頭とダンは短いやり取りをして全力を出すことを決意した。
「「ヌンッ!!」」
「……へぇ~」
全力を出すことにした2人は、更に全身に纏う魔力量を増やして身体強化を施す。
その魔力量をコントロールできているところからも、冒険者のAランク相当なのは間違いない。
そんな2人の実力に、エルヴィーノは感心したような声を上げる。
「ハッ!!」
「っ!!」
またも同時攻撃をしてくるかと思ったが、頭の方が先に動く。
使用魔力を増やしたことによる身体強化。
そのため、これまで以上の高速移動でエルヴィーノとの距離を詰めてくる。
そして、剣の間合いに入ると、エルヴィーノの腹を斬り裂くように左薙ぎ払いを放ってきた。
「フンッ!!」
“キンッ!!”
高速の鋭い攻撃に、エルヴィーノは剣で受け流すことを選択する。
剣と剣が当たる甲高い音と共に、エルヴィーノは頭の攻撃を防ぐことに成功した。
「ガァッ!!」
「っ!!」
頭の攻撃を防いだ瞬間の僅かな隙。
そこを狙うかのように、ダンが右前方から袈裟斬りを放ってきた。
その攻撃を、エルヴィーノは上半身を仰け反るようにして回避した。
「ハッ!!」
「おわっ!」
ダンの攻撃を躱したところで、今度は頭の方がエルヴィーノに向かって斬りかかってくる。
左薙ぎ払いからの逆袈裟斬り。
態勢不十分のエルヴィーノは、後ろに飛び退くことでギリギリでその攻撃を回避した。
「ヌンッ!!」
「とっ!!」
頭の攻撃を回避したと思ったら今度はダン。
袈裟斬りから引いた剣で、今度は喉元目掛けた突きを放ってきた。
その攻撃を剣で反らしつつ、エルヴィーノはまたも後ろに飛び退くしかなかった。
「今だ!!」
「「「「「「おうっ!!」」」」」」
他と比べると樹が密集している場所に着地したエルヴィーノ。
その瞬間頭が大きな声を上げる。
その声に反応するかのように、樹の影から数人の男たちが姿を現し、それぞれが手に持つ武器でエルヴィーノに向かって襲い掛かってきた。
「っっっ!?」
迫りくるのは6人。
後方の全方位から自分に迫る攻撃に、エルヴィーノは目を見開いた。




