第 83 話
「へぇ~、あのデカブツがそんなことを……」
犯人に繋がると思われる男たちを捕まえた翌日。
エルヴィーノは昨夜のことをセラフィーナに説明した。
その説明を受け、セラフィーナは思ったことを口にする。
エルヴィーノと同様、家を出る時はエルフの特徴である耳を隠しているとはいっても、その見た目の良さからガンドルフォのようにセラフィーナに絡んできた人間は少なくない。
そういった人間を痛めつけると、数や手段を問わずに復讐を仕掛けてくるばかりだった。
復讐して来ても、セラフィーナに二度と関わりたくないようにするか、この世から消えてもらうかしていた。
今回のガンドルフォも、同じように復讐をしてきたとしたらとんでもなく痛い目に遭わせる予定でいたのだが、反省して自分たちの役に立とうと考えていたとは思いもしなかった。
彼のことを見直してやっても良いが、最初の印象が最悪なだけに、セラフィーナの中での好感度は上がっていないようだ。
「今回の相手はあいつでは実力不足だろう。危険だから関わらないように言っておいた」
「そうですね。邪魔になったら面倒ですからね」
Bランクなら冒険者としてはかなりの実力者と言っていいのだが、昨日捕まえた者たちの実力を考えたら、Aランク程度の実力が必要のように思える。
しかも、それは昨日捕まえた連中を基本と考えた場合だ。
もしかしたら、昨日の2人以上の実力を持った者たちが襲ってくる可能性もある。
そう考えると、ガンドルフォでは実力不足と言わざるを得ないため、エルヴィーノはギルド所長のビビアーナと共に、昨夜は強めに注意をしておいた。
これ以上関わったら、良くて大怪我、悪くて命を落とすことになりかねない。
そんなガンドルフォを助け、自分やセラフィーナたちに危険が及ぶようなことになっては迷惑だ。
もしも、そのような状況になったならば、エルヴィーノとしては何のためらいもなくガンドルフォを見捨てるだろうが、一応死なないように意識してしまうはずだ。
そんな余計な意識すらしないためにも、ガンドルフォに関わられるのは迷惑なため、セラフィーナはエルヴィーノの言葉に同意した。
「昨日の奴らから考えると、それ以上の実力の奴らが接近してくる可能性がある。もしもの時には、セラは俺を残してオルと共にシカーボの町に転移しても構わないからな」
誘拐事件解決のために依頼を受けたが、思っていた以上に敵の実力が高い。
それでも自分やセラフィーナなら返り討ちにできるとは思うが、オルフェオのことを考えると、依頼を失敗することよりも命の方が重要だ。
そのため、エルヴィーノは危険と判断した時にはセラフィーナに避難するように告げた。
「分かりました」
今はまだ誰の子なのか分からないオルフェオだが、エルヴィーノはセラフィーナとしては面倒を見ることになった以上、親に返すまできちんと育てるつもりだ。
囮捜査に利用しているとはいっても、命の危険が及ぶような目に遭わせるわけにはいかない。
それに、一騎当千のエルヴィーノなら、自分たち足手まといがいない方が戦いやすいはずだ。
そのため、セラフィーナは危ないと思ったら避難することに賛成した。
「さてと、じゃあ、ギルドに行くか……」
「はい!」
「あ~い!」
昨日の今日だが、捕まえた2人から何かしらの情報が聞き出せたかもしれない。
その情報を聞くために、2人はギルドへと向かうことにした。
犯人の接近に警戒し、ここ数日は自宅にいることが多かったため、外に出られると分かったのかオルフェオも嬉しそうに声を上げた。
「フッ!」「ハハッ!」
町中だからと言って警戒しなけらばならない状況だというのに、そんなことを知らずに外出が嬉しそうなオルフェオに、エルヴィーノとセラフィーナの2人は思わず笑みを浮かべた。
「……いらっしゃい」
ギルドに向かい、所長室に入るとビビアーナがエルヴィーノたちを迎えた。
「……その様子だと、難儀しているのか?」
「まぁね……」
ソファーにもたれかかっている様子や表情から、捕まえた2人から情報を得ることに苦慮していることがエルヴィーノには窺える。
その予想通り、ビビアーナは自分で肩をもみつつ返答した。
「痛みへの訓練を受けているみたい。ただの誘拐犯ではないわね」
ただ聞いたところで情報を吐くわけがない。
そのため、ビビアーナは痛みによる問いかけも行ったのだが、2人は何も話さない。
まるで、捕まった時の拷問対策でもしているようだ。
そのことからも、2人がただの誘拐犯ではないことが分かる。
「……最終手段といくか?」
「……まさか、隷属魔法でも使うつもり?」
「すぐ解除すればバレないだろ?」
このまま何の情報も得られないのでは、2人が何を企んでいたのか判断しようがない。
拷問も無理なら、嫌でも話すようにするしかない。
エルヴィーノがその方法を暗に提案すると、ビビアーナは訝し気に問いかけてきた。
奴隷化する隷属魔法を使用すれば、たしかに拷問対策をしている人間でも抵抗しようがない。
しかし、まだ凶悪犯と決まったわけでもない人間に隷属魔法をかけるなんて、この国では違法だ。
そのため、ビビアーナに若干非難するような視線を向けられるが、エルヴィーノはどこ吹く風と言わんばかりに返答した。
「……魔力はもつの?」
「問題ない」
「……じゃあ、お願いするわ」
たしかに隷属魔法をかけても、すぐに解除してしまえばバレることはないだろう。
そのことを知っている人間が黙っていれば。
しかし、隷属魔法とその解除にはかなりの魔力を消費することになる。
こともなげに言っているのだから、エルヴィーノはそれができ、且つ相当魔力に自信があるのだろう。
確認の問いに対しても表情を変えずに返答したエルヴィーノを見て、ビビアーナは最終手段を取ることを了承した。




