第 82 話
「……こいつらが?」
「あぁ……」
エルヴィーノたちが住んでいる仮の家の前で、真夜中に怪しい行動をしていた男の2人組。
その2人組を捕えたエルヴィーノは、すぐさまギルドへと連れて行った。
ギルドの建物のすぐ隣の寮で寝泊まりしていたギルド所長のビビアーナは、夜中に起こされることになった。
しかし、いつこんなことが起こっても良いように、すぐに駆け付けられるようにしていたのだろう。
エルヴィーノたちがギルドに着いてから数分で駆け付け、拘束されている2人組を見て問いかけてきた。
その問いに、エルヴィーノは短い言葉で返答する。
「あんたたちに頼んで正解だったようね。手がかりが少ない中で、こうもあっさり疑わしい人間を捕まえてくるなんて……」
この町で起きている行方不明事件の犯人を捕まえようと、エルヴィーノたちに協力を求めたビビアーナ。
信頼できるこの町の冒険者を使って足取りを追ったが、途中でその行方が途切れてしまっていて、犯人と思わしき者たちを見つけることができないでいた。
それならばと囮捜査を始めたら、エルヴィーノたちがあっさりと成果を出してくれた。
この町の冒険者の能力が低いとは思えない。
きっとエルヴィーノたちがすごいのだろう。
シカーボの町のギルド所長であるトリスターノから、「今回の囮捜査に最適な、意図的にBランクに抑えているSランククラスの冒険者たちがいるから派遣しよう」と言われた時は、「この町で起こったことはこの町の人間で解決する」と断ろうかとも思ったが、これ以上被害者を出さないためと協力を求めたことは正解だったと今はビビアーナは思っている。
「まぁ、こいつらが何者かは分からないが、夜中に人ん家の近くでコソコソしてたから捕まえてきただけだが……」
感謝されるのはありがたいが、まだこの2人組が行方不明事件の犯人だと決まったわけではない。
怪しい行動をしていたから、捕まえてきたにすぎないからだ。
「こいつらの動きはなかなかのものだった。情報を聞き出すにしても管理に注意してくれ」
「えぇ、分かったわ」
エルヴィーノが言うように、この2人組が犯人と決まったわけではない。
ギルド内の地下には牢があり、そこで情報を聞き出す予定だ。
しかし、エルヴィーノが言うように、あっさり捕まえたとは言ってもこの2人組の実力はなかなかのもの。
下手に油断して隙を見せたら、牢から脱出を図るかもしれない。
折角捕まえたというのに情報を聞き出せないまま逃げられたら、犯人を捕まえることは困難になる。
そうならないため、エルヴィーノは注意を促し、ビビアーナは頷きつつ返答した。
「……ところでお前は何でいるんだ?」
2人組を地下牢へと連れて行き、見張りの人間を配置したビビアーナは、所長室でこれからの話をすることにした。
そこでようやく、エルヴィーノと共に先程の2人組を連れて来たガンドルフォの存在に触れることにした。
セラフィーナに気絶させられてから、ギルドに来て仕事を受けることもなく、何をしているのか分からなかった。
少し気になっていたら何故かエルヴィーノと共に姿を現したのだから、理由を聞かずにはいられない。
「俺も聞きたい。ずっと俺たちの家の近くにいたけれど、何が目的だ?」
この数日の間、家の近くをうろついていたと思ったら、怪しい奴らを見つけた途端捕まえにかかった。
自分たちへの報復を狙っているのではないかと考えていただけに、エルヴィーノとしては、ビビアーナと同様に聞きたいところだ。
「……い、いや、あんたの女にあっさり打ちのめされて、俺は自分がまだまだだって理解したんだ。それで、迷惑をかけた分取り返そうと……」
自分以上の実力者であるエルヴィーノとビビアーナに問い詰められたことに気圧されつつ、ガンドルフォは説明を始める。
そして、勝手にやっていたことだけに、段々と声が小さくなっていった。
『……思ったよりも謙虚なやつだったんだな』
てっきり、自分たちへの報復を企んでいるのではないかと思っていたエルヴィーノは、ガンドルフォの説明を意外に思った。
思っていたよりもまともな思考の持ち主だったようだ。
「反省したのは良いことだが、生かせてない。俺が止めなかったらこいつらはお前でも難しい相手だったぞ」
「全くだ。きちんと相手の実力を見抜けと言っているだろ……」
「……す、すまねえ」
ガンドルフォは体格に恵まれているため、これまでそれほど努力しなくても結果を出せてきた。
そのせいもあってか、相手の実力を見抜く力が不足している。
そのことをビビアーナに言われていたし、セラフィーナにちょっかいをかけて理解したはずだ。
それなのに、エルヴィーノが捕まえた2人組を捕まえようとしたのは判断ミスと言わざるを得ない。
エルヴィーノからすれば難なく捕まえられる相手だったが、ガンドルフォが相手をするとなると1対1ならともかく、2人を同時に相手するのは危険でしかない。
そのことをエルヴィーノとビビアーナに注意され、ガンドルフォはその巨体を縮こませつつ謝るしかなかった。




