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子連れの冒険者  作者: ポリ 外丸
第 2 章
77/115

第 77 話

「あ〜い!」


「……なんかオル君元気ですね。エル様と一緒だからですかね?」


 いつものように、闇魔法の影転移によってあっという間にツシャの町の近くの森に転移したエルヴィーノたち。

 森から出て街道を進んでいる間、エルヴィーノの胸に抱っこされているオルフェオが笑顔で何度目かの声を上げる。

 その嬉しそうな表情を見て、セラフィーナはふと思ったことを口にする。

 以前の経験から、エルヴィーノがしばらく留守にすると、オルフェオは不機嫌になるということが分かっている。

 今日は朝からずっと胸に抱かれているため、それで嬉しいのではないだろうかと考えたようだ。


「久々の外だからじゃないか?」


「そうですかね……」


 以前のことで赤ん坊であるオルフェオが、自分のことを大切な存在に位置付けていることは分かっている。

 しかし、今日元気なのは別に一緒に居られるからではないように感じる。

 そもそも赤ん坊であるのと、最近の天候のせいでオルフェオは外に出ることは少なかった。

 今日の天候の良さと、久しぶりに外に出られた嬉しさから機嫌が良いのではないかとエルヴィーノは考えた。

 それもあるとセラフィーナも思えるが、やはりエルヴィーノに抱かれている安心感があるからではないかと考える。

 何故なら、セラフィーナも小さい頃はそう思っていたからだ。

 そうは思っても、まだ喋れないオルフェオに聞いても本当の気持ちは分からないため、セラフィーナはそれ以上この話を続けることをやめた。


「見えてきた」


「あう〜!」


 街道に出る魔物などエルヴィーノたちにとっては苦になるわけもなく、順調に進んだ一行はすぐにツシャの町の防壁が見えるところまで着く。

 町を指さしつつ呟いたエルヴィーノに、オルフェオが反応した。

 まだ距離があるというのに、高い防壁がそびえたっていることに対する反応のようだ。


「高いだろ? しかも厚めに作られているんだぞ」


 ツシャの町の周囲を囲む防壁は、エルヴィーノたちの住むシカーボの町よりも高く、しかも厚くできている。

 オルフェオの反応で理解したエルヴィーノは、その理由について教えてあげる。


「魔物もだけど、隣の国を警戒してるからだぞ」


「あう~!」


 小さな村などだと資金的な問題から木製の柵などになってしまうが、 本来防壁は魔物の侵入を防ぐために存在しているのだが、ツシャの町は川を挟んでハンソー王国に接している。

 そのため、ハンソー王国がカンリーン王国に攻めてくるとなると、最初に攻め込まれることになる。

 それを警戒し、他の町とも比べて頑丈な防壁が築かれているのだろう。

 その説明を受け、オルフェオが返事をする。


「……理解しているのでしょうか?」


「……さあ? まぁ、別にどっちでもいいさ」


 エルヴィーノの説明が終わると同時に返事をしたオルフェオを見て、セラフィーナが訝し気に問いかける。

 と言うのも、オルフェオの返事のタイミングがあまりにも良かったため、まるでエルヴィーノの説明をちゃんと理解しているかのように思えたからだ。

 説明をした本人のエルヴィーノも同じ思いを持ったが、さすがに赤ん坊が理解しているというのはありえない。

 理解していても、していなくても、オルフェオの笑顔を見ているとどうでも良くなったエルヴィーノは、余計な考えとしてそれ以上追及することはやめた。


「っと、そろそろセラに代わってもらうか」


「あう?」


 ツシャの町の入り口まで向かう途中、エルヴィーノは抱っこ紐を解きながら呟く。

 その行動が理解できないオルフェオは、不思議そうに声を上げた。


「えっ? もうですか?」


 エルヴィーノの言葉に、オルフェオだけでなくセラフィーナも驚きの声をあげる。

 前日の打ち合わせにより、ツシャの町ではセラフィーナがオルフェオを抱っこしている状態で行動することになっている。

 そのため、別に文句をいう訳ではないが、嬉しそうな表情のオルフェオを見ているとギリギリまでエルヴィーノと一緒にしておきたいと思えるため、まだ早いのではないかと思わず声に出てしまった。


「町中に入ってからより、入る前に代わっておいた方が良いだろ……」


「分かりました」


 今回の行方不明事件の場合、黒髪の子持ちを狙っているという以外犯人の狙いが分かっていない。

 狙いどころか、犯人の実力も人数も分かっていない。

 不確定要素が多い状況で犯行に遭った場合、一番対応力があるエルヴィーノが動き回れる状況の方が良い。

 そのため、セラフィーナにははっきり言って足手まといになるオルフェオを連れて安全な場所にすぐさま移動してもらいたい。

 そう考えての役割分担だ。

 犯人がどこから見ているのか分からないが、町の中に入ってから役を代えるより、入る前から代えていた方が不自然さを感じさせないはず。

 そう考え、エルヴィーノは判断した。

 エルヴィーノの判断に反対するつもりもなく、セラフィーナはすぐに受け入れた。


「悪いけど私で我慢してね。オル君」


「う~っ!」


「フフッ!」


 エルヴィーノから渡された抱っこ紐を結び、セラフィーナは胸に抱いたオルフェオに話しかける。

 それに対し、どことなく仕方ない感が見える返事をするオルフェオ。

 まるで、本当に会話を理解しているかのようだ。

 そのやりとりが面白く思え、セラフィーナは思わず笑みを浮かべた。


「赤ん坊とはいえ、オルも男だ。女性の胸に抱かれて文句は言わないだろ……」


「えっ!? じゃあ、エル様も私の胸に抱かれれば……」


 物心つかない状況でも、男は男。

 女性の胸に抱かれて嫌な思いをするわけがない。

 そう考えたエルヴィーノが呟くと、セラフィーナは独り言を呟きつつ思考を巡らせ始めた。


「……お前の胸に欲情するには100年速いな」


「っ!! では、100年待てば……」


 丸聞こえのセラフィーナの独り言に突っ込みを入れるエルヴィーノだが、それが逆にセラフィーナに期待を持たせる形になってしまった。

 エルヴィーノもセラフィーナもダークエルフ。

 100年後でも充分子供を産める年齢のためだ。


「……おかしなこと言っていないで町に入るぞ」


「は、はい!」


 これ以上話していても先に進めない。

 そう感じたエルヴィーノは、話を変えるようにして町中へと歩を進めた。

 先に進むエルヴィーノに置いて行かれないよう、セラフィーナも思考を中断してその背を追いかけて行ったのだった。



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