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子連れの冒険者  作者: ポリ 外丸
第 1 章
68/104

第 68 話

「シッ!!」


「ギャウッ!!」


 剣を振り下ろし、シンミアロッソと呼ばれる赤毛の巨大猿を倒すエルヴィーノ。


「……ったく! 内乱の前に魔物の討伐をちゃんとやれよ」


 倒した魔物から魔石を取り出し、火魔法を使用して死体を焼却処分する。

 その作業が終わると、エルヴィーノは思わず愚痴る。

 そうしたくなるのも分からなくはない。

 と言うのも、進軍したベーニンヤ伯爵を追いかけてジカアの町からソーカク領の領都ヤオリオに向かっているのだが、ちょっとショートカットして森の中を突き抜けようとしたら、やたらと魔物に遭遇するのだ。

 そこまで深い森の中ではないというのに、これだけ魔物が出現するというのは少しおかしい。

 エルヴィーノにとっては大したことのない魔物だが、シンミアロッソはランクの低い冒険者ではかなり危険な部類に入る。

 それがこんなところに少なくない数出現するとなると、魔物の討伐がおこなわれていないのではないだろうか。


「……そうか、冒険者を連れて行ったからか……」


 ベーニンヤ領からもうすぐソーカク領に入る。

 つまり、ここはまだベーニンヤ領。

 恐らく、ベーニンヤ領の高ランク冒険者たちは、奴隷化されて兵として連れて行かれたのだろう。

 冒険者を奴隷化し、兵として利用するなんて考えるような頭のイカれた人間だ。

 ベーニンヤ伯爵は、まずは身近なところに手を出したはずだ。

 兵の数を求めて平民を徴兵したとしても、所詮は戦闘の訓練や経験が乏しい者たちでしかない。

 それならば、育てる必要のない一定ランク以上の冒険者を奴隷兵として利用することにしたのだろう。

 ランクの高い冒険者を兵に利用したせいで魔物の討伐ができなくなり、魔物が繁殖することになってしまったのかもしれない。

 そう考えると納得できる部分がある。

 それは、ここまでの町や村にいた冒険者たちが、かなりランクの低い者たちばかりだったからだ。


 「カンリーン王国に手を出したのは、自領の冒険者はあらかた奴隷化して成功したからか?」


 領都ジカアの酒場の店主が言っていたように、東西に分かれての王位継承争いの初戦においてベーニンヤ伯爵が活躍したのも、冒険者を奴隷兵にして成功したのが理由なのだろう。

 それで味を占め、ベーニンヤ伯爵は他の国から冒険者を攫ってくることを思いついき、傭兵を使って実行したのだろう。


「何で自国の、他領の冒険者に手を出さずに他国に……」


 他国の冒険者に手を出せば、ハンソー王国にとっても不利益を被ることになる。

 それならば、自国の他領地から冒険者を攫ってきた方が良かったのではないか。

 どうしてベーニンヤ伯爵がそうしなかったのか分からず、エルヴィーノは首を傾げる。


「それより、仲間に同じようにすることを勧めれば良かったんじゃ……」


 とても勧められるような行いではないが、何としても勝利したいならそうすることも有効な手だ。

 もちろん、勝利をした暁には、国民からかなりの非難を浴びり事になるだろう。

 しかし、それを力で捻じ伏せることも可能だ。

 証拠隠滅のために、奴隷化された冒険者たちは始末されるのが落ちだろうが。


「……そうか。欲か……」


 少し考えたら、ベーニンヤ伯爵がそうしなかった理由に思い至った。

 初戦での活躍。

 それによって、ベーニンヤ伯爵は第一王子派閥の中ではかなりの地位に付くことができた。

 更に活躍をして王位争いに勝利したとなれば、第一王子が王位に就いた時に自分は内政・軍務のどちらかのトップの役職に就くことも可能だ。

 もしも、他の貴族に同じ方法を取るように勧めてしまえば、自分が活躍することができなくなるかもしれない。

 そうならないためにも、ベーニンヤ伯爵は他の貴族に冒険者の奴隷化を勧めるようなことをせず、他国から攫ってくるという方法を取ったのだろう。


「悪知恵が働くな……」


 やっていることはイカれているが、それを揉み消す方法まで考えているとなると馬鹿とも言い切れない。

 エルヴィーノからすると、馬鹿は馬鹿だが……。


「……そうか。雇った傭兵も使い捨てか……」


 エルヴィーノたちが捕まえた誘拐犯は、ベーニンヤ伯爵に雇われた傭兵たちだった。

 しかし、それは彼らが言っているだけで証拠はない。

 ベーニンヤ伯爵からすると、もしも彼らが捕まっても知らぬ存ぜぬと切り捨てれば報復を受けることはないと考えたはずだ。

 案の定、カンリーン王国は手を出すことが難しく、報復をおこなうことは断念するしかない状況だ。


「まぁ、カンリーン王国が手を出さなくても、俺が手を出すけどな……」


 ハンソー王国の王位争いなんて、エルヴィーノからしたらどちらが勝とうがどうでも良い。

 しかし、このまま泣き寝入りするなんて、エルヴィーノには納得できない。


「少し急ぐか……」


 「泣く」というワードが頭に浮かんだ時、エルヴィーノは急にオルフェオのことが気になり始めた。

 引き取ってから毎日一緒にいたため、抱っこしていないとどうも違和感がある。

 セラフィーナに任せたが、彼女は子育てをした経験がないため心配だ。

 ベーニンヤ伯爵に報復してさっさと帰ろうと、エルヴィーノは移動速度を上げることにした。



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