第 58 話
「「えっ!?」」
寮の隣にある建物が、クラン【鷹の羽】の集会所となっている。
行方不明事件の犯人、もしくは被害者がいると思われる町はずれの建物を発見したことを伝えに、エルヴィーノたちはその集会所へと向かった。
エルヴィーノたちのことは、クランリーダーのオフェーリアから伝えられていたらしく、冒険者カードを見せたらすんなりと中に入れてくれた。
そして、オフェーリアがいるところに案内され、ここに来た理由を伝えたところ、オフェーリアとグスターヴォは驚きの声を上げた。
「もう見つけたのですか?」
「においも途切れていたのにどうやって……?」
【鷹の羽】のメンバーも被害者の捜索に動いている。
しかし、まだ情報が入ってきていない状況だ。
嗅覚の優れた従魔を使ってにおいの追跡を行ったが、途中で途切れており、居場所を探り当てるところまで行きつかなかった。
エルヴィーノたちもオンブロキャットという魔物のリベルタを従魔にしているため、同じようににおいを追ったのだとしたら同じようにアジトらしき建物を発見できなかったはず。
それなのに、発見の報告をしに来たのだから、2人のように驚くのも無理はない。
「魔力痕跡を探った」
「「なっ!?」」
特殊な能力と、高い戦闘能力を有していると思われるエルヴィーノ。
追跡方法も特殊な方法を持っているのだろうと思っていたが、まさかの発言に2人はまたも驚きの声を上げた。
「魔力痕跡なんて、魔道具でしかできないものでは?」
「微細な魔力操作ができるようになれば使えるようになる」
「……とことんとんでもないな」
魔力の痕跡を探る方法は確かにある。
しかし、それは魔道具を使用してだ。
その魔道具もかなりの高額のため、一般人が手に入れるのはかなり難しい。
まさか、そんな魔道具まで持っているのかと思ってオフェーリアが問いかけると、エルヴィーノは自分の能力で探し当てたということを伝えた。
魔道具ではなく、自分の能力として魔力痕跡を追跡できる人間がいるなんて思ってもいなかったため、グスターヴォは驚きを通り越して呆れたようにエルヴィーノを見つめた。
「でしょ? エル様はすごいのよ!」
「……なんでセラがどや顔してるんだ?」
魔力痕跡を追跡できるエルヴィーノの底知れない実力に驚いているオフェーリアたちを見て、セラフィーナが胸を張ってどや顔をする。
エルヴィーノの凄さが密かに知れ渡ることが嬉しいからだ。
「仲間のことだ。自分たちで解決したいだろう? だから、乗り込むのは任せて良いか?」
犯人のアジトと思われる建物を発見した時、エルヴィーノたちならそのまま乗りこんで被害者を救出するという行動もできた。
しかし、やはり仲間のことは自分たちの手で救い出したいと思うもの。
そのため、そのまま乗りこむようなことはせず、【鷹の羽】の者たちに任せるのがいいだろうと判断し、エルヴィーノたちは報告に来たのだ。
「ありがとうございます。あとは任せていただいてください」
「わかった。気遣い感謝する」
確かに被害者が仲間なので、自分たちの手で救い出したい。
その思いを組んでくれたエルヴィーノたちに対し、2人は感謝の言葉と共に頭を下げた。
「じゃあ、失礼する」
「えぇ」「あぁ」
目的は果たした。
あとは【鷹の羽】に任せ、自分たちは解決したという結果を待つつもりだ。
そのため、エルヴィーノたちはオフェーリアたちに軽く挨拶をして部屋から出て行った。
「何だって! 誰もいなかった?」
「えぇ……」
エルヴィーノたちが報告に言った翌日の夜。
オフェーリアたちにクラン【鷹の羽】のメンバーは、報告を受けた村はずれの建物に進入した。
そこに誘拐犯と被害者がいると思われたのだが、オフェーリアが言うにはそこには誰もいなかったということだ。
まさかの結果に、エルヴィーノたちは驚きの声を上げた。
「俺たちの捜査が間違いだったか……」
犯人や被害者の存在がなかったというのなら、もしかしたらエルヴィーノたちが見つけた建物がアジトではなかったのかもしれない。
信じがたいことだが、もしそうだとすると余計な手間を取らせたことになる。
そのため、エルヴィーノは申し訳なさそうに呟いた。
「いえ、そうではないと思います」
「んっ? どういうことだ?」
作戦が失敗したのは、建物がアジトではなかったから。
そう思っていたエルヴィーノだったが、オフェーリアからの言葉で口に出そうとしていた謝罪の言葉を飲み込んだ。
「作戦が犯人たちに気づかれた。いや、作戦が知らされた…かもしれない」
「何っ?」
作戦が失敗したのはどういう理由なのかと思っていたが、どうやら何者かが犯人側に【鷹の羽】たちの作戦を知らせたからのようだ。
その言葉を聞いて、エルヴィーノは首を傾げる。
そして、あることに気付いた。
「……それは俺たちを疑ってるのか?」
「いいえ、その可能性もないとは言いませんが……」
「なんですって!?」
あの建物の存在を知っているのは、クラン以外だエルヴィーノたちしかいない。
そのため、自分たちが疑われているのではないかとエルヴィーノは考えた。
しかし、エルヴィーノの問いに対し、オフェーリアは首を左右に振って否定した。
ただ、その可能性も捨てていないらしく、オフェーリアが率直な考えを述べた。
僅かでも自分たちが疑われているのだと知り、セラフィーナは頬を膨らませて文句を言おうとしたが、それを止めるべくエルヴィーノは手で静止した。
わざわざ疑っていることを言うのだから、エルヴィーノたちのことを犯人に通じているとはそんなに思っていないということだろう。
それに、オフェーリアの様子だと話には続きがあるようなので、その続きを求めた。
「言いにくいが、クラン内に協力者がいるらしい」
「「えっ!?」」
代わりに続きをいうグスターヴォ。
それを聞いて、エルヴィーノとセラフィーナは思わず声が漏れた。
「それは本当なのか?」
「えぇ、最近入ったばかりの者が、作戦失敗の翌日から姿を消しました」
アジトと思われた建物内は、埃などを見る限り最近まで人がいた気配があった。
それにしても、建物を放棄したにしてはあまりにもタイミングが良すぎる。
もしかしたらと内通者の可能性を考え始めたところで、仲間の1人がクランの寮からいなくなったそうだ。
貸していた寮の部屋の荷物を全て持ち去ったところを見ると、誘拐されたというわけではなく、自分から去ったと考える方が正解だろう。
そして、このタイミングで姿を消すなんて、内通者はその冒険者と考えるべきだろう。
「あなたが魔力痕跡を追跡できることは私たちしかいません。すいませんが、もう一度捜索してもらえませんか?」
「……分かった」
アジトを移したというのなら、また探すしかない。
しかし、それをするのにも、犯人はまたもにおいによる追跡対策をしているはず。
自分たちが犯人を逃してしまったので言いにくいが、オフェーリアは申し訳ないと思いつつ、エルヴィーノたちに再度捜索をお願いする。
若干、「仕方がないな」と思いつつ、エルヴィーノは再度犯人の捜索を開始することにした。




