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子連れの冒険者  作者: ポリ 外丸
第 1 章
32/130

第 32 話

「今日は属性魔法を使用していいぞ」


「えっ? 本当ですか?」


 ダンジョン内で一泊し、朝食を食べた後。

 2日目の訓練が開始される前に、エルヴィーノはフィオレンツォに声をかける。

 属性魔法というのは、魔力を火水風土光闇の6つの属性のどれかに変化させて使用する魔法のことだ。

 このダンジョンの最下層は30層。

 昨日1日でフィオレンツォが進めたのは3層まで。

 ここまでに出現する魔物は、単体なら初心者冒険者でも戦えるて弱い魔物ばかりだ。

 装備が整っているフィオレンツォなら、気を付けてさえいれば大怪我を追うようなことはない。

 そのうえ属性魔法まで使用することを許して、戦闘に慣れる前にここから先に出てくる魔物に遭遇していたら、油断や慢心をするかもしれない。

 それを回避するために、エルヴィーノはフィオレンツォに属性を使用しない無属性魔法しか許可しなかった。

 エルヴィーノのそんな考えなど知らず、これで多少は戦闘が楽になるかもしれないと、フィオレンツォは少しだけ安堵した。


「あんたの属性は?」


 この世界の人間は、病気などによる理由がない限り無属性魔法を使える。

 それにプラスして、属性魔法を使用することができるのだが、使用できる属性は生まれながらに決まっている。

 多くの人間が無属性のほかに1属性使用でき、中には2属性・3属性と複数の属性を使える人間もいる。

 冒険者の間では、手の内を読まれないように使える属性をなるべく秘匿するものだが、エルヴィーノと自分は指導する身。

 そのため、セラフィーナは使用する前に知っておこうと、フィオレンツォに問いかけた。


「水です」


「そうか。冒険者としては良い属性だな」


「そうですか?」


 セラフィーナに使える属性を答えると、エルヴィーノが褒めるように呟く。

 水属性は攻撃よりも防御に使用する頻度が高いため、冒険者で名を上げたい者からすると、そこまで人気の高い属性ではない。

 それなのに、エルヴィーノほどの実力者がそういうのであれば何か理由があるのだろうと、フィオレンツォは首を傾げた。


「人間は飲まず食わずで4~5日しか生きられない。しかし、水だけでも飲めれば2~3週間は生きられるという話だ」


 エルヴィーノは、冒険者の中でも知っている人間は知っている情報を話す。

 中には、水だけでも1か月生き残ったという話も聞いたことがあるが、よく言われているのはこれくらいの期間だ。


「ダンジョンの罠とかでどこかに閉じ込められても、それだけの期間生き残ることができれば、光明が見える可能性があるだろ?」


「なるほど……」


 ダンジョン内には、どこかに転移させられたり、中に入ったら外に出られなくなるような罠があったりする。

 そうなってしまった場合、自力で脱出不可能なら助けが来るまで待つしかない。

 その時、助けを待つまでの間は、持っている食料のみで生き残るしかない。

 そして食料が尽きた場合、水属性の人間なら水を作り出し、他の属性の人間よりも長く生き残ることができる。

 それだけ長い間生存できる可能性があるということだ。

 どんな生物も死んだらおしまいだ。

 生き残ってこそ人生を謳歌できるというものだ。


「まぁ、そんな状態にならないことが需要だがな」


「……もっともですね」


 先程は褒めておいてなんだが、エルヴィーノは元も子もないことを言う。

 正論ともいえる言葉に、フィオレンツォは渋い表情で頷くしかなかった。


「属性魔法も有りにしたから、複数の相手もしてもらうからな」


「そ、そうですか」


 昨日は、フィオレンツォには単体の敵と戦うように調整してきた。

 しかし、属性魔法も使用できることで、攻撃の威力を上げられるようになった。

 そのため、今日は複数の敵とも戦ってもらうつもりだ。

 そのことを告げると、フィオレンツォは急に緊張してきた。


「昨日同様、気を引き締めないとただじゃすまないわよ」


「は、はい!」


 属性魔法がつけるからと言って油断をしていると、思わぬ隙が生まれて大怪我をすることになるため、セラフィーナは念のため忠告する。

 それを受け、フィオレンツォはさらに緊張したように返事をした。






「ギャッ!!」「ゲギャッ!!」


「ハッ!! セイッ!!」


「ギャウッ!!」


 こん棒と呼ぶには微妙な木の枝で、ゴブリン2体がフィオレンツォに殴り掛かる。

 片方の攻撃を盾で、もう片方の攻撃を剣で受け止めたフィオレンツォは、剣で防いだ方のゴブリンに蹴りを打ち込む。

 その蹴りが腹に直撃したゴブリンは、武器を落として吹き飛んで行った。


「ハッ!!」


「ギャッ!!」


 片方が離れたことで、フィオレンツォの剣が空いた。

 その剣を使って、盾で防いだ方のゴブリンに斬りかかる。

 それにより、フィオレンツォは片方のゴブリンの首を撥ねて仕留めることに成功した。


「ギ、ギギッ!」


 先程蹴られて吹き飛んだゴブリンが、腹を抑えてヨロヨロと起き上がる。


「ハッ!!」


 起き上がったゴブリンに対し、剣を鞘に納めたフィオレンツォは空いた右手を向ける。

 そして、魔力をその右手に集めると、その魔力で水の球を発射した。


「ゲギャッ!!」


 手のひらサイズの水の球が飛んでいき、ゴブリンの顔面に直撃する。

 その攻撃で脳震盪を起こしたのか、ゴブリンは倒れて僅かに痙攣をしている。


「止めだ」


 反撃される心配もないため、フィオレンツォはゆっくりと倒れたゴブリンに近づく。

 そして、まだ息のあるゴブリンに止めを刺すべく、剣を胸に突き刺した。


「ふぅ~……」


「ご苦労さん。複数でも大丈夫そうだが、気になったところがある」


「はい。なんでしょう?」


 戦いを終え、フィオレンツォは一息つく。

 その間に、ジャンとセラフィーナがゴブリンの体内から魔石を取り出し始めた。

 そして、エルヴィーノは先ほどの戦いの修正点を伝えるためにフィオレンツォに声をかける。


「最後の魔法を放つ前、どうして剣を収めた?」


「えっ……?」


 どうして剣を収めたか聞かれれば、右手を開けるためとしか言いようがない。

 魔法は手やワンド(杖)で放つものというのが常識だからだ。

 そのため、フィオレンツォはエルヴィーノの問いに首を傾げる。


「剣を収めなくても、剣の先から発射できるように意識すればいい」


「そんなことができるのですか?」


 フィオレンツォがどう考えているのかを理解してか、エルヴィーノは改善方法を提示する。

 そんな方法があるとは思わなかったため、フィオレンツォは驚きつつ問い返した。


「剣も体の一部と意識すれば、そんな難しいことではないはずだ」


「体の一部……」


 手やワンドを使用して魔法を放つのが常識なら、剣をその代わりだと考えればいい。

 そうすれば、剣を収めることもなく魔法を放つことができる。


「なるほど……」


 エルヴィーノの説明を受けたフィオレンツォは、目から鱗が落ちたかのように感心しながら頷いたのだった。



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