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子連れの冒険者  作者: ポリ 外丸
第 1 章
24/104

第 24 話

「探すって言っても、どこへ向かったのか分かるのですか?」


 ソファーから立ち上がったエルヴィーノに、フィオレンツォは問いかける。

 フィオレンツォが盗まれた荷物は、小さめのリュックサックだ。

 その中には、ギルドカードや現金などを入れていた。

 一角兎の討伐なら日帰りで達成できると考えていたため、宿屋の予約もしていないため、このままでは野宿をするしかない。

 それに、ギルドカードの再発行するにも対価を支払わないとならないのだが、その場合にも資金が必要になる。

 ギルドに預けた資金はギルドカードの提示が義務のため、降ろすこともできないので再発行もできない。

 盗んだカミッロたちを探して荷物を取り戻してもらえるのなら、フィオレンツォとしてはありがたいが、探すといってもどこをどう探すつもりなのだろうか。


「大丈夫だ。ある程度絞り込んでいる」


「えっ?」


 東西南北どこへ向かっているのか。

 探知魔法で探すにしても、全方位へ向けて魔力を広げるのはいくらエルヴィーノでも骨が折れる。

 そのため、ある程度絞り込む必要があるのだが、エルヴィーノの中ではある程度絞り込んでいた。

 そのことを伝えると、フィオレンツォはどう絞り込んだのか分からず、呆けた表情で声を漏らした。


「西はヒアーサの町だ。そこの領主殿とは最近知り合いになった。ギルドから連絡を入れてもらえば、町に到着した時点で捕縛してもらえる」


「そ、そうですか」


 ヒアーサの町は、つい先日領主のボルグーゼ男爵の赤ん坊の誘拐事件を解決したこともあり、伝手がある。

 その伝手を使えば、兵による門前確認をするときに捕まえることができる。

 命を救われたこともあり、エルヴィーノが実力のある冒険者ということは分かっていたが、貴族とも付き合いがあるとは思っていなかったため、フィオレンツォは認識を改めた。


「次に北。フィオレンツォの出身地であるマディノッサ男爵領だが、もしかしたら奴らが荷物の中を見て、フィオレンツォがマディノッサ男爵子息と気付くかもしれない」


「どうしてですか?」


 フィオレンツォから、リュックサックの中に何を入れていたのかを聞いた時、いくつか保存食も入れていたという話だった。

 それを見たときに、カミッロたちはフィオレンツォの素性に気が付くかもしれない。

 そのことを伝えると、フィオレンツォはその理由を求めた。


「入れていた保存食は魚介類系が多いんじゃないか?」


「その通りです」


「だからだ」


 シカーボかの東と南は内陸。

 海産物の保存食もあることはあるが、基本的に肉系統が多いため、カミッロたちがフィオレンツォのことをマディノッサ男爵領子息と気付く可能性がある。

 計画を立てて実行するやり口を見ていると、頭の回転は良い方だろう。

 そのため、そのことに気づいたカミッロたちがマディノッサ男爵領へと行く可能性は他よりも低いと考えた。


「なるほど……」


 エルヴィーノの説明を受け、フィオレンツォは納得する。


「残るは東か南の2択だ。たしか、荷物の中にはちょっとした貴金属も入れていたって話だよな?」


 シカーボの町から東へ行っても南へ行っても、同じくらいの時間で町や村に着く。

 そんなに離れていなければ両方探しても構わないのだが、できれば時間は短縮したい。

 そのため、残った2択のうち可能性の高い方を優先したい。

 そう考えたエルヴィーノは、フィオレンツォに問いかける。


「えぇ、母が要らなくなった古いイヤリングです」


「……じゃあ、東だな」


「…………?」


 もしも、冒険者活動が上手くいかなかった時のためにと、フィオレンツォの母親は、彼に貴金属を持たせてくれていたそうだ。

 これを売って、少しでも資金の足しにするようにということだろう。

 それを聞いたエルヴィーノは、少し考えて答えを出した。

 またもその理由が気になったフィオレンツォは、ただ首をかしげるしかなかった。


「フィオレンツォが平民のことに疎いように、カミッロたちも貴族に関しては疎いはずだからだ」


 犯罪稼ぎをしているカミッロたちが、貴族とのかかわりがあるはずがない。

 そうなると、フィオレンツォが装備で貴族の子息であることを示していたことに気付かなかったように、カミッロたちが貴族のことを深く理解しているとは思えない。


「貴族が持っている貴金属ならどれも結構な値段がすると思っているはずだ。そうなると小さい村では買い取ってもらえないかもしれないため、村より町を目指すはず」


 その貴金属がどれくらいの値段なのかは、エルヴィーノにも分からない。

 しかし、平民の感覚からすると、エルヴィーノが言ったように貴族の持っていた品ならどれも高いのではないかと考える。

 カミッロたちもそのはずだ。


「町が近いのが東。だから東を優先して探す」


 東でも南でも、町や村への距離は同じ。

 しかし、南だと村で、東だと町。

 町に行くとなれば東だと、エルヴィーノは考えたのだ。


「もしも南に向かっていたら?」


「大丈夫だ。俺にはノッテがいる」


 エルヴィーノの説明は納得できる。

 しかし、南に行く可能性もなくはないため、フィオレンツォはその可能性を問いかける。

 それに対し、エルヴィーノは首を振り、近くの椅子の上に乗っているノッテの頭を撫でてあげる。


「ノッテには南へ飛んでもらう」


「ホ~!」


 空を飛べるノッテは、上空からカミッロたちを探せるし、何の邪魔を受けることなく最短距離を行き来できる。

 そのため、もしもエルヴィーノの方が空振りで、カミッロたちが南に向かっていたとしても捕まえるなり、足止めをすることができるため、ノッテに南へ飛んでもらうつもりだ。

 その考えに対し、ノッテは「了解!」と言わんばかりに返事をした。


「両方空振りだったときは、2人に頼む」


「あぁ」


「はい!」


 エルヴィーノとノッテが空振りの可能性もある。

 そうな多場合は、ボルグーゼ男爵とマディノッサ男爵に頼んで門前で捕まえてもらえばいい。

 そのことをエルヴィーノが伝えると、トリスターノとフィオレンツォは了解した。


「じゃあ、行ってくる」


「おう!」


「は、はい! お気をつけて……」


 説明を終えたエルヴィーノは一言告げる。

 そして、トリスターノとフィオレンツォの返事を受けると、扉を開けて出て行った。

 改めてすごい人に救われたのだと思いつつ、フィオレンツォはその背を見送ったのだった。



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