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子連れの冒険者  作者: ポリ 外丸
第 2 章
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第 101 話

「あぁ~……、やっと着いた」


 カンリーン王国内に潜入して誘拐事件を起こしていた者たちを捕まえ、ハンソー帝国内への侵入を開始したエルヴィーノ。

 闇魔法の影転移を使いこなせるエルヴィーノなら、長距離移動など大したことないのだが、影転移はあくまでも一度行ったことがある場所であるというのが条件だ。

 そのうち帝国内も旅行するつもりでいたエルヴィーノだったが、第一・第二皇子による帝位継承争いが勃発した。

 そのため、帝国内で転移できる場所は限られている。

 以前、カンリーン王国内の冒険者を攫って奴隷兵として利用していた第一皇子派のベーニンヤ伯爵。

 彼から奴隷兵を奪い取ったカジョー村が、今回の目的地に一番近かった。

 そのカジョー村に影転移してから、エルヴィーノは南南東に向かって突き進んだ。

 そして、ようやく今回の目的地であるイーノ平原が見渡せるジョーセイ山の北側の丘に辿り着いた。


「……あっちが第一皇子軍で、あっちが第二皇子軍か……」


 ジョーセイ山の北側に広がるイーノ平原の西から東に視線を向け、エルヴィーノは呟く。

 イーノ平原の西側は第一王子派閥のウルンパ領、東側は第二皇子派閥のユーオー領になっており、両軍が陣を敷いている。


「聞いた話だと、元々仲が悪かったって話だからな……」


 ウルンパ領とユーオー領は、 どちらもこの平原は自分たちの領地だと、前皇帝の時代から揉めていた。

 そして帝位争いが起こったため、両者はこの機に決着を付けようと考えているようだ。


『第一皇子は……来ていないだろうな』


 カンリーン王国内で、誘拐事件を起こしていた第一皇子の右腕となる闇の組織。

 その組織の一部を捕まえて尋問した結果、第一皇子は余程の事でもない限り戦場に顔を出すということはないという話だ。

 第一皇子として生まれ、自分が次期皇帝だと周りが言っていた。

 それを真に受け、第一皇子は幼少期からわがままに育ち、教育や武術をサボってばかりいたそうだ。

 そのため、大した戦闘力も戦術知識もなく、自分が戦場に行って危険に晒されることを極端に恐れている。

 そんな臆病者が、姿を現すなんてことはないだろう。

 魔力を目に集めて視力を強化し、エルヴィーノは第一皇子軍の様子を窺う。

 しかし、それらしい姿が確認できないようなので諦めた。


『……第二皇子は来てるか?』


 今回は誘拐事件を起こしていた闇組織の始末が目的だ。

 その命令をした第一皇子の姿もついでに確認しておきたかったが、思っていた通り期待できない。

 第一皇子が誘拐を命令したのは、第二皇子の子供がカンリーン王国内に匿われているという情報を得たからだ。

 第二皇子の子供と、第二皇子と浅からぬ関わりがある子供を養育している人間。

 その両方を人質とし、第二皇子を潰そうと企んでいたらしい。

 その第二皇子の特徴が、黒髪黒目だという話だ。

 第一皇子の姿が確認できないのなら、その第二皇子の姿が確認できないかと考えたエルヴィーノは、強化した目を東側の陣地に向けた。


『……こっちもいないみたいだな』


 第二皇子派閥筆頭はリハーナ公爵であり、第二皇子派その公爵領を拠点として活動している。

 その領地は、第一皇子がいる帝都からリハーナ公爵領からはそこまで離れていない。

 このイーノ平原に参戦している時に、帝都に残っている第一皇子がリハーナ領に攻め込まないとも限らない。

 リハーナ公爵領には充分な戦力が揃っているため、そう簡単につぶされることはないが、数で押し込まれれば損害は免れない。

 臆病者で知略の無い第一皇子がそんなことをする可能性は低いと分かっているが、取り巻きの貴族の中には、その策を進言する者もいるかもしれない。

 第二皇子派の最大拠点であるリハーナ公爵領に損害が生じたとなれば、第一皇子派に寝返ろうと考える貴族たちも現れるかもしれない。

 そうならないためにも、このイーノ平原に姿を現すことは低いと思っていたが、やはりいないようだ。


『本当にオルの父親だったら、顔を見れは誰か分かったんだがな……』


 いきなり自分の家の前に置かれた赤ん坊のオルフェオ。

 その特徴は黒髪黒目。

 第二皇子も同じ特徴をしており、その特徴を受け継いだ赤ん坊を第一皇子は探していた。

 帝国内の情勢が悪くなり出した時期と、自分がオルフェオの面倒を見るようになった時期は同じ。

 「何で第二皇子が?」という疑問が頭に浮かぶが、「もしかしたら……」という考えもある。

 第二皇子の顔を見て、知り合いなのか、知り合いでなくてもオルフェオに似ているかどうか確認したかった。

 しかし、本人がいないのではそれも確認できないため、エルヴィーノは少し残念そうに溜め息を吐いた。


『まぁいいか、目的は……』


 エルヴィーノは、もう一度西側の陣に視線を戻す。

 陣の中にはウルンパ伯爵がおり、その近くにいる黒装束の男たちがいる。


『あいつらだ!』


 その男たちの出で立ちは、カンリーン王国内で誘拐事件を起こしていた者たちと酷似している。

 今回帝国に潜入した標的だと確定したエルヴィーノは、どうやって仕留めるかを考えながら、遠く離れた場所で密かに笑みを浮かべていた。



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