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プロローグ

 「えーっと、詩人の募集一覧はと」

 ここはとある町の中の冒険者ギルドの中。

 パーティ仲間が欲しくて今日も今日とてパーティメンバー募集の掲示板を見てみる。

 掲示板には様々な職業の募集中と書かれた紙が貼られていた。

 『来たれ戦士!俺たちと冒険しよう!』

 『魔法使い募集中。初心者でも可』

 『臨時でレンジャー募集。身軽な人限定』

 ほかにも様々な職業が貼られていたけど詩人は残念ながら一つも募集はされていなかった。

 うー、ここの冒険者ギルドでも駄目かぁ。

 もっと大きなギルドに行かないとやっぱり難しかなぁ。

 冒険者の職業として一番人気があるのはやっぱり魔法使いなのよね。

 でも魔法使いになりたくとも魔力がなければなれないわけで、人気職といってもなれるのはほんの一握りだけ。

 あとは戦闘力のメインとなる戦士や剣士、武闘家などは体を鍛える必要は必ずあるけどパーティに必要不可欠な存在といえるだろう。

 あとは手先が器用な盗賊とかね。

 でも盗賊は相手をよく見極めないと大変なことになる時もあるから気をつけなくちゃいけない職業第一位といえるだろう。

 盗賊の何が大変なことになるかというと、それは主に盗みだ。

 相手を油断させておいて荷物やお金を盗んだりとかね。

 意気投合して一緒に酒を飲み眠りにつきさあ朝だと思ったら荷物もお金も全部盗まれたまま放置されたという話は結構聞いたことがある。

 すべての盗賊がそうではないので、先にも述べたように相手が信用に足る人物だと見極めれば良き相棒になってくれるだろう。

 ほかにもたくさんの職業がある中で当然不人気職というのも出てくる。

 その中でも詩人は格段に人気がなく、なる人も少ないしパーティを募集してくれる人もほとんどいない。

 詩人に就く人は人並外れて美人な人が多いと聞く。

 それに比べてあたしはどうだろうか。

 真っ白な髪を肩までのボブヘアーにしていて目は黒曜石のような黒というどこでもありふれた姿で、別段絶世の美女というわけでもない。

 そんなあたしがよく詩人などという職業につけたなという人は多いだろう。


 あたしの名前はアキ・ピアス。歳は十六歳。

 あたしの故郷はメヴィウス人といって美人ばかりが生まれる人種の人たちが暮らす土地だったの。

 でもその中でなぜかあたしだけ普通の人間と同じ、つまり美人でも何でもないごく普通の容姿で生まれてきた。

 当然美人ばかりの中であたしの存在はかなり浮いた存在だった。

 ただ一つ、ほかの人には持っていなかったものがあった。

 それは歌声が並外れて奇麗だったこと。

 小さいころから本当に歌声だけは奇麗で、あたし自身歌を歌うのが大好きだった。

 でもそんなあたしに目を付けた人物がいたの。

 それはあたしの祖母だった。

 話によるとあたしの曾祖母は絶世の美女でその上美しい歌声の持ち主だったそうな。

 家族の中でその歌声を受け継いだのは普通の容姿で生まれたあたしだけだった。

 祖母は厳格な人で小さいころから苦手な人だったけど、あたしの歌の美しさを聞いてある日あたしにこう言ってきた。

 「いいですかアキ、あなたは曾祖母の血を濃く受け継いだ素晴らしい歌声の持ち主です。その歌声をさらに鍛えて我が一族に伝わる魔法を受け継ぐのです」

 もちろん厳格な祖母の前ではあたしの言葉なんか無意味で、どんなにつらくても苦しくても弱気な言葉なんか聞いてもくれなかった。

 あまりにも歌のレッスンが厳しすぎて何度もう歌うのをやめてしまおうかと思ったかしれない。

 でも、祖母のレッスンは確かに身になっていってあたしはけっこうな歌声の持ち主へと成長していったのだった。

 でも二年前、とうとう祖母の厳しい歌のレッスンに耐えられなくなったあたしは一族に伝わる魔法【歌魔法】を習得すると同時に家を飛び出した。

 このままじゃ本当に歌を歌うこと自体が嫌いになってしまいそうだったから。

 家にいられないということはもちろん故郷の町にもいられないということで、あたしは十四歳で慣れ親しんだ故郷をあとにしたのだ。

 その後のことはどう説明していいか分からないほど大変な生活を強いられた。

 女の一人旅というのがどれだけ大変なことかを知らなかったあたしは、何度も何度も危険な目に遭った。

 ある時は野党に身ぐるみを剝がされそうになったり、またある時はモンスターの集団に襲われそうになったり、ひどいときは奴隷として売られそうになったりもした。

 でもその時その時どうにかこうにかして逃げ延びていき、一人で生きていく術を段々と覚えていくことが出来ていった。

 だいぶ旅になれそこそこの力を身に着けたあたしは、ある町で冒険者いう職業があることを知ったの。

 そこからは冒険者になるのは早かったと思う。

 結構な大きさの都市にたどり着いたときはじめて冒険者ギルドの門をたたいた。

 冒険者としてのある程度の知識を覚える必要があったから、二か月間予備校に通い必要な知識を手に入れてから冒険者としての道を歩むための試験を受けた。

 あたしには【歌魔法】という魔法があったからその魔法で実技試験に合格して晴れて冒険者としての道を歩くことになったのだ。

 職業はギルドマスターからの太鼓判をもらい、詩人としての道を歩み始めたのだった。


 見た目は普通だったけど、歌声のおかげで詩人という職業に就くことが出来たのよね。

 歌のレッスンのおかげで本当に歌声は素晴らしいものになったけど、もうしばらくは故郷に帰る決心はつかなそうだ。

 さてさて、ここでも詩人の募集はないことは分かったしそろそろ移動するか何かクエストを受注するかしないとね。

 今度はクエストが貼られているクエスト掲示板に移動する。

 ほかにも冒険者は結構いて、クエストが書かれた紙を見るのにはちょっと大変そう。

 背伸びをしたり人の間から掲示板を見ようとして奮闘していると斜め前にいた冒険者の一人とぶつかってしまった。

 「あ、すみません」

 すぐさま謝ったというのにその冒険者は文句を言ってきた。

 「おいおい、ここはなぁ俺様の指定席なんだよ。ここらへんじゃ見たこともないようなよそ者がウロウロしていいところじゃねえんだ」

 なにこの人、こっちがもう謝ったっていうのにいちゃもんつけてくる気?

 「あの、さっきも謝りましたよね? それに冒険者は一所に集まる人たちとは限らないじゃないですか。あたしのほかにもあなたが言うよそ者はここにだってたくさんいると思いますけど?」

 あたしが反論するとは思ってなかったのか相手の男は目をかっと見開いた後憎々し気にこちらを見てきた。

 「ああ!? 女ごときが俺様に偉そうなこと言ってんじゃねえよ!!」

 「いえいえ、本当のことですし。あなたの前にも女性の冒険者はいますよ? あんまりそういったことは言わないほうがあなたのためだと思うんですけど」

 男が周りを見るとほかの冒険者たちが迷惑そうな顔でこちらを見ている。

 まったくもう、変なことで文句を言わないでほしいよ。こっちだって好きであんたの後ろになったわけじゃないんだからさ。

 あたしが深々とため息を吐くと、今度はそれが気に食わなかったのかさらに食って掛かってきた。

 「う、うるせえ!! だいたいてめえがぶつかってきたのが悪いんだろうが!!」

 「そうですね。でもあたしはすぐ謝りましたよね? これ以上絡むのはやめてくださいよ。他の方にとってもいい迷惑です」

 するとほかの冒険者たちも周りから男を非難し始めた。

 「なにあいつ、女の子一人に食ってかかちゃってさ。みっともないとか思わないのかしらね」

 「女だからっていうだけでバカにしないでほしいわよね」

 などなど、周りの女性たちからひそひそと言われ始めてしまった。

 「うるせー!! ちくしょー!! てめえのせいだぞ! このやろーこっちこいや!!」

 男は逆切れした上掴みかかってきたからたまらない!

 「い、痛い! 痛いですよ! もういい加減にしてください! こっちも黙っちゃいませんよ!!」

 「できるもんならやってみやがれ!!」

 完璧に頭に血が上ってるなこの男。

 しょうがない。これ以上は付き合ってられないもんね。

 あたしは何度か深呼吸をする。

 のどの調子は良さそうだ。

 「【歌魔法咲き誇るは美しき花しかし軽々しく触れるならば大きな痛手を負う跳ね飛ばしの歌】」

 歌った瞬間男は弾き飛ばされほかの冒険者たちが座っていたテーブルに突っ込んでいった。

 「おいこらてめえ!! こっちまで来て迷惑かけんじゃねえ!!」

 弾き飛ばされた男はそこにいた他の冒険者たちに哀れにもタコ殴りにあってしまったのだった。

 ふう、こんなところで【歌魔法】を使うことになるとはね。

 今のは触れた相手を跳ね飛ばすという歌の題名そのまんまの魔法だ。

 小さい力で結構な威力があるから使い勝手がいいのよね。

 これがあたしが死に物狂いで手に入れた魔法なの。

 歌を歌うことで魔法が発動する【歌魔法】。

 あたしはこの魔法を使って戦う詩人なのだ。

 

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