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〜after story 3〜


(一発勝負でいこう)


痛みはあるが、今回のランウェイは往復でもそれほど距離は長くない。


(……耐えられる)


今回着用のドレスは裾が広がっているため、比較的歩きやすいデザインだ。ただ上半身は細身のデザインのため、身体のラインははっきりとわかってしまう。だから、足が痛いからと言って、変な動きはできない。


ひなたは、深く深呼吸をした。新鮮な空気を肺に入れたかったが、強烈なスポットライトのせいで、空気は生ぬるく、微細な塵が無数に舞っているのが見える。


(耐えてみせる)


右手首に巻いたピンクリボンをそっと触る。

乳がんを二度、患った。地獄のようにきつい治療に耐え、そして乗り越えてきたと言っても許されるなら、それこそ自信を持って大声で叫びたい。

生きたい、と。

けれど、それは。

自分一人のものではない。支えてくれたのは家族であり、友人であり、そして。


(匠さん、)


ひなたが大同の名を呟く。その名を呼べば、心が太陽を欲する向日葵のように、真っ直ぐを向いてくれる。


(私にとって、匠さんは……)


舞台袖から踊り出る。

ひなたはランウェイを歩き出した。

顔を上げると、太陽のように光を放つスポットライト。視界は途端に、光の中の世界に包まれる。


大同の顔は見えやしないが、この広い世界の中で必ず、自分を見ているはずだ。


(匠さんは……私の太陽だ)


ひなたは、足を一歩一歩、噛みしめるようにして進めた。


✳︎✳︎✳︎


様子がおかしいとは思っていた。大同はこの日、客席の一番前を陣取っていた。ヒナの出番を待つ間、会議やパーティーなどでは平気で大演説をもいとわない大同が、そわそわと身体のあちこちを揺らしていた。




『ヒナ』復活の日の前日、大同の会社はちょっとした歓喜に包まれていた。


「うそだろ、マジでか。お前らあ、やってくれたなあ」

「まあ、社長にはいつも、俺らお世話になってるんで……大同社長の代わりにマキタの件も処理しておきました」


部下である相葉と馬場が、満面の笑顔でエヘヘと頭に手を当てて、はにかんでいる。


「待て待て、俺、こんなことされたら泣いちゃうだろ」


二人の部下が率先して仕事を片付け、大同に休みをくれたのだ。それも、ひなたのショーの日が明日へと迫るまで内緒の、サプライズだった。


午前中に仕事を切り上げて、ショーまでには間に合う予定ではいた。けれど、マキタ産業との打ち合わせの件では、その午前中の準備に少し時間がかかるかもな、と気を揉んでいたのも事実だった。


「マジでやめて〜、こんなことしてくれなくても全然休むつもりだったけどもー」


両手で恥ずかしげに顔を隠す大同の姿を見て、他の社員も満足そうに笑う。


「あはは、さすが溺愛社長。でもまあ、心置きなく行ってきてくださいよ。ヒナちゃんのショー」

「おうっ、ありがとなー。精一杯、応援してくるなっ」


そして、今日。

関係者のフリして入った舞台裏。ちょうど控え室から出てきたひなたに声をかけようとして、やめた。


元々、表情の薄いひなたではあったが、今日はいつもより引きつった顔をしているように見えたからだ。


(具合でも悪いんかな)

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