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この世界の白と黒の狭間に


笑いながら、スマホを差し出す。すると、ひなたもスマホを近づけてきた。

お互いの連絡先の登録が完了すると、ひなたはポチポチと入力を続けていく。


「俺の名前、入れてくれた?」


スマホをかざして、ずいっと見せてくるので、覗き込んでみる。

と、画面には『代表取締役』。


「あははは、こりゃ面白えっ」


大同が腹を抱えて笑う。その笑いで、さっきから聞き耳を立てているであろう周りの社員らが、一様に怪訝な顔になった。中にはつられ笑いをする社員もいる。


けれど、大同は人の目を気にしない。その豪快さが、人をも惹きつけてもいる。


「ははは、はあああ、笑いすぎた。腹痛てえ」

「…………」

「君ってほんと、イイねえ」


大同がそう言うと、ひなたも顔を歪ませて、少しだけ笑った。小さな笑顔を見て、気分が上がる。喉の渇きを覚え、グラスの水を飲んだ。


「この勢いで訊いちゃうけど、それってウィッグだよね?」


軽く指さす。


「はい、そうです」

「オシャレだね、すごく可愛い。元の髪型はショートなのかな?」


少しだけでも笑った顔が見れて嬉しくなり、大同は自分が舞い上がるのを抑えることができなかった。これっぽっちのひなたの笑顔で、ここまでテンションが上がるとはと、正直自分でも不思議に思うくらいだ。高揚する感情のままなんの気なしに、そう問いかけた。


すると反対にひなたの顔が、みるみる無表情に戻ってゆく。


そして、自分の髪に手を伸ばして、ぐいっと掴んだ。


「え、」


社員食堂の周りの人たち。息を呑む音や、あっという驚きの声。

どよめく空気。


世界の、白がいきなり黒になったような。そんな感覚に、大同は陥った。その衝撃。大同も知らず知らずのうちに、驚きの声を上げ、目を大きく見開いていた。


ひなたの頭は、短く、短く、五分刈りほどに切り揃えられていた。

高校野球の球児のように、ほぼ丸刈りの坊主に近いものだった。


「ほら、ショートですよ」


無表情で言うと、ウィッグを元のように手早く被り、髪を手櫛で整えると、カバンを持って立ち上がった。

その冷ややかな顔が、大同の胸に冷たく刺さった。


「今日は本当に、ごちそうさまでした。唐揚げ、すごく美味しかった」

「あ、ちょっと待っ」


おろっとしながらも慌てて大同が立ち上がると、「ここで、大丈夫です」

そう言って、中腰の大同に背を向けると、ひなたは食堂を後にした。


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