表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/84

家族


ひなたは自分がよく連れていってもらった家族旅行を思い出した。家族との旅行は、ほっと安心するのと同時に落ち着けて居心地がいい。

けれど、恋人との旅行は。

ドキドキすることもあり、じんと胸が熱くなることもある。

繋いだ手を、少し握り返す。

振り向いた大同に、ひなたは微笑みかけた。


(……匠さんだって、結婚したいに決まってる。結婚して、そして子どもが産まれて……男の子なら匠さんみたいにやんちゃで、女の子ならきっと、)


胸が。喉が。そこでつかえたような気がした。


(溺愛して親バカになってすごくすっごく、甘やかしちゃうんだろうな)


繋いだ手の大きさ。包まれる、温かさ。少し前を歩く時、斜め後ろから見る横顔。高い鼻、やんちゃに笑うと盛り上がる頬、その頬に少しだけ、皺が走る。


「……ごめんな、ひなちゃん」


ふいに大同が言い、ひなたはその斜め後ろから、大同の顔を見た。


「え? なんでですか?」


謝りたい、という気持ちになっていたのは自分の方だった。それなのにいきなり大同に謝られ、なぜ? と思う。


「いやあ、チェックインの時な」

「はい、」

「嫌な思いをさせちまったなあって」


チェックインの時?

大同が名簿に名前を書き、自分がその下の空欄に名前を書いた。違う苗字と見た目にもわかる歳の差。一瞬受付の男性の顔が引きつったように見えた。


「完璧に、俺ら不倫って思われたな」

「そんなっ」

「俺は気にしねえから別にいいけど、ひなちゃんに悪かったなあって思って、」


ふいにひなたの喉奥から熱いものが込み上げてきた。


(……ああ、この人は本当に、)


「ひなちゃんはまあモデルで有名だから、事務所の社長と所属モデルの不倫ってな感じに取られたかもな」

「有名なんかじゃない。そんなことない……です。それに私、気にしないから。他人にどう思われようが、別に平気です」

「ふは、」


大同が吹き出す。


「ひなちゃん、そういうとこな。初対面でウィッグ取っちまった時も、マジ面食らったしな! ほんと強えぇ」


ひなたはひなたの手を握った大同の手に力が入って揺れたのが、大同の意思のような気がして、少し複雑な気持ちになった。


(ううん、匠さんの方が、強い……強くて、そして優しい)


相手を思う気持ちの強さ。家族を持てばきっと、大同はその存在を必ず守り抜くだろう。


ごめんなさい。


さっきまで胸の内にあったその言葉と気持ちは、ひなたの内側へと押し込められた。


(……わ、私じゃ、)


家族というものを作ってあげられない。


続く言葉も、虚しい胸の中へと閉じ込めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ