表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/84

許すことはできない


「……ちょっと待って、それ反対してもいい?」


大同が、鍋に入れるネギを切りながら、キッチンで声を上げた。もともと声は大きい方だが、怒りで腹からの声が出てしまった。少し躊躇してから声を抑えた。


「……いや、そりゃ、俺としては賛成できんでしょ」

「……やっぱり、そうですよね」


俯き加減で、隣で白菜を洗うひなたが、頷いた。ほんのり笑っている口元の様子を見ると、反対されて当たり前だとどこか思っていたようだ。少しほっとする。


(鮫島のやつ! くっそムカつく仕事、持ってきやがって)


「ひなたちゃんってば肌綺麗だよねえ。透明感っての? 今度ヌードでも頼んじゃおっかな」


カメラマンの鮫島が軽く、ひじょーに軽く言った言葉が蘇ってくる。


(あのヤロウ、俺、あん時ちゃんと怒ったよな? あいつ、完全に俺のこと、無視しやがって)


ネギをだんっだんっと乱雑に切り、そしてひなたから受け取った白菜をも雑に切った。


「断ります」


その言葉を受け取りながら、無言で白菜をひたすら切る。そんな大同を見かねてか、ひなたが話を続ける。


「乳がんの方たちの励みになるのかなと思ったんです。ほら、よく妊婦さんが写真撮ってるみたいな、あんな感じで。傷だけを薄い布か何かでベールのように隠して、」

「あとは、ヌードだろ」

「下は、もちろん隠すって、鮫島さんが……」

「そういう問題じゃねえ」


大同は、まな板の上に包丁をバシンっと置いた。


「顔も名前も知らない、どっかの癌患者のために、そこまでしなくていい」

「そうですよね……やっぱり、誰も傷跡なんて見たくな、」

「ひなちゃんっっ」


大同は、ひなたへと振り返って、大声を上げた。


「俺はそんなことを言ってるんじゃねえ。傷跡がどうとか、そうじゃなくって、俺は俺の大切な恋人の裸を、人前に晒したくねえだけなんだよ」

「……匠さん」

「ああ、もうっ! 鮫島のヤロウ、今度覚えておけよ、くそっ」

「…………」

「そりゃ、乳がん患者のためにっていう、ひなちゃんの気持ちはわかるけど、」


ひなたは次にシイタケのパックを破る。


「いいんです。やっぱり断ります」

「ひなちゃんがやりたいっていうのを無理矢理止めさせることはしたくねえけどさ」

「ううん、いいんです」


取り出したシイタケを洗う。

手から一つポロンと落ちて、シンクに置いてあった水切りボウルの中に転がった。ひなたが、それを拾って、再度洗う。


「私だけの身体じゃないから」

「え?」


ひなたが言っている言葉の意味がわからず、大同がおろ、と揺れた。ひなたがくすっと笑い、大同へと振り返る。


「だって、私の身体の半分は、匠さんのものでしょ? だから、相談したんです」


ぶわっと、愛しさがせり上がってきた。


「ひ、ひなちゃん、」

「ちゃんと断るから安心して?」


シイタケをまな板へと乗せてくる。


「ほら、早く切ってください。転がってっちゃう」


そのいたずらっ子のように言う表情が可愛くて、大同はまな板を奥へとずらすと、ひなたを横から抱きしめた。


「……うん、ひなちゃんは俺のもんだからな」

「うわ、匠さん、濡れちゃう」


水で濡れた両手を、ぴっぴっと払ってタオルで拭く。身体の向きを大同へと向けると、ひなたは大同の背中に両腕を回した。

少し離して、キスをする。


「んー、ひなちゃんは、俺のもん」

「ん、その代わり匠さんの半分も、私にくださいね」

「俺はもう、全部あげちゃうからな。太っ腹だろ? ほら、ちゃんと抱えてみ」


大同が体重をかけながら、身体を預けていく。


「俺は重いぞ。ほら、ちゃんと持って。全部やるから、全部抱きとめてくれよ」


ちゅ、と重なった唇が鳴る。


「ふふ、胸がいっぱいかも」

「はは、じゃあ鍋食うの、後にしよう」


大同が、ひなたの首筋に唇を滑らせていく。


「匠さん、鍋、鍋の火、切らなきゃ」


するっと、大同の両腕から逃げて、リビングへと入る。

ひなたは、ガスコンロにかけてあった鍋の火を切ると、キッチンへと戻ってきて、大同にがばっと抱きついた。


ひなたを抱き締める。ひなたを抱き締めながら、そういえば昨日、同じようなことがあったな、と思った。

思い出すと途端に軽い怒りと苦味が蘇ってきて、苦く笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ