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溺愛



「モデルの仕事を、もう少しやってみたいと思って」

「…………」

「匠さん、」

「……賛成するよ、するってば!」


みんなの冷たい視線が刺さる。

この日大同は、ひなたとともに鹿島と小梅を含む四人で、会社近くのレストランで食事をしていた。


ひなたと付き合うようになって大同は、さっそく鹿島に紹介し、その恋人である小梅に引き合わせていた。それは、小梅が看護師であるということもあり、病気について何か相談したりできる、距離の近い友達になってくれればいいと思ったのもあった。


「なんだ、俺は小梅ちゃんを紹介するおまけ、みたいなもんなのか」


後に鹿島にそう噛みつかれたが、大同はふんと鼻を鳴らす。


「まあな。俺は小梅ちゃんとひなちゃんがいい友達になってくれればと思っている。だから、鹿島。お前は二人の邪魔しねえようにな」

「俺も仲良く……」

「ならなくていいっ」

「羽多野くんが呆れて言ってたけど、お前マジで溺愛だな」

「ああそうだよ、でもそれがどうした。何か文句でもあるのかよ?」

「開き直りやがって。はああ、文句なんて別にねえよ」

「ならそれでいい」


最近、鹿島が誘うパーティーも必要不可欠なもの以外は不参加を決め込んでいるし、そこら中の部下にも自慢しまくるので、あの大同が腰を落ち着けたぞ、と噂がすぐにも広まる始末。


「牙を抜かれたオオカミ、ってみんなが言ってるぞ」

「なんとでも言え。もう遊ぶとかねえから、お前も変なことひなちゃんに言うなよ」

「マジか」

「ああ、マジだ。嫌われたくないし、絶対にフラれたくない。だからおちょくんのも禁止。わかったな!」

「お、おお」


あまりの迫力でクギを刺してくる大同に、上から目線過ぎて気にくわない、と鹿島は食傷気味だ。


「あのCM見ました。ひなたさん、カッコイイですねえ」

「あ、ありがとうございます」

「正体不明のモデル、ヒナが目の前にいるだなんて、本当にすごいことですよ。後でサイン貰わなきゃ」


小梅が飛び上がりそうな勢いで、はしゃいでいる。


「正体不明て! 小梅ちゃん相変わらずおもしれえな」


大同に言われて、えへへと笑い、そんな小梅の姿を見守る鹿島も、にこにこと笑顔を浮かべている。


(あーあ、だらしねえ。自分こそ骨抜きじゃねえか……でもまあ、かく言う俺もこんなゆるい顔になってんだろうな)


大同は、目の前にあるワイングラスを取ると、半分ほどに減った赤ワインを一気に口に含んだ。


「ひなちゃんは大同のどこが良かったの?」


鹿島が問うたのを見て、大同が飲んだワインを吹く勢いでむせる。鋭い視線をやった。


「おい、鹿島。余計なことを言うんじゃない」

「別にこれくらいいいだろう?」

「お前は口出すんじゃねえ」

「なんだよ、こういうことはお前、絶対に訊けないだろう。だから代わりに俺が訊いてやってるんじゃないか」

「……どうして、訊けないんですか?」


小梅が、首を傾げながら問う。


「こいつ、意外と臆病でさあ」

「おい、鹿島」

「相手がどう思ってるかとか、意外と自分の評価が気になるたちなんだ……小さい男だろ」

「鹿島、後で覚えてろ」


ひなたがふふ、と吹き出した。その様子を見て、鹿島と小梅が満足そうに笑う。それほど、ひなたの笑顔はレアもの扱いだ。


「匠さんは、折り目正しい、きちんとした人です」

「「えっ!」」


鹿島の声より、小梅の声の方が跳ねて、大同の顔が歪んだ。


「まったくもう! 小梅ちゃん! 小梅ちゃんの俺基準、いったいどうなってんのー」

「す、スミマセン」


申し訳なさそうに、首をすくめる小梅を見て、ひなたは柔らかく笑った。


「……初めて会った時、食事を奢ってくれたんですけど、」


社員食堂で、唐揚げ定食をご馳走した時だ、大同は思い出していた。


(自分ではわかんなかったけど、あの時にはもう、ひなちゃんのことが好きになってたんかもな)


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