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傷跡


「ふふ、白い。雪みたい」


揺れに任せて、ひなたもゆらゆらと揺れる。

そのうなじは、今まで遊んできたどの女よりも陶器のように滑らかで、そしてそれは長い髪によって隠されていない。浴室の抑えた灯りに照らされて白く、どこまでも白く、大同の唇を誘う。

その無意識の誘いにどうしても抗えなくて。何度も何度も口づけてから、大同は腕に力を入れてひなたを抱き締めた。

(ああ、……)

胸がいっぱいになり、喉元までにせり上がってくる。今までに経験したことのない、何と表現していいかも分からない、激情。


「好きだよ、ひなちゃん。信じて欲しい、俺を信じて。遊びとかナンパなんかじゃない、真剣なんだ。本当だよ。俺と付き合ってくれ」


必死な声が出て、少しだけ羞恥。いい大人の男が、気持ち的には土下座すらいとわない勢いで、ひとりの少女を真摯に口説いている。

けれど、大同はなりふり構わず、繰り返した。


本心を、

この心を、

ひなたに知って欲しかった。


「女の子とかの連絡先、全部消すし、もうナンパなこともしない」


ガキか。

そう思うが、止められない。


「もちろん、スナックも行かねえしホストクラブだって行かせねえから」


これには、ひなたも身体を揺らして笑った。


「ふふふ、スナック……また連れてってくださ、い、」

「必要ない」ひなたが言うのを遮って、ぴしゃりと言う。

「俺にも必要ないし、もちろんひなちゃんにも必要ない」

「大同さん……」

「他の男とあんま喋んねえで欲しいし、そうそう、鮫島なんかの言うことも聞かなくていい。羽多野はもう結婚してるし、あいつ中身もおっさんでモテないからいいとして……」


斜め後ろから見た、緩むひなたの頬。


「あと水族館っ! 水族館ももう一回行ってリベンジしたいし、遊園地とか映画とか、美術館とかお化け屋敷とか、」


小刻みに揺れる背中で、ひなたが一生懸命、笑いを堪えているのがわかる。


(ひなちゃん笑ってる……あー何だこれ、すげえ……嬉しい)


白いうなじに唇を這わせながら、大同はさらに畳み掛けた。


「で、美味しいもんも一緒に食べたいし、……酒っ、酒も飲みたいっ!

飲めるでしょ、飲めるよねっ」


勢い余って、うなじをがぶりと食べる。


「ふは、くすぐったい! ちょ、飲めます、飲めますってばっ!」


胸の傷跡に手が当たらないように、注意深くひなたの前に腕を回す。


「なあ、本気なんだ。すげえ、好きなんだ。俺、本気で、……」


想いがどんどんと喉元からせり上がってくる。それと同時に、じんっと目頭が熱くなった。

会いたいのに会えなかった日々が、拷問のように大同にのしかかってくる。今までにこんなにも恋焦がれ、離別が辛いと思ったことはなかった。

初めて。

大同は、泣きながら想いを伝えた。


「……好きだよ、好きなんだよ、好きなんだ、」


何度も繰り返す、その言葉に。


「私も、です」


大同の膨れ上がった想いが、報われた瞬間だった。


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