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大丈夫


「ひなちゃん、具合はどう?」


そして。

その淡い色の瞳から、涙が零れた。


「大丈夫、生きてます」


もう一つ。ぽろ、とスローモーションのように涙が零れ落ちていく。

それでも、ひなたは笑った。


『笑ってる方がいいに決まってる』


水槽を優雅に泳ぐ、笑うエイを前に、ひなたはそう言った。

その言葉を。

実行しなければという、強い意志がひなたを突き動かしている。

そして、ポケットに両手を突っ込んだまま、ひなたはゆっくりと大同に向かって歩き始める。


「大同さん、この前はごめんなさい……私、」


一歩一歩地面を踏みしめながら、真っ直ぐに向かってくる、その力強さ。真正面に大同を見据えている、ひなたの瞳。


(ああ、俺は。ひなちゃんのこの姿に惚れたんだなあ)


そう再認識した途端、大同の身体もつられて動いた。


一度フラれているというのに往生際が悪い、頭ではそう苦く笑うのだが仕方がない。ひなたを好きだという衝動に、身体が応えてしまうのだから。


(……ひなちゃん、君が好きなんだ)


歩いてくるひなたを迎え入れようと、手を広げる。

すると、ひなたが。

大同が、誰をも受け入れてきて、そして誰をも入れてこなかった場所に。

そのまま、するりと入り込んでくる。

ひなたの、小さな身体が大同の腕の中にすっぽりと収まった。


(ああ、やべえ)


髪に顔を埋める。ぶわりと何かが湧き上がってきて、その感情は大同の身体を包み、そして小刻みに揺らしていく。背中に回した手のひらが、自分でもわかるくらいに震えた。

大同はそれを隠すように、ひなたを両腕で抱き締めた。


「……ひなちゃん、君は俺の……大切な人だ」


言葉を選んで呟くように言うと。


「私も、です」


頬にあたっていたひなたの短い髪が震えて、少しくすぐったかった。


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