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笑顔の裏には


家は知っていたが、家族がいると思うと、インターフォンを鳴らすのも、勇気がいった。

ひなたには釣り合わないだろう自分を考える。

鹿島が小梅に手を伸ばすのを躊躇していた時、歳の差や財力なんて大した問題じゃないと思っていたのに、いざ自分となるとこうも足がすくむものか、と情けなく思った。

メールをしつこく送るのも、できなかった。面倒くさいおじさんだ、と思われたくなかった。


大型ビジョン。

そこで、こうして偶然に会えるのを期待して、時間の許す限り何度も何度も足を運んだ。


(そんで、ようやく……)


ようやく会えたというのに、何を言って声を掛けて良いのか、わからないとは。

ひなたは、まだ大同には気づかずに、じっと見つめている。

そこに映る自分を。


(……ひなちゃん)


その、少し懐かしい横顔。


五分刈りだった髪がちょっとだけ伸びて、今はベリーショートだ。シルバーに染めた色は、色が落ちたのか落ち着いたのか、今では少しくすんだグレーになっている。


『りく』で購入した商品の中で、ひなた自身も気に入っていた丈の短いジャケットを着て、そのポケットに両手を突っ込みながら大型ビジョンを見上げている。プリーツの黒のスカートが風になびいていて、その細い足を隠している。鋭いブラックと鈍いレッドの対比に目を奪われた。


大同は、数回、浅く呼吸した。心臓の鼓動が、早まっていく。足をなんとかして動かし、ひなたへとゆるりと進むと、意を決して口を開いた。


「……自分のこと、見てんの?」


そう声を掛けると、ひなたはゆっくり顔を大同へと向けた。

そこには驚きも、そして喜びもない。

完璧なまでの、鉄面皮。そして、直ぐに。大型ビジョンに顔を戻す。


「この時が一番、笑ってたから」


思いも寄らぬ言葉が出て、大同はぷっと吹き出した。


「あれでか。さすがひなちゃん、相変わらず面白えなあ」


すると、ひなたがふふっと笑って、もう一度大同を見た。

ひなたは。

悲しそうな顔で、笑っている。

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