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会いたいのにそれは叶わない



「大同さん。要さんって、まだあの子と付き合ってるんですか?」

「まあ、そうだね」

「ふーん、そうなんですね」


すぐ別れると思ったのに、とでも言いたそうな顔だ。

大同は今日、鹿島が小梅を連れてこなくて正解だったと、胸を撫で下ろした。とは言っても、今回のパーティーは、社交性の少ないものなのでパートナーは女性でなくてもいい。

小梅とこの花奈の間には、以前一悶着あり、花奈が小梅に向かって暴言を吐いたことがあると、鹿島から聞いていたから余計にそういう社交場でなくてよかったと思った。


(しかし、こんな美人が暴言とはね)


けれど。


「あんな貧乏くさい子のどこが良いんだか。物珍しさで付き合ってるんでしょう? そのうちあの子の化けの皮でもはがれて、要さんの目も覚めると思いますけど」


その言葉で一転した。自分より格下だと卑下する女に男を横取りされたという悔しさを、こうして暴言にすり変えているのか。人間の優劣を金を持っているかどうかでつけようとする思考が、透けて見えた。


(別れて正確だな。鹿島も見る目は正しかったってわけだ)


まだ鹿島に未練がありそうな花奈を横目で見ながら、大同は注文したカクテルが出来上がるのを待った。


「ねえ大同さん」


驚いた。

花奈がもっと近くに身体を寄せてきて、「大同さんはお付き合いされている方はいらっしゃらないの?」と訊いてくる。


もともとモデル体型で背の高い花奈よりは少し身長で勝っている大同の目からは、こうして横に並ぶと花奈の大きく開いた胸元がよく見える。豊満で艶かしい胸の谷間に、大同はちらと視線を寄せた。


(次なるターゲットは俺ってか。凄えテクニックだな)


ひなたのこともあり、今までこうしたバストやくびれたセクシーな腰つきに重きを置いてきた自分が、金に価値を置く花奈と同類の人間に思えて、危うく自分を軽蔑してしまうところだった。


心で色々と考えながら、大同は視線をバーカウンターの中でカクテルを作るバーテンダーに戻した。


「いやあ、俺は寂しい干物生活を送っているよ」

「あら珍しい。大同さんはちょっと選り好みし過ぎなんじゃありませんの?」


カウンターに乗せていた腕に手を掛けられる。その手には、大きなダイヤモンドの指輪がはまっていた。


(ひなちゃんの方が……ひなちゃんの方がよっぽど、このダイヤより輝いている)


そう思うと、途端に胸が絞られるように痛んで、そして会いたくなった。

いつもなら。

腕に掛けられた手を、反対の手でそっと握る。会場の隅へと引っ張っていき、そのままホテルに部屋を取る。

けれど、大同は花奈の手から腕をすっと抜くと、出来上がったカクテルを花奈の行き場を失った手に持たせて、「じゃあ、またね」と言って、離れた。

壁際に移動して、大同を待っている鹿島に向かって歩き出す。

このままこの会場を飛び出して、ひなたに会いに行きたい。

それなのに。こんなにも会いたいのに。ついこの前、水族館でフラれたばかりだ。


「また、ナンパですか?」


苦く笑いながら、ひなたは大同が握った手から、するりと離れていった。


「違う」


そう言ったのに。

きちんと否定して、自分は真剣に付き合いたいと思っていると伝えたのに。


「え? えっと……ごめんなさい」


楽しかった水族館が、楽しくない場所になってしまった。空気が重いまま二人で歩いたが、水族館の出口が遠く感じて仕方がなかった。

無言のままひなたを家まで送っていき、そして独りの部屋へと帰った。

会いたいと思って会場から飛び出していきたくなるこの足も、このつまらないパーティー会場で留めておかなければならない。


会いたい。けれど、会うことももう叶わない。

くそっ、心で何度も毒づきながら、大同は鹿島へと向かって歩いた。


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