踊り出す心と告白
「お前、怒ってんのかあ?」
大同が、ガラスをコンコンと突く。
「プンスカしてっと、嫌われるぞお」
「あ、ここ。ヘビみたいなのいる」
見ると、細長い筒の中から、ウツボが顔を出している。
「海のギャングだ」
「ギャング? ってなんですか?」
「おおー、これがいわゆるジェネレーションギャップってやつかっ。ギャングって知らない? ウソだろ」
「え、っと、なんだろう?」
「犯罪組織っての。マフィアとはまた違うんか」
「ああ、そういう怖い団体系ですか」
改めて、ウツボを見る。
「んん確かに顔は怖いかも」
「ああ、怖いな。ってか、ふてぶてしいな」
「貫禄ある」
「そうそう」
やり取りが楽しくなってきて、大同はそっとひなたを見た。すると、ひなたの口元がにやけている。
(あ、やべえ)
大同は、顔を水槽に戻した。
(可愛いなあ)
もう一度、横目でひなたを見る。口角の上がった唇。大同の視線は、ひなたの唇に釘付けだ。
白い頬、半分だけ伏せられたまつ毛、淡い色の瞳。
(ああ……キス……してえ)
ひなたは水槽のガラスに両手を貼り付けて、熱心にウツボに見入っている。
そして、その手。
細っそりと長い指が、時々。折れ曲がったり、ぴんと伸びたり。
その白い手の甲に、血管が薄っすらと浮き上がっている、少し骨ばった手。我慢できず衝動のままに、大同はひなたの手に自分の手を重ねた。
「え、あ、だ、大同さん」
驚きの声とともに、ひなたが大同を見る。
大同は、水槽で気持ちよさそうに泳ぐ魚から目を離さずに、ひなたの手を握った。その手の体温は、そう高くはなかったが、思ったより低くもない。
「ひなちゃん、俺と……俺と、付き合ってくれないかな」
大同の口から、ぽろっと言葉が溢れて落ちた。




