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陽の光を浴びて


直ぐには動けなかった。そして、心も。

凍りつくとはよく言ったものだと、病院のベッドで眠るひなたを見て、嫌というほど理解した。

ひなたがこのまま死んでしまうんじゃないかという考えが、一瞬でも頭をよぎる。そして、次には。


ぞっとした。その全身を這っていく悪寒で、足が震えて動かなかった。


「なあ、失えないって思うのは……裏返したら、好きってことなのか?」


鹿島の、口に近づけようとしていたグラスの手が止まった。


「いやあ大同、お前な。もうそうやって頭ん中いっぱいにしている時点で、好きってことなんじゃねえの?」

「ふは、マジか」


確かに今までの人生を振り返っても、一人の女のことをこれほどまでに、あれこれと想ったことはない。


「すみませーん、ハイボールを一つ」


大同は気持ちを新たにして、追加の注文をした。手を上げると、若い女の子の店員が、はーいと言って、伝票をつけにきた。

店員は短めの黒髪をくるくると団子にしていて、つけまつげとアイラインで目元をばっちり飾っている。


「……キミ可愛いねえ。え? まだ入ったばっかなの?」


酔いのせいもあってか、いつもの軽口が出る。おい、と声を掛ける鹿島を尻目に、大同はへらっと笑う。名札を見ると、初心者マークが付いていて、バイトを始めたばかりだということがわかった。


「はい! まだ高校卒業したばかりです」

「わっかー。ミキちゃんっていうの? 俺のハイボールよろしくねー」


大同が手を出すと、店員がすかさず手を差し出して握手した。


「わあ、嬉しい! 厨房でカッコイイ人いるって、話してたんですよ。今度、ご飯でも行きませんか? 奢ってくださいよー」


なぜか、ひなたの無表情な顔が思い浮かんだ。パパ活か、そう思うとさっと酔いも冷めてしまい、大同は握手をしていた手を引いた。


「いやあ、ごめんね。デートしたいのはやまやまなんだけど……俺たち、結婚してるから」


面倒くさくなりそうな相手に使ういつもの嘘。その小さな嘘にもなぜか罪悪感を覚えた。

ひなたの真っ直ぐな瞳を思い出す。

店員がえーっと不服そうに厨房に戻っていくのをいつものように手を振って見送ることもせず、大同は俯いた。


「……消毒されたんかなあ」


ひなたという存在に。

こうしてナンパをすることすら出来なくなったのが、その証拠のようにも思えてくる。


「あーあ、めんどくせぇ」


頭を抱えると、言葉とは裏腹に脳裏に浮かんでくるのは、ひなたの小さく笑う顔。


「大同、お前ももうわかってるんじゃねえの?」


呆れ口調の鹿島の声が、するりと入り込んできた。


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