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告白


聞いてくれという羽多野の言葉に力が込められている。圧を感じ、大同は串を咥えたまま黙った。


「お前んとこのMJはさ、まあお前が代表ってこともあるけどイメージとしては、フットワークの軽さとモチベーションの高さで『情熱』を大事にしてるでしょ」

「まーなー」

「けど、俺んとこ、ハタノパートナーズはさあ、戦略を主とする頭脳系ってことから言ってもイメージ的には『冷静』なんだよね」

「知ってるっての」

「いくらグループ会社って言ったって、その正反対のイメージ二つを持ち合わせたグループCMなんて、難しいにも程があるでしょ」

「んー、まあな」


大同がようやく咥えていた串を離す。串入れに放り込んでから、ビールを飲んだ。


「だから、その子にアドバイス貰いたいのよ」

「なんで⁉︎ だからお相手さんはただの女の子だっつーの。シロウトだっつーの」

「ちょっと、唾飛ばすなよー。そんなこと言ったってさあ。お前だろ? その子の一声で、社運のかかったCM、作り直すの決めたの。ってことはだよ?」


羽多野が、持っていたジョッキをテーブルの上に置いた。ジョッキについていた水滴が、すうっと降りていく。


「特別だよ、その子」

「いやいやいや、違うから。なんも特別じゃねえっての。そんなんじゃねえから」

「そう?」

「ただ、顔が好みだっただけで……そうそう、いつものナンパと変わんねえから。それに、ほんと顔だけだし。身体は細過ぎるし、」

「こら、セクハラだぞー」

「はは。好みの問題だ、スルーしてくれ。それにな、あんま笑わねえし愛嬌が無いっていうか……あれはそういう感情みたいなのが欠落してんだろうな」

「その髪型と関係あるのかもよ」


羽多野も髪型からして、ひなたのことをどうやら病気じゃないかと思っているらしい。考えることはたいてい同じで、行き着くところはそれに尽きる。


「まあなあ。はああ、いったいなんなんだろうな」


この胸のもやもや感は。そんな大同を気にもせず、羽多野は押した。


「とにかく、俺も会ってみたい。連絡してよ」




そんな経緯があっての、この今日のアポイントメントだった。

笑った顔が見たい、という気持ちも後押しして、スマホをタップしていた。


最初、連絡するのを面倒くさがって躊躇していた心がするりと陥落するのも、一度メールを送ってからは早かった。


実は、返事はなかなか来なかった。

警戒されているのかと思い、CMの件で再度、意見を訊きたいんだと、内容をさらに固いものにした。

けれど、いつまで経っても返信は来ない。

大同は、もう一度同じ内容の旨をメールし、ひなたからの返信をひたすら待った。


「なんだよ、無視か」


いや、違う。あんなに礼儀正しいひなたが、既読スルーなどあり得ない。そんな思いが先に立つ。


(……もしかして、病気が悪化、とか)


もやもやとする胸を抱えて、大同はそれから一週間待った。出したメールのことをすっかり忘れてしまっていた頃、返信が来て驚いた。


『メールを貰っていたのに、返事が遅くなってすみません。まだ誘ってくれる気があるなら、もう一度、誘い直してもらえませんか?』


そして、この今日の約束。


「お待たせしました」


その言葉ではっと顔を上げると、そう言ったのがカフェの店員だったことに気がつく。若葉マークを胸につけている若い女の子が、慣れない手つきでコーヒーフロートとコーヒーを運んできていたのだ。


「ごゆっくり、どうぞ」


ひなたが、運ばれてきたコーヒーフロートに刺さっているストローにひとくち口をつけた。

さあ、話そう。けれど、やはり何から始めればいいのか。どう声を掛けていいのか。迷いながら大同もそろっとコーヒーに口をつける。


「え、っと……」


言葉をうろうろと探している大同の視線がひなたのそれと重なった瞬間。ひなたはあっけらかんとして言った。


「乳がんです」

「えっっ」


大同は驚きのあまり、後ろに仰け反った。その拍子に、後ろに座っていた人の、頭に頭突きを食らわせてしまった。


「痛たあっ」

「わ、やべっ。す、すみませんっ」


痛みが走った後頭部を慌てて手で押さえて、後ろを振り返りながら、謝罪する。

後ろでは、年配の男性が同じように頭を押さえている。

大同は立ち上がって、頭を下げた。


「すみません。大丈夫でした?」

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