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ホンダがNRで蘇る時

作者: m13zz

これは二輪GP そしてホンダ4サイクルの夢の物語です

NR時代にもしホンダとヨシムラの関係が良好でさらに4サイクルの気筒数制限が無かったら

『ホンダがNRで蘇る時』(高斎正)があったらいいなぁ と思って書きました


***


ロードレース世界選手権からホンダが撤退した後 2サイクル有利は不動のものとなっていた

ホンダが多気筒の超高回転DOHCで2サイクル勢に対抗していたのも今は昔 

1970年代末 レースの硬直化を憂えていたFIMは水面下でホンダのカムバックを打診し

併せて500ccのレギュレーションを次のように改定 排気量で優遇せずホンダの技術に賭けた漢がFIMにもいたのだ


・4サイクルは気筒数無制限、2サイクルは4気筒まで


そして長年ファンが待ち望んだホンダが ついにGPに復帰する運びとなった

クラスは最高峰の500cc 車名は「NR」エンジンには何とV型8気筒DOHCを採用していた

最高出力を18,000回転で発生するこの心臓は正にホンダイズムの結晶

ライダーはもちろん片山敬済 監督は開発責任者の入交昭一郎が兼務するという布陣


しかしこのエンジンは全てが新設計ゆえ初期トラブルが続出

懸命の対策を繰り返して改良を続けた

信頼性は向上したが 最も重大な問題は肝心の出力が目標に達しないことだった

予選落ちこそなかったもののスターティンググリッドはいつも後ろから数えたほうが早かった


パワー不足で苦戦するNRに入交氏が決断し社内の反対を押し切りPOPを招聘

「(4サイクルの)神の手」と称され尊敬されていたPOP吉村はホンダとの友好関係があったとはいえ部外者

最初はぎこちなかった技術者たち しかしPOPがバルブ周りの問題を一発で指摘し

半信半疑で試したらベンチで2,000回転も上がってしまい それからチームとして一つになっていく・・・


そして新エンジンの開発ライダーには何と藤山勝男を起用 そうかつてのF1世界チャンピオンだ

F1を制したあと一技術者に戻っていた(社内では本人の懇願空しく「チャンプ」と呼ばれていた)藤山だったがNRの苦戦には胸を痛めていた

往年のビッグ・ジョン同様 二輪でも素晴らしい技量を持っていた彼は入交氏に直訴し裏方を買って出たのであった

ホンダの総力をあげた反攻が今開始された


***


「ねぇお爺ちゃん どうしてホンダのマシンはワークスなのにヨシムラのステッカー貼ってるの?」

「それはな・・・」


新エンジンのシェイクダウンの当日 オヤジさんが例によって予告なく現場に来襲

かつて自身もホンダZのテストで走った(横転して大騒ぎになったけど)コースで目をつぶり排気音を確認する

V8サイクロンマフラーの響きに「・・・イイ音になったじゃねぇか」と上機嫌

「ところで吉村さんはどこだい?挨拶しときてぇんだけど

・・・

何?呼んでねえだと!お前ら救ってくれた恩人に何てことしやがる!

よしヨシムラさんにワッペンあるったけ注文しろ!何に使うかって?

関係者全員の胸に貼るんだよ!」

足音荒く引き上げようとするオヤジさんがふと立ち止まりニヤリと振り返る

「あと 車体の一番いい位置にでっかくヨシムラのステッカー貼っとけ!

ごちゃごちゃ言う奴はお前がシメとけ わかったなイリ!」


日頃クールな入交氏は目頭を熱くして最敬礼で見送ったという・・・


「それからホンダ工場レーサーにでっかなヨシムラのステッカーが貼られるようになったんじゃよ・・・」


***


そして

シーズン序盤YZRに歯が立たなかったNRは 新エンジン投入以降は生まれ変わったように連戦連勝の快進撃

異常気象での高温によるタイヤトラブルで落とした一戦を除き全勝で最終戦鈴鹿を迎える

マシン原因のトラブルがレースに影響することもなくなり意気上がるホンダ陣営


更に宿敵ヤマハ、そして最強の敵ケニーと

コンストラクターとライダーのチャンピオンシップ両方でポイントが最終戦を残し並ぶのは空前だった

「決戦」に向けて世界中のファンの期待は頂点に達しようとしていた


ホンダ好調のまま迎えた最終戦が始まる

予選片山が好タイムで首位に立ち 沸き返るチーム

しかしヤマハ陣営も負けてはいない


鈴鹿での決戦を予測し かねてから秘密裏に準備していた新エンジンをついに投入

最終コーナーから物凄いスピードで立ち上がってくるケニーのYZRが信じられないタイムを叩き出し

一瞬にしてお通夜状態になるホンダピット


ファンはホンダの反撃を期待したが いつもの「鈴鹿スペシャル」のマシンが今回は何故か出てこない

どうしたホンダ?ここまでなのか?


その晩 ホテルに帯同していたPOPが片山の部屋のドアをそっとノックした

「・・・開いてます」

そこには百戦錬磨の片山がかつてプリンスと呼ばれた面影も無く

灯りもつけず体育座りしているではないか

「どうしたんだい?」

「・・・勝ちたいんです」

「よし、任せろ」

「え?」

怪訝に顔を上げる片山

そしてPOPは静かに驚愕の秘策を片山に明かす


決勝当日 ポールポジションには自信にあふれたケニー 片山は二位につけるが

マシンの優越性を見せつけたヤマハ陣営は勝利を確信していた

一周目はケニーがトップのまま周回しいよいよ片山を突き放しにかかる


パワーに物を言わせ加速するYZR じりじりと後退するNR


周を重ねるごとに開く差 沸き返るヤマハピット

しかしケニーの中では小さな不安がだんだん大きくなっていった

「順調すぎる・・・タカズミがこのまま黙ってるだろうか・・・」


レースも半ばを過ぎトップのケニーから30秒遅れ もはや奇跡でもない限り追いつけないと思われた時

エンジン担当のミツクニ(ホンダUKより出向 言うまでもなく水戸出身)が

「イリさん、吉村さん・・・もういいでしょう」


自チームでは常にピットの先頭に立っているPOPだったがホンダに遠慮してか奥に引っ込んでいた

促されピットから身を乗り出し高々とボードを掲げるPOP

そこには一位ケニーとのタイム差、そして日本語で「回せ!!」と書かれていた


「ん?」

ピットボードに書かれた片山とのタイム差が突然小さくなったことにケニーは目を疑った

予選タイムではぶっちぎられたNRが?


片山はPOPの言葉を思い出していた

「決勝ではあと1,000回転回してみろ 30分は持つ 2,000回転でも10分は持つ

俺とホンダが作ったエンジンだ」

 

そう「NRエンジンは全力を出していなかった」のである


片山は一流レーサーの常でレッドゾーンに入れないライディングをしており

まさかそこにパワーバンドがあるとは思ってもいなかった 常識ではありえない「神の手」が生んだ奇跡

POPがこのチューニングに全力を注いだため「鈴鹿スペシャル」のマシンは用意できなかったのだ


タンクに伏せ アクセルを絞り上げる片山 

解き放たれた超高回転DOHCエンジンが歓喜の雄叫びを上げ NRが真の姿を現す

「凄え・・・ よ~し さあ行こうぜNR!」NRが胴震いして片山に応える


猛チャージが始まり スタンドには時速300kmのウェーブが発生する 頑張れ片山!

そしてついに遠く陽炎の中 片山の視界にYZRが入る

逃げるYZR そして追い上げるNR


最終周 とうとうYZRを捕えたNR 二人のライダーの闘志が激突する 勝負は最終コーナー 

両者同時にアクセルを開く その時

ズリッ

名手ケニーの予想を超えた新2サイクルエンジンの急激なトルクの立ち上がりに耐えられず

スリップするリアタイアに一瞬姿勢を崩すYZR

その横をホンダミュージックの咆哮とともに豪快に駆け抜けるNR さあチェッカーだ!


なだれ込むファンに肩車される片山 必死でマシンを守るメカニックたち

大騒ぎのなか入交氏と握手を交わし そっと立ち去ろうとしたPOPに

「待ってください あれが聞こえませんか?」

鈴鹿を埋めつくしたファンが地鳴りのように「よっしむらっ!よっしむらっ!」と叫んでいるではないか

ピットから顔を出したPOPの目に それぞれの服にヨシムラのワッペンを貼ったファンたちの笑顔が映る

それまでの戦いで クルーの胸のワッペンに憧れたファンがこぞって真似をしていたのだった

「よっしゃ POPを胴上げするぞ!」前代未聞の胴上げが始まる・・・


後日

トルク特性の違いで勝ったことも含め「(4サイクル)エンジンやってて本当に良かった」と述懐するPOP

奇跡を起こしたその傷だらけの手には 記念にもらったNRのピストンが慈しむかのように握られていた


【参考】

・ポップ吉村の伝説

・ホンダ二輪戦士たちの戦い

・バリバリ伝説

・赤いペガサス

・BASTARD!

・水戸黄門

・F1 1992年イギリスGP

・破壊王

・白鳥伸雄(競輪)


そして敬愛する高斎正先生の数々の作品

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