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第九十二話「秋刀魚の味に秋刀魚は出ない」



〈白の魔女〉マドカ・アサヒナ。

名前は何度か聞いた事はある。危険度7の巨熊の魔物を辺り諸とも吹き飛ばしアサヒナ湖を生み出した旅の魔女。百の冒険譚を持つ、大陸中でも数人しか居ない白金の冒険者。

名前や行動からして転生者じゃないかと思っていた人物だけど。


「あの〈白の魔女〉のお孫さん!?」

「あの竜も避けて通るとか、歩いた後には雑草も生えないとか言う」

「………それ、どんな魔物ですか………」


数々の功績と悪名を併せ持つ冒険者だけど、アサヒナ湖が出来たのって数十年前だよね。


「まだ現役なんですか?」

「ええ。大陸北部のパルパニア連合体でダンジョン攻略に行ってると聞きました」

「お歳幾つなんですかね………?」

「そんな恐ろしい事聞けませんよ………」


シシリーとユースの問いにアンジェリーク令嬢はふるふると震える。あー、そういう方なのね。


「ともかく、彼女があれをなんとか出来るって事?」

「おそらく。過去に前例があるそうです。この国では無いですが、倒しても七日後に復活してしまう魔物がいたそうで」


オンゲでは受注制限のあるクエストは良く目にした。美味しいクエストに際限無く行けてしまうとコンテンツの寿命が短くなるとか、相場の関係とか理由は幾つかあるだろうけど、大体一日一回とか週に一回、大型レイドは月に一回とか。

週に一回は、それなりのボス系コンテンツか。

吸血鬼とか、ちゃんと倒さないと復活するみたいなのは、この世界固有でも居そうだけど、定期的にとなるとバルバロッサと同様かも?


「〈終末のキルエムオール〉でしたか。四人の馬に乗った騎士の様な魔物だったと聞いています」


………エルグラでは聞いた事がない?名前からして黙示録の四騎士が元ネタでボス戦BGMがスラッシュメタルだったりしてそうだけど。

うーん、エルグラ以外だと有名処じゃないと断定しづらいな。この世界固有のレイドかもしれないし。


「それならばマドカさんが来て頂ければ解決という訳ですわね」

「七日毎に倒さないといけないってのは大変だもんねー。銅ランクには依頼が増えたって喜ぶ人もいるみたいだけど」

「後方の雑用とかだと危険も少ないですから、ね……」


前線は命の危険もあるから楽な仕事じゃないんだけど、そういうのも出てくるか。ゲームと違って後方の拠点に物資の搬入とか食事の準備とかも必要だしね。

でもギルドや国は大赤字だ。本当にドロップが美味しいボスなら良かったのに。誰の差金か知らないけど実装するなら、そういう所まで考えて欲しい。


「………で、いつになるんだ?」

「パルパニア連合体からですから……ちょっとそこまでは……」


イザークさんが静かにグラスを置いて尋ねると、アンジェリーク令嬢は眉を下げる。

連合体は大陸北部にある国。正確な地図とか無いし、この世界の広さは分からないけど、簡単に帰って来れる距離じゃないのは確かだろう。


「でも連絡は付くんだ」

「ええ。小型の魔導具(アーティファクト)があるんです。魔力消費の問題で頻繁には使えませんけど」


これです……と見せてくれたのは、手の平サイズの板のような物。こんな大きさの遠距離通信が出来る魔導具なんて…………


「スマホじゃん!!?」

「あら、おばあちゃんもそう呼んでましたけど、ご存知でしたか」


衛星とかも無いだろう世界でもどうやって機能してるか分からないが、見た目はスマホだ。こりゃ転生者だか転移者は確定だね。

転生ボーナスとかで異世界でも使える物を貰ったとか?……………どっかのハーレム主人公ですか。


「あー………まあ、なんかマドカさんがなんとかしてくれそうな気がしてきました」

「カトレアさんより理解不能な人いるのですね……」


私はまだ常識的だよね?

とりあえず、〈白の魔女〉マドカ・アサヒナはチート制限の掛かって無い転生者の線は確定。なんらかのスキルとかでイベントという事象を消す事が出来るっぽい?そんな能力、そりゃ制限も掛かるよね。GM権限だってそこまでは出来ないぞ。


「ん。なら来てくれるまで倒し続ければいい。頑張って」

「あなたも頑張りなさい」

「えー。もう三年分は働いた。あとはお任せ」


注文した料理が運ばれてきて、メルディは手酌で米酒をお猪口に注ぎぐいっとひと口。

私も秋刀魚のご飯に手をつける。今年の秋刀魚は豊漁ではないが型も良く脂が乗って美味しいらしい。ふっくら炊き上がったご飯と肉厚な身を頬張ると、じわりと旨味が口に広がった。


「あー、秋の味がする~」

「ですわ~」


美味しい物に言葉はいらない。食レポ?グダグダ言うなら、まず食べろ!

秋刀魚は大衆魚で高級魚のような繊細な味わいではないが、素朴でいてしっかりとした味。

シャルちゃんもご満悦なようだ。


「やっぱり米酒が合うわねー」

「ん。そこ、黒い部分、ハラワタも美味しい」

「えー、苦くない?」

「この苦味を米酒が流してくれる。これが美味」


しっかり三人組も焼き秋刀魚を注文していたようだが、お腹を避けていたシシリーにメルディが注意している。

酒呑みの幼女だ……。良いのか、これ。


「まあ…………なんとかなりそうか」


バルバロッサ対策はひとまず置いておこう。

美味しい料理と気心の知れた仲間達。羽目を外す程ではないが、鋭気を養う時間は必要だ。


「お兄さんー、おかわりくださーい」


アネットさんが手をあげるのを見ながら、お茶をひと口。

お読み下さりありがとうございます。

いや、そういう映画があったなーとか、そんな感じで意味はないです。

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