第九十話「新コンテンツ実装の裏側」
「あああああああ!!!」
こんにちは。
世界管理局の乙4種限定神ポーレットです。
「あああああああアアアア!!」
現在、現場では大変な事になっております。特大の特異点が出来ちゃいました。所謂、世界崩壊の危機という奴です。
これはまずい。上層部にバレたらどうなる事やら。始末書じゃすまないだろうなぁ。噂の辺境開拓局とかに回されて、延々と〈渾沌〉と戦わされるかも。
前に左遷させられた子に会ったら、引きこもりのゲームオタクだった彼女は「サー、イエッサー!」しか言わないような子に洗脳されてたよ。
そんな職場には行きたくありません。
私以下同僚がアルテイシア様の指揮の下、特異点修正の為にシステムに介入している訳ですが……。
「増殖、止まりません!」
「浸食、始まりました。規模はC+」
「ダンジョンの改変を確認。〈異界化〉対抗プログラム始動させます」
次々と入る報告は悪い物ばかり。このままでは、あの地域一帯が〈渾沌〉の海に沈む事になるでしょう。
「ああああああああああああああ」
「ポーレット、現実逃避してないで。プランBに移行、上書きするわよ」
はい、すみません。煩いのは私でした。
ダンジョン制作に追われていて、特異点の発生を見逃していたんです。無事に解決出来たとしても始末書は確実です。
納期がもう一ヶ月程に迫ってるのに、まだ進捗率が5割なんです。家にも帰ってません。睡眠も平均三時間の毎日です。
現実逃避くらいさせて下さい。
「アルテイシア様、プランBは………」
「世界に穴を空けるよりはマシよ。上層部には……報告しないといけないけどね……」
浸食というのは、健康な身体を蝕むガンみたいなもの。通常は対抗プログラム───投薬による治療を行なうのだけど、進行するとプログラムによる修正では止められなくなる。
プランBは〈渾沌〉とは違う〈異端〉で上書きをして「浸食」を誤認させて食い止める方法。これはこれで問題があるけど、制御出来る分〈渾沌〉よりはマシなのです。
「浸食率更に上昇。〈渾沌〉、顕現します」
「パターン青。タイプ〈無貌の人形〉です!」
「現場に数人の第三世代を確認。浸食に巻き込まれます」
ああ、また始末書が増えるー!
森の上空に現れた真っ白い人形の様な〈渾沌〉。純白のドレスに白髪、肌も白。そして名前の通り顔はツルツル。
あれが、敵だ。
「時間を稼ぎなさい、力天使級を一個小隊投入。〈異端〉の選定は終わったわ。改変術式の展開準備」
転送された天使と〈無貌の人形〉が交戦に入る。
実弾兵装は相手の多重結界に阻まれ効果は無い。あのレベルの戦闘になると高速で展開される防御結界を中和し本体にダメージを与えられるかが鍵となる。
物理火力の力天使級では〈渾沌〉には掠り傷すら与えられないだろう。地上規準ならあれでも危険度8はある人間に伝わる神話では神罰を下す機体なんだけどなー。
ああ、言ってるそばから〈無貌の人形〉が原理不明の光線を放ち、力天使級が爆散する。うへぇ、ホントこんなの地上に解き放ったら七日で世界が滅びます。そんな事になったら復旧させるのにどれだけ大変か………。
「更新プログラム準備出来ました。いつでもいけます!」
「領域、固定。改変術式展開!」
〈渾沌〉を中心に展開される青い魔法陣。〈世界記憶〉の神言葉と形が歪んだ世界を塗り替えていく。
在るべき物が、有るように。
異なる物は、排除される。
世界は初期化され、再構築される。
「〈異端〉融合開始します」
初期化された状態は言わば白紙です。このままでは再度〈渾沌〉の浸食を受けてしまうので、別の事象で〈渾沌〉が開いた穴を塞ぐのです。
〈異端〉もある意味この世界の理から外れる異界の事象なのですけど。
〈渾沌〉の白と青の領域が鬩ぎ合う。これが破られるようなら、管理局の手には負えない。統合軍のお世話になるのだけは勘弁して欲しいです。私の始末書は勿論、上層部でも首が飛ぶ事態になりかねないです。
私は当然、クビ。あああああああ、今月末には愛車の車検もあるのにぃぃ!
いや、この真っ黒を通り越して深淵のような職場をオサラバ出来るのはラッキーかも?イヤイヤイヤ、家賃も払えなくてホームレスは困ります。公園の固いベンチで寝泊まりとか乙女のピンチです。
─────普段も職場の机の下で寝てますけど。
「融合完了。〈渾沌〉消滅しました」
はーーーーー。
なんとかなりました。事後処理は残ってますが、同僚達が頑張ってくれる事でしょう。
「アルテイシア様、あれはどうします?」
私が差したのは〈渾沌〉に換わって現れた〈異端〉。赤い鎧を着た巨大ゴブリンとその集団。
地上規準なら危険度7くらいですかね?世界崩壊の危機をもたらす〈渾沌〉く比べれば、可愛いものですが、地上の民には結構危険だと思います。
「あー、どうしよっかねぇ?」
私に振られても。担当地域にああいうの放置されると困ります。あまり死者とか出すと運命管理局の方からクレーム入るんです。
「まあ、あそこには担当の世界の転生者が三人いるから大丈夫でしょ。彼女らが良く知ってる〈異端〉にしといたからなんとかするわよ」
「えー、良いんですかそれで」
「じゃ、ポーレットがなんとか処理する?元はと言えば、特異点の兆候を見逃した………」
「あ、はい!全くもって何も問題無いですね!いやー、無事に解決して良かったです!」
これ以上仕事を増やされてたまるかー!
地上の皆さん、これも試練という奴です。
陰ながら応援しておきます。頑張って下さい。
「あんたは始末書38枚」
「ああ、それが残ってましたー!?」
今日もお家に帰れなさそうです。はあ。
お読み下さりありがとうございます。