第八十八話「ゴブリン討伐戦⑦」
「むう。〈炎獄鳥〉」
「〈火聖霊の檻〉!」
攻防は続いた。
やはりダメージディーラーはメルディ。ユースや他の魔法使い達も稼いでくれているが、魔力をどんと注ぎ込んだメルディの《炎魔法》はダメージが一桁違いそうだ。
「こっちは片付いたぜ、嬢ちゃん!」
「カトレアちゃん、お待たせ~」
更に、ほぼ同時に取り巻きのチャンピオンを倒した近接組が加わった事で戦況は一気にこちらに傾く。
固い防御も通すシャルちゃんは勿論、他の面々も鎧の隙間を狙いダメージを稼ぐ。
出来れば皆が来る前に範囲攻撃を確認しておきたかったけど、チートスキルで騒がれたくは無いしなぁ。
───まあ既に遅い気もしないでもないけど。
「せええい!」
忽然とバルバロッサの背後に現れたアネットさんが跳び、首筋に斬りつける。予期せぬ攻撃をまともに食らってバルバロッサがよろめいた。
「行きますわ、〈雷神の右腕〉!」
そこに後衛の魔法が撃ち込まれ、次いでシャルちゃんの拳が腹部に叩きつけられる。
───そろそろ、か。
「GAAAAA!」
バルバロッサが動きを止め咆哮を上げる。
赤黒いオーラのようなものが身体から立ち上り、見た目にも奴がパワーアップした事が分かる。
ここからが、「祭り」の始まり。
「雰囲気が変わりましたわね」
「…………本気になったって事ね。カトレアちゃんが警戒してたのはこれかな」
エルグラではステータス増加で攻防共に1.2倍になったそうだけど、こっちではどうかな?
「だが、やる事は変わらん」
「だな。おらぁぁ!食らい、やがれ!〈剣気烈波〉!!」
グレンさんとゼクトさんが突貫し、戦闘再開。
私も負けじと爪を振るう。やはり防御力が上がったのか手応えが、堅い。
「GYAAA!」
バルバロッサは攻撃を物ともせず突進。あのオーラみたいのは怯み無効?面倒なっ!
激しい突進を受け止めるっ!派手な土煙を上げ、そのまま数メルク後ろに。
重くなってる。けど、突進攻撃はドレイク戦で嫌な程受けてるのよ。あれに比べれば!
「たかがゴブリンの親玉くらい押し返してやるわ!」
新コスは伊達じゃないって言ったでしょう!
「布の服」から素の防御力が上がった《全周囲防御》は簡単には抜けないわよ。
「今だ、集中攻撃で倒すぞ!」
「動きが少ない今なら!」
シシリーの放った矢が眉間に刺さり、近接組が詰め寄る。ユースの氷の矢、アークの水球の魔法。カンナさんら神官系は近接組に防御魔法を。
「むう。お兄ちゃん達、退いて。あいつ殺れない」
なんか物騒な台詞を言っている、一発が大きなメルディは乱戦向きじゃないみたいだけど。
「GUOOO!!」
バルバロッサが吠えて、大剣を水平に構える。
あのモーションは………来たか。
「皆、離れて!範囲攻撃が来るわ!」
赤黒いオーラが剣に集中し、バルバロッサが回転しながら周囲を薙ぎ払う。ただの剣による斬撃に加え放たれたオーラが広範囲を切り裂く特殊攻撃だ。
強烈な剣撃に晒され、私も後ずさる。
「ぐあ!」
見た目以上に範囲が広い!私の声に離れきれなかったセドリックさんが声を上げる。
ざっくりと右腕を斬られたようだが、そのまま後方に下がる。
「カンナ!」
「はい!〈治癒の法〉」
駆け寄ったカンナさんが回復魔法を使う。幸い見た目程には深い傷ではなかったようだ。
予備動作からの発動も短めだし、流石に大技の連発は無いと思うけど、近接殺しは健在か。
やっぱり堅い盾職と遠距離職での攻略が基本かなぁ。
「剣に魔力を乗せた範囲攻撃か。ゴブリンの癖にやるじゃねーか」
「範囲も広いようですし、まともに貰うと危険ですね………」
ゼクトが体勢を立て直し、ミシェールさんがチラリと私を見て言う。
はい、まともに貰ってますが何か?
「でも、大技を出して来たって事は追い詰められているって事よ。押しきるわよ」
「ああ。ヤバい攻撃?んなのは強え奴とやり合うなら当然だろ」
アネットさんの言葉にゼクトさんがにっと笑う。
グレンさんと治療を受けたセドリックさんも無言で武器を構え直す。
ああ、そうだね。皆が怪我も無く無事に帰れるなら、それはそれでいいかもしれないけど、私達は「冒険者」なんだ。
危険な依頼を受け、強敵と激しい死闘の末打ち倒し、まだ見ぬ異郷を目指す。
日々の生活とかで忘れ掛けているかもしれないけど、私達はそんな夢を見たから「冒険者」になった筈。
「引き続き、私が攻撃を受けます。範囲攻撃だけ注意して下さい!」
「行くぞ!嬢ちゃんだけに良いとこ持って行かせるな!」
「〈再装填〉!」
「怪我をした方はすぐに下がって下さーい!」
私達は困難に打ち勝つ為に強くなりたいんだ。
魔法が飛び交い、剣戟が木霊する。
咆哮と怒号、悲鳴が響き、多くの怪我人を出しながらもバルバロッサが倒れたのはそれからしばらくしてから。
ゴブリン討伐戦は私達の勝利で終わった。
お読み下さりありがとうございます。