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第八十六話「ゴブリン討伐戦⑤」

時間が少し戻ってシシリー視点です。

甘い展開にはなってくれませんでした…( ̄0 ̄;)



「闇の眷族達よ、とっととお家に帰りなさい~、〈焼炎弾幕(ナパームバルカン)〉」


金ランク冒険者のメルディさんを中心に、あたし達後衛組の攻撃が始まった。


ゴブリン討伐は前にも参加した事はあるけど、規模が違う。前方に見えるゴブリンの群れはニ百以上。

凄いね。

あたしも懸命に矢を射つけど、これじゃまったく足りないよぉ。ユースの《収納》にいっぱい入れてもらってはいるけど、大丈夫かな?


後衛の攻撃で隙が出来た所にカトレアちゃん達前衛組が食い付く。

カトレアちゃんは相変わらず凄いなー。


最初、講習会で見た時はちっちゃいのに大丈夫かなーなんて思ったけど、実は二年間から冒険者をしている鉄ランクという、あたし達よりも先輩だった。

そして魔法使いだというのに、ゴブリンの攻撃がまったく効かない防御力に危険度3の蟹を一撃で倒す魔法に大容量の《収納》。色々規格外過ぎて、最近は「カトレアちゃんだし……」で何が起きてもおかしくない気がしてるけど。


でも、話を聞くと才能だけじゃない、実家は貴族でも大変で五歳の頃から魔法の練習をしてたり、のほほんと暮らしていたあたしなんかより、ずっと努力家だった。

漠然と冒険者になって物語のような冒険がしてみたいと思っていたけど、それをするには努力しなきゃいけないんだ。だから弓以外の事も出来るように講習に出たり、カトレアちゃんに教わった狩りの仕方を実践した。


ギルドでも武器の扱いを教えてくれる講習会があったんだけど、弱点を狙って当てる、それが基本。

カトレアちゃんの「引き狩り」は近付かれる前に倒すのが基本の講習会の戦い方とは違い、距離を保ち狙うのは動きの少ない胴体とか。倒すのには時間が掛かっても怪我が減った。勿論、近付かれる前に倒せるなら一番なんだけど、この戦い方なら格上とも戦えた。

お陰で収入が上がって、かつかつだった懐事情も改善。本当に助かったよ。


この前は王蚕っていう危険度5の魔物も倒せたし、あたし達も成長したなーって思うけど、カトレアちゃんは言わないし思わないだろうけど、他から見たらまだまだ足手まといと言われてしまうだろう。

すっごく勉強したのか色々知ってるし、強くて料理も出来る。とても年下とは思えないけど、お姉さんとしてはもっと頼って貰えるようにならないとね。

この間のイザークさん達の時の反応とか、恋愛に興味が出てきたお年頃って感じで初々しかったしなー。


「シシリー、手が止まってるぞ」


おっと、集中、集中。

補充用の矢筒を出してくれたユースの声に我に返る。安全な後方とはいえ、考え事をしてる場合じゃないよ。


「ありがとう。それにしてもゴブリン多いねー」

「そうだな。まあ、どっから出てきたか分からないが、今は目の前のアイツらを倒すだけだ」


ダンジョン産の魔物の大発生は、放置するとどんどん増えて手が付けられなくなる。だから国とかギルドでも間引きとか監視の意味も含め冒険者に依頼したり講習会とか開いたりして探索を促してるんだよね。


町や村が襲われないようにここで倒しておかないといけないんだ。


「うん、頑張ろう」

「ああ。でも無理はするなよ」


序盤は私達が優勢。

ゴブリンの数は多いけど、一体一体は普通のゴブリンだ。落ち着いていれば大丈夫。


弓を(つが)える。狙うのは前衛の少し後方。

放った矢はゴブリンの肩に命中し、動きが止まる。そこに前のゴブリンを倒した槍持ちの男の子が突進する。

あたしには一撃で相手を倒す力は無いけど、やれる事はある。焦らず行こう。


「よし、突破口を開くぞ。後衛、中央に攻撃を集中させろ!」


マーカスさんの号令に、魔法使い達が集中する。


「前衛、中央から散開!デカイの行くぞーー!!」

「早く帰って寝たいです。これで終わってください〈白色大焦熱(バーストエンド)〉」


メルディさんの魔法が放たれ、白い灼熱の奔流がゴブリン達を飲み込んだ。

流石、王国内の冒険者に中でも最大火力と言われるメルディさん。戦場中央にいたゴブリンの一団が倒され、カトレアちゃん達が雪崩れ込む。


「中央、開けた穴を死守せよ!」


再びマーカスさんの号令。

ゴブリン達を全滅させるのは時間が掛かる。こちらが消耗する前に中央突破をして、高ランク冒険者をボスにたどり着かせるのが他の役割りだ。

戦線を維持しようとするゴブリンと、残った前衛組が衝突をする。


「掩護するぞ。〈火聖霊の槍(サラマンダー)〉!」

「〈火球(フレイムボール)〉!」


ユースと隣の銅ランクの女の子が魔法を放ち、あたしも押し寄せるゴブリンに狙いを定める。

奥にいる上位種とここからでも見えるゴブリンのボスだろう大きな個体は高ランク冒険者が、残った──でも数は多い──ゴブリン達が鉄ランク以下の相手。先に進んだ彼等の手を煩わせないように足止めと数を減らすのが、ここからの仕事だ。


「はあ……はあ……」

「シシリー、大丈夫か?少し休んでも良いんだぞ」


ユースに三度目の矢の補充をもらいながら、上がった息を整える。自分だって魔法の連発で疲れているのに無理しちゃって。

あたしは「大丈夫」と首肯く。前線ではカトレアちゃん達が頑張ってるんだ。


「ユースこそ、たおれる前に休むのよ?」

「シシリーが頑張ってるのに休んでられるかよ」


男の子だなー。ユースは結構意地っ張りだよね。

クスッと笑みが溢れる。

腕は痛くなってきたけど、まだ弓が引ける。

うん、大丈夫だ。


そんな時、前方で凄い冷気が渦巻いた。

真冬でも滅多に無いような極寒の吹雪がゴブリン達を次々と凍り漬けにしていく。


「すげ…………あのちっこい子がやったのか?」

「あの子、あんたらの仲間だよな?」


あー、カトレアちゃんかー。


「そうだな」


ユースがちょっと遠い目で前方に立ち込める冷気の霧を眺めている。

メルディさんに匹敵………いやそれ以上?そんな魔法に後衛組の手が止まってる。


「すごい。あの魔力量であの威力。魔力操作に無駄が無い」


そのメルディさんもポカンとしながら呟いている。

眠そうなのは変わらずだけど。


「………攻撃、続けろ。後衛の高ランク、突入準備だ。掩護に向かうぞ」


歴戦のギルド長も呆気に取られてたみたいだけど、続けて指示を出す。


やっぱりカトレアちゃんは規格外だよね。

お読み下さりありがとうございます。

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