第八話「王都へ‥‥。」
「だめ、ですか‥‥‥」
父に反対され、正直凹んだ。
いや、解る。十歳の娘が突然一人旅に行ってきますなんて言ってきて、ノータイムで許可する親は居ないよね。しかも短くても一ヶ月間という長期で、半ば野宿必至ともなれば。
行く理由はある。私が大人になる為の啓示なのだから。内容はダンジョン攻略。他の子には難易度が高過ぎるが、神様は私がチートスキル持ちである事は知っているから、出来ると思っている。
成し遂げるには仲間が必要で。
「わかりました、失礼しまし‥‥」
「待ちなさい、カトレア」
俯き、書斎を出ようとする私を父は呼び止め、困ったように溜息を吐く。
「君は頭は良いがせっかちだね。王都行き自体は反対していない。ただ、もうちょっと待って欲しい」
「でも、『成人の儀』まで時間は有るようでないと思います。早めに動いた方が‥‥」
「何も何年も待てという訳じゃない。一月くらいあれば何とかなる」
一月?キョトンとした私に、父は町の開発計画を教えてくれた。
ダンジョンが出来れば、あらゆる物の価値が変わってくる。冒険者達が集まれば、宿屋、酒場、商店などが必要で、その為の人員も増える。
定住する者が増え、またそこに需要が生まれる。
町は大きく変わろうとしている。
その一つが、以前から案があった乗合馬車の運航。
人の行き来が増えるなら、インフラ整備は当然だ。
馬車での旅なら時間も短縮、簡易休憩所も建設予定でこちらは少しずつ増やす予定だが、最初はなくても運航は出来るだろう。
この馬車が動かせるのが一月という事らしい。
「もう、それならそういう風に言って欲しいです」
「馬車でも心配なのは変わらないさ。カトレアは一人で何でも出来てしまうが、少しは頼りなさい」
父は優しく微笑んで、頭を撫でて言う。
「それから、この際なのできちんと話しておこう。『成人の儀』を迎えると、カトレアは公式には貴族ではなくなるのは知っているね?」
「はい」
これは王族でも適応され、後継ぎ以外、公式には貴族席から抜ける事になる。
勿論、私なら『男爵令嬢』の肩書きはそのままだし、社交界などでも扱いが変わる訳でもないのだが、
家督の相続や権利は一切無くなる。
なので次男以降で爵位が欲しい場合、他の家に婿入りか嫁入りして伴侶という形(母はこのパターンで元子爵令嬢で現男爵婦人)か、自身が功績で授爵するしかない。
「それで、今まで嫁入り相手を探していたのだが‥」
「見つからなかったと」
うん、うちが貧乏貴族なのもあるけど、絶対《喪女》のせいだから。父のせいじゃないので申し訳ないような顔はしないで欲しい。
おのれ、アルテイシアめ!
「この状況でクロフォード領が大きくなると変わるかもしれないが、断った家が手の平を返すような事はないだろう」
まあ、突然裕福になって今まで邪険にしてた奴がすり寄ってきても、もう遅い、ザマァって感じですね。
「せめてカトレアがやりたい事は応援させて欲しい」
「ありがとうございます」
父は父で、ちゃんと私の事を考えていてくれる。それは、母と兄もだろう。
自分の事は自分でやらなくてはいけない。前世でもそうだったし、迷惑を掛けてはダメだと思っていたけど、掛けられて嬉しい『迷惑』もあるのだ。
そう言えば、前世でもギルマスは世話好きな人だったか。一人で生きているようで、見てくれている人ちゃんと居たね、私。
そして一月が経つ。
この間は、今まで手を付けていなかったギルドの討伐依頼を中心にこなしてポイントを稼いだ。
特に近場のアーマーラットには悪い事をしたかもしれない。《竜魔法》の『あっついのデシ』で絶滅危惧とかになってないよね?(汗)
おかげさまで、銅から鉄にランクアップしました。PT募集にしたって、銅ランクでポイントゼロでは駆出しにしか見えないので、上げておきたかったしね。
それから、大量のお肉でジャーキーや燻製など日持ちするものを量産。一ヶ月くらい家を空けるという事で「しばらく精進料理か‥‥‥」と寂しそうに兄が呟いていたしね。
生鮮肉が終わったら、それで我慢してもらおう。
兄と言えば、ラテ川の主と遭遇したらしい。四メルクくらいの巨大魚で、結局糸を切られ逃げられたそうだ。あっちはあっちで、釣りバトルみたいだ。
そんなこんなで準備を進め、乗合馬車の初運航の日がやって来た。
私はダミーとして大きめの肩掛け鞄を下げ、見送りに来てくれた家族に挨拶を。
「それじゃ、行ってきます!」
「気を付けてね、カトレアなら大丈夫だと思うけど、王都は色々な人もいますからね」
きゅっと母とハグ。父と兄は恥ずかしいので無しと言ったら、寂しそうだったけど。
知らない王都行きは不安もあるけど、帰ってくる場所はちゃんとあるから、大丈夫です。
PTメンバー探しは大変だろうけど、せっかくなので観光とかもしたいよね。
そして勿論、素敵な出逢いとか?
あったらいいなぁ‥‥‥‥‥‥はあ。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m