第八十話「あと五年くらいしたら違うかもしれない」
「良いんですか?ゴブリンですよ?」
大規模なゴブリン討伐はたまに募集されるのだが、所詮はゴブリン。単体なら一般人でも頑張れば相手になる危険度1。数が多いと脅威だが、普通のロードでも危険度は5。
私達、鉄ランクくらいだと油断は禁物だけど、金ランク冒険者が出る程の依頼ではない。小学校のかけっこにお馬さん娘が参戦するようなものだ。
「しばらく暇なのよ。ついでにカトレアちゃんの成長も見たいしね♪」
「あれ、そう言えばイザークさんは………」
私が今気付いたといった風に尋ねると、にやっと笑うアネットさん。ああ、はい、アネットさんを見た時に姿を探しちゃいましたよ。
「弟ならデート中よ♪」
「でででで、でえとぉ!?」
デートってあれですか。マジですか。そりゃイザークさん金ランク冒険者という優良物件で黒髪美青年って感じで格好いいし、一見クールだけど実は優しくて、相手なんていくらでもいそうだけど………。ええ、だって、ねぇ。何処のどいつだ、その相手はっ!
「誰がデートだ、バカ姉」
私が混乱していると、後ろから声が掛かった。
このイケボと口調は!
「イザークさん!」
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
振り返れば、黒衣の美剣士が立っていた。やや長めのサラサラの黒髪、中性的な顔立、やっぱりイケメンですわー。乙女ゲーで一人はいるタイプ。だが、それがイイ!
問題は寄り添うように立っている蜂蜜色の金髪娘。年の頃は十七、八か。そこらの町娘が着るような服装だが、気品のある感じ。柔和な顔立ちは控え目に言っても美少女だ。
くっ、イザークさんの隣でも負けない辺りが妬ましい。私じゃ頑張っても年の離れた妹なんだよなぁ。
「アネットさん、こんにちは。それから……お知り合いの冒険者の方ですか?」
「はい、こんにちは。そうですね、こちらはあの〈グリムの救済者〉のカトレアちゃんとシャルロッティちゃん、その仲間よ」
「まあ!お噂は予々。まだ成人前ですのにご立派で、わたくしも見倣いたいですね」
アネットさんの紹介に美少女さんはガシッと私の手を取って笑顔でそう言う。どこぞの令嬢のお忍びっぽいんだけど、意外にスキンシップ激しいタイプか。
「え、えーと、この方は………?」
「あ、私はアンジェリーク・アドニスです。アンって呼んで下さいね」
後に花を背負った満面の笑みで彼女は先刻話題になった名前を答える。
アドニス侯爵令嬢がなんでこんな所に居るんですかね………もしかして副都絡み案件ですか。
「えー、良いんですか、それは……」
「はい、是非とも愛称の方で!」
いや、そっちじゃなくてさー。
イザークさんを見ると、目を伏せて首を振る。うん、彼女はきっとこんな調子なんだろう。その案件で王都に来ていて、イザークさんはお忍びの観光の護衛依頼を受けてる感じかな。
「あれ、それじゃ依頼の途中じゃないんですか?」
「こっちの依頼は弟ともう一人だけで十分なのよ。私と仲間がもう一人、手が空いてるのよね。うちのPTが全員で動く依頼はそれほど多くないのよねー」
PT全員でやる依頼でもない訳か。馬車の護衛もアネットさんとイザークさんだけだったしね。
まあ、王国最高と言える金ランク冒険者PTが動くような依頼がごろごろしてたら、それは問題だよね。前世でも自衛隊とか普段は一部を除いて暇してる訳で、それは概ね平和な証拠だ。
アネットさん達は、普段は個別で依頼を受けて危険な依頼のみ全員が集まるスタイルなのだそうだ。あと二人仲間が居るらしいけど会った事がないから、どんな人なんだろ?
「じゃあイザークさんは護衛の方ですか……」
「あら、私じゃ不満かなー?」
「い、いえ、別に、そう言う訳じゃ!」
だってさー、せっかくなら一緒だと嬉しいかなーって思うじゃない。私の「成長」 だって見て貰いたいしさ。
なに、どこが成長した?身体じゃなくて、冒険者としてだよ!〈空間魔法〉だって使えるようになったしね。いや、あれはあまり人前で使うと問題ありそうか。
「ふふ。彼はお借りしますね♪」
「あーうー」
会ったばかりのアンまで……もー、イザークさんはどっちかと言うと年の離れた「お兄ちゃん」って感じなんで、そう言うのではないのよね。
兄は居るんだけどシュロ兄はゴールデンレトリバーなタイプだからなー。ちょっと私の趣味とは違うのだ。
「………め、ですわ」
「ん?」
会話に加わるのを遠慮していたっぽいシャルちゃんの呟きに少し落着きを取り戻し、振り向くと。
「ダメですわ、カトレアさんはわたくしの嫁ですわー!!」
「それも違いますー!」
がばっと抱き付いてくるシャルちゃんに拘束され、私は叫んだ。
なんだかグダグダになってしまったが、久しぶりの再会。アネットさんとイザークさんも元気そうで良かったです。
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