第七十九話「序盤のゲストNPCはLVが高い」
「お久しぶりです、アネットさん!」
声を掛けてきたのは初めて王都に来た時にお世話になったアネットさん。相変わらずに露出度高めの革鎧に小太刀を二本下げている。
「直接会うのは久しぶりねー。噂は色々と聞こえてきてたけどね」
「あー、なんか予想は付くんですけど……」
「グリムの件とか、ね。冒険者の世界って狭いのよ?」
グリムは数少ない多国への輸出品でもあるワインの産地という事もあるけど、災害の話は学院なんかでも広がってたみたいだしなぁ。一緒に救援に向かった者や現地で足止めされていた冒険者も結構居たから、そこから噂が流れたのだろう。
「こちらの方は………もしかして〈幻光〉のアネットさんですの?」
「うん、そのアネットさん」
苦笑いの私にシャルちゃんが聞いてくる。そういやアネットさんと一緒だったのは、シャルちゃん達に会う前だったね。
「カトレアちゃんの仲間かな?よろしくね~♪」
「お初にお目に掛かります、シャルロッティ・エストですわ」
「グリムの件の大きい方の御令嬢ね。貴女の事も結構噂になってるわよ」
ちょこんとカーテシーで挨拶するシャルちゃんにアネットさんは頬笑む。アネットさんの言葉に冒険者として名を上げるのが目標のシャルちゃんは嬉しそうだ。
───大きい方って、身長だよね?違う部分で比較されてないよね???
「ユースです」
「シシリーです。金ランクの人と知り合えるなんて光栄です!」
「アークライト・ミュゼルです」
三人もペコリと頭を下げる。
冒険者の中でも金ランクまで上がれる者は少数だ。多くは鉄ランクで頭打ちになり、優秀な者が銀に届くものの、金に上がれる者は殆ど居ない。
アネットさんはその一人で、すごい人なのだ。
「シャルロッティちゃんは前衛であとの三人が後衛かな?なかなか良さそうな仲間が出来たみたいね。お姉さん安心したよ」
「はい、自慢の仲間です!」
皆を見回して頬笑むアネットさんに私は胸を張る。
まだまだ私達は冒険者としては未熟だけど、信頼出来る大事な仲間だ。
そんな私の様子に満足気に首肯くと、アネットさんが急に真剣な顔になる。
「ところでカトレアちゃん」
「はい?」
「例のステーキ、まだあるよね?」
───広がってる噂って災害の方じゃなくてドレイクステーキの話だったりしないよね?
それから少し世間話と情報交換。
別れてからアネットさん達は王国の東海岸の方に行っていたそうだ。
アーシェン王国は前世の房総半島のような形というのはした気がするけど、王都があるのは西側だが東側には副都アドニスと呼ばれる都がある。王国の東の玄関口なのだが他国との交易の主流は西の内海ルートで、こちらは少な目。
単純に航海の危険度が違うのが一番の理由で、外海は危険な魔物が多く海も荒い。内海も勿論魔物は棲息しているので安全とは言えないが東ルートよりは危険は少ないのだ。
それでもその海を越えてくる少数の船での貿易と、近くにある鉱山とダンジョンのおかげで王都に負けないくらいに賑わう都市らしい。
半島の中央はグリムの山々があるため西側から東海岸に出るには大きく南を迂回するルートが一般的。ちなみに、シャルちゃんの実家であるエスト領はその主街道から外れ更に南の最南端にある。クロフォードと一緒でそこまで人が来てくれないから辺境なんて呼ばれるんだよねー。
詳しくは教えて貰えなかったが(一応守秘義務というやつだそうだ)、その副都で政治絡みのゴタゴタがあったそうで、そちらの依頼が終わりアネットさん達が王都に帰って来たのは数日前なのだそうだ。
うーん、そういう依頼は面倒そうだなー。ラノベ主人公とかだと巻き込まれたりしそうだけど。
「こっちはこっちでゴブリンって話だけど、カトレアちゃん様子を見て来たんでしょ?どんな感じ?」
「ダンジョンの南に百匹規模のゴブリンの村?があって、そのゴブリン達とダンジョン産のゴブリンが争っているっぽいんです。今の所は近付かなければ巻き込まれたりはしないかもですけど……」
既にギルドで聞いていたのか、ある程度は事情は知っているようなので、経緯は飛ばす。
先住のゴブリン達はそれほど問題になる数ではない。その全てが森を出て村などを襲ったりすると脅威ではあるけど。
問題のダンジョン産。魔物の暴走の事例だと、彼等は例外無く村や町を襲ったそうだ。外で暮らす普通?の魔物は各々が自然の生態系の中で生活しているので、そのテリトリーからあまり出てこないという話はした気がするけど、ダンジョンの魔物はそれに当てはまらない。
そもそも見た目は一緒だけど、外でも倒したら消えてドロップアイテムが残るというゲームのような謎の存在なのだ。そして基本的に出会えば襲ってくる。
今回は暴走と呼ばれるような物ではないが、人里に出て来る可能性は高い訳で。
「森のゴブリンが頑張って抑えてくれてる感じになってるって事ねー」
「とりあえず、私達以外のPTはまだ帰還してないと思うので、そちらの報告を待ちながら討伐隊の募集を始めたっていう状況ですね」
ふむ、と首肯いて。
「その数だとロードクラスが居る可能性は高そうね。それで高ランクの募集か………今手隙だし私達も参加してみようかな」
「ええ!?」
これは心強い仲間が出来たかも。
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