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第七十七話「普通のご飯が食べれるというしあわせ」



そんなこんなで朝です。

クロガネのリクエストは「日本の朝ご飯」。家庭によって朝の定番というのは違う───私の家では食パンに目玉焼きとカップスープとか。忙しいと簡単に作れる物になっちゃうよね───ので、所謂イメージの定番メニューだよね。

まずは、ご飯を炊いて、それから鮭の切り身を焼き始める。この間に御味噌汁を作っちゃう。今日はお豆腐とワカメ。うん、この三品だけでもザ・定番って感じだよねー。仕事あったりすると忙しい朝に作る時間が惜しくてインスタントになっちゃうんだけど。

あとは折角だし納豆に生卵、梅干し。小鉢に作りおきのひじきの煮物。まあ、朝だしこんなものか。


ご飯の炊ける匂いに釣られてか、ゴブリン達が起き出し、シャルちゃん達も天幕から顔を出した。

お腹が空いたのは分かるけど、寝起きのままに来るんじゃないっ!《生活魔法》で水を用意してゴブリン達にも顔を洗って貰う。


『その見ためで、おかんかよ。まあ、中身は……』

『身嗜みくらいはちゃんとする!当たり前!それと中身とか言わない!あんたも顔くらい洗いなさいよ』


ゴブリン達に言葉は通じないものの、朝の支度をさせる私に呆れたように言うクロガネを一喝しておく。乙女の年齢は前世+今世で計算してはいけないのだ。


シャルちゃんにも手伝ってもらい配膳を終えて、いただきます。


『あー、こんな定番な朝飯なんて前世でも食ってねーぜ。言ってみるもんだなぁ』

『忙しいと結構手間だからね』

『いやぁ、ほぼコンビニでコーヒーとおにぎりとかだったからなぁ。いや、美味いわ。ちゃんとした飯が食えるって有り難いんだな』


独身男性だとそんなものか。何も食べないよりはマシかもだけど、朝食はちゃんと摂らないとダメです。


「御味噌汁美味しい~。お豆腐とワカメは黄金コンビだよね~♪」

「GUGYAGYA!」


シシリーが目を細める向こうでゴブリンAが同じような顔をしている。うん、やっぱり美味しい物に国境だったりはないのだよ。



ご飯を食べて落ち着いた所で、出発準備。

騒動が森の中だけで完結するなら人間にとっては些細な問題かもだけど、それで済みそうでは無いよね。大体、森に出たゴブリンを討伐した所で根本的にダンジョンの異変が解決する訳ではないんだし。

こうして先住のゴブリン達と交流をすると、ちょっと抵抗はあるけどダンジョンのゴブリンは別物だと割りきらないといけないか。まあ、ダンジョンの魔物って倒すと消える時点で真っ当な生物じゃない気がするんだけど。


『なあ、ちょっと相談なんだが………』

『……はい、これあげるわ。あんたも《空間収納》は持ってるんでしょ?』


天幕なんかの片付けをしているとクロガネが申し訳無さそうに言ってきたので、見繕っておいた調味料とか食材を出してあげる。お肉は狩で手に入るだろうから野菜や果物、お米と小麦なんかの穀物類、それから魚介。後は予備のお鍋とかの調理器具。


『………いいのか?』

『余ってる訳ではないけど、多めには買い出ししてるから大丈夫よ。後、これ』


最後に出したのは私が文字の勉強に使った子供向けの勇者の童話の本と一通の手紙。本は私が日本語でルビを振ってあるから文字を覚えるのに良いだろう。


『これで文字を覚えれば簡単な筆談くらい出来るでしょ?時間があれば教えてあげてもいいんだけど。手紙はもし本当に困ったら、それを持ってクロフォード領に来なさい。私は冒険者だし何処にいるか分からないけど、実家にはそれとなく伝えておくわ』


簡単な会話は少しだけ教えたが、文字を覚えれば交流はなんとかなるだろう。私達はずっと王都にいる訳ではないし、ここまで頻発に来れるほど暇ではない。もっとも、そこまでして貰うつもりはクロガネにはないだろうけどね。

手紙は保険だ。必要にはならないと思うけど、もし何かあったらクロフォードに移住するなりすれば良いだろう。


『色々すまねーな。正直助かる。代金になるか分からねーけど、こいつを持っていってくれ。うちに貯め込んでた戦利品?じゃねーかな』


クロガネが手渡したのは宝石類。出処は………まあ、冒険者とかかもだけど。少なくともクロガネがロードになってからは人間との接触は避けていたようなので、先代とかの頃の物かな。


『大した価値はないだろうが、渡せるようなモンはネェからなぁ……それで勘弁してくれ』

『十分よ。それより、村や街に出る時は気を付けて。良い人ばかりじゃないだろうからね』

『ああ。まあ、当分先になるだろうからな。それまでに言葉と外見だけはなんとかするさ』


うん、頑張れ。

大豆とかが生産出来るか手に入って、製法が解れば醤油とかも自作すれば食事も改善するだろうけど、知らないしなー。異世界スローライフ系ラノベの主人公ってすごいわ。

部族が何人いるか聞いてなかったけど、それなりの量だからたまに食べる分には足りるかな?

早く狩の獲物なんかを売って人間と交流出来るようになれば良いね。


「さてと、こっちは出発出来るぜ」


クロガネに荷物を渡している間に片付けは終わったようだ。残っている天幕なんかの大きい物を私の《空間収納》にしまえば出発かな。


「ゴブリンさん、またねー!」

「貴重な経験をさせて頂きましたわ」

「そうですね。カトレアさんといると他では味わえない体験ばかりです。国の方でも簡単にはいきませんが知性的な魔物との交流は考えるべきかもしれませんね」


うちのメンバーもすっかり打ち解けたようだし───そういやアークの家は文官やってるんだっけ。国で保護というか交流出来ればなー。

まあ、普通のゴブリン相手は難しいだろうから、クロガネの所くらいだろうけど。


『世話になったな。色々この世界の事も聞けたし、助かったぜ。いつか歓待出来るくらいになったら村にも来てくれや』

『楽しみにしてるわ』


ゴブリン達と別れを告げて、私達は南に向かう。

お読み下さりありがとうございます。

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