第七十六話「ゴブリン君の家庭の事情②」
「南は確か……〈叢雲〉の二人だったよな。あと南東が〈竜滅の剣〉だったか?」
「少なくとも二十ですか……遭遇戦は厳しいかもしれませんね……」
私が通訳すると、一同難しい顔になる。
少数なら問題はないだろうけど、囲まれたらジリジリと消耗戦になってしまう。その間に増援があるかもしれないし、やはり数は暴力だ。
『この近辺にもたまに来るみたいだが、本隊は来ていないだろう。まだ南のも頑張ってるみてーだし』
『南の部族は結構数はいるの?』
『あそこは近隣の部族では一番大きいからな、百匹くらいいるんじゃねーか?そことやり合ってるんだから、ダンジョンの奴等も手応えありそうだ』
蚕エリアで遭遇したのは偵察にでも来ていた個体かな?ダンジョン産ゴブリン達が森に侵出して、元々いたゴブリンの縄張りを荒らしているって感じで決定かなぁ………なんか見落としてない?
「じゃあ北側はこれ以上進んでも何もなさそうだね」
「それよりも南側に向かった〈叢雲〉さんの援護に行くべきですわね。ダンジョン産達の拠点は分からないんですの?」
シシリーの言葉に首肯くと、シャルちゃんが聞いてくるが、クロガネは首を振る。
『正確な位置は分からねーな。もっと南か……南東か……南の奴等なら知ってるかも知れねーが、あいつらとは仲が良い訳じゃねーからなぁ』
「とりあえず南に向かうのは決定だけど、〈叢雲〉さん達がどの辺りにいるかまでは分からないし……まずは予定より早くなるけどダンジョン入口に戻ってギルドに報告が無難か」
ダンジョン産ゴブリンの集団がいるのは確実。現在は先住のゴブリン達と交戦中。数は最低でも二十。百匹規模のゴブリンと戦っているなら、発見出来ていない本隊がいると思われる。
彼等の拠点の場所は不明だが───北側は無い。ダンジョン内にある可能性も無くはないが、東の新たな入口近辺を含め〈紅蓮花〉が調べている。南の部族と交戦中という事なら、その近隣か南東が怪しいか。
その情報だけでも伝えて討伐隊を編成して貰うのが本来の依頼なんだけど………。
「途中で他のPTと合流したい所ですね」
「予想外に数が多そうだしな。〈紅蓮花〉だって本隊と当たれば危ないんじゃないか?」
本隊の規模は分からないけど、百匹程度の部族に喧嘩を売るくらいだ。結構な数はいそうだよね。流石にクロガネ達のようなのは規格外だが、ダンジョン基準ならロードクラスでも〈紅蓮花〉ならいけるだろうけど集団に囲まれたらジリジリと消耗戦になってしまう。当初の予定通り発見したら戻るべきだろう。
そこら辺は〈紅蓮花〉も〈叢雲〉も弁えてると思う───〈竜滅の剣〉はやらかしそうだけど───ので、まだまだ冒険者としては新米の私達が心配する事もないだろうけど。
「とりあえず状況は予想より悪いみたいだし、一度ダンジョン入口の拠点に戻りましょう。他のPTは私達より先に集団に遭遇して戻ってるかもしれないしね」
「そうですわね……闇雲に森の中を歩くのも非効率ですわね」
首肯く一同。
『私達は一度拠点に戻る事にするわ。たぶん大規模な討伐隊が編成されると思うけど、あんた達は村?に戻った方が良いと思うよ』
『そうさせてもらう。俺達は人間と争いたい訳じゃねえからな。鍛えてるのも自衛の為だ。しばらくは大人しくしているさ』
クロガネ達の戦力は馬鹿に出来ないが、私達だけなら良いけど他の人間と共闘は難しいだろう。
片付けをして今日は就寝。
見張りは双方で出す事に。まあ、知り合って間もないゴブリンに任せて寝てはいられないよね。同じ転生者としてクロガネはそれなりに信用はしてるけど。
ちなみにゴブリンって言うと夜行性のイメージだったんだけど、特にそういう訳ではないらしい。洞窟とかダンジョンとかに住んでるので夜目は利くけど、基本的には昼間に活動して夜は普通に寝るそうだ。
また朝方の担当になった私と、それに合わせたクロガネはお互いのこれまでや、この世界の状況などを色々と話した。
クロガネは仕事の帰りに「何か」に巻き込まれ転生し、女神に貴族とかに転生を望んだが人間枠はいっぱいなので、それ以外という案を飲んだ所ゴブリンに転生したらしい。(『エルフとかケモ耳ならアリだと思ったんだよ』)
それが五年前。私が週末の攻城戦に不参加だったのが話題になった翌週くらいだったらしいので、時間のずれを感じる。やっぱり此方と彼方では時間の流れは違うのか。一週間で五年なら、三百年前の勇者も六十週間前──一年ちょっと前に転生した事になるから以前思った疑問も解消されるが、どうなんだろう?
───って言うか、あんた五歳児かよ!ゴブリンの成長の早さは知ってたけど、そっちの方が驚いたよ。
『ゴブリンは五年もすれば大人なんだよ』
その分寿命は短い。大抵はその前に狩や怪我などで命を落とすので全うする者は少ないようだが。その事についてはどう思っているのだろう?デリケートな話題なので、触れる事はなかったけれど。
半ば冗談でラノベの作品のように魔物に転生とかだったら大変デスワーとか思ってたが、実際にこの世界で生きるのは本当に大変だろう。クロフォードも貴族としては裕福とは言えなかったが、駆け出し冒険者ですら脅威になりうる危険度1のゴブリンでスタートとか、どんなルナティックモードだよ。
そして自衛の為なんて軽く言ってるが、彼等強さはその境遇を改善しようと足掻いた結果なのだろう。生きる為には強くならなくてはいけないんだ。
『まあ、ゴブリンだって悪くはねーさ』
そんな風に考えていたのが顔に出ていたのか、クロガネはニカっと笑ってそう言った。
『………朝ご飯、リクエストは?』
『そうだなぁ………ここはやっぱり「日本の朝ご飯」ってやつか?』
『りょーかい』
うん、ご飯くらいは美味しい物を食べて貰おう。
私は話を切り上げて、朝食の準備を始めた。
お読み下さりありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。なかなかゆっくり見直す時間が無いので助かりますm(_ _)m