第七十四話「出会いは戦場で」
「カトレアちゃん、いつの間に……」
「まあ、いつもの事だろ。俺達は取巻きの足止めだ!〈火聖霊の壁〉!」
突然ゴブリンの集団の中からシャルちゃんの所に転移した私に驚くが、いち早くユースが立ち直り《火魔法》でゴブリン達の周囲に炎の壁を作り出す。
焼き尽くす程の業火ではなく、強引に突破するのは容易ではある程度の物なんだけど……
「〈集中豪雨〉!」
続いてアークが《水魔法》を放ち、ゲリラ豪雨のような雨が降り注ぐ事で、辺り一面に大量の水蒸気が立ち込め、ゴブリン達を覆い尽くした。
「それそれそれ~!」
「GUGYA!」
視界を奪われたゴブリン達に、シシリーが文字通り矢継ぎ早に矢を撃ち込み、更に混乱に拍車が掛かる。
うん、しばらくは上手く足止めしてくれそうだ。
あっちは大丈夫そうだね。
『俺の〈錬魔斬〉もダメージ無しか』
ロードが顔を歪める。
あの程度の魔力の集束じゃ問題外だよ。イザークさんの〈神氣解放〉辺りだと分からないけど、危険度7のツインランサードレイクの突進にも耐えて見せたんだ。そう簡単には破られないよ。
まあ、過信は禁物だけどね。
『前世のゲームでもだが………防御特化は相性が悪いな』
『この世界はゲームじゃないわよ』
『んな事ぁ分かってるけど、スピード重視が一番しっくりくるんだよ。あんたもそうだろう?』
エルグラの時と同じく、私は魔法と防御重視のスタイルだ。
ロードはスピード重視の軽戦士系だったのだろう。GVGでは私のようなタイプを避けて遊撃に回るのが基本だろうね。
『まあ、確かに、ね。転生特典で貰ったスキルがエルグラのを継承した感じだし』
『やっぱりエルグラのプレイヤーか………ん?転移魔法を使う防御特化……?いや、まさか……』
私の台詞にロードがぴたりと止まる。
あー。まあ、同じエルグラやっててPVPが好きなら攻城戦も参加してるよね。
『………つかぬことをお訊きしますが、ギルドはどちらで……?』
『蒼穹愚連隊よ』
『やっぱりかあああああ!!』
叫んでガックリと膝を着くロード。
……そこまで驚かなくても。
『あの!戦場の悪魔!合法ロリの一人機動要塞かぁぁ!あっちのスキル持ってるなら俺の攻撃がまったく通じないのも分かるわ……』
『なんか問題のある二つ名が混じってるけど、それで合ってるわよ。私を知ってるって事は攻城戦で当たった事があるのかな?』
『俺は〈幻想騎士団〉の序列8位〈風斬り〉の鉄だ』
毎週行われる攻城戦だが、〈幻想騎士団〉は常に城持ちの大手ギルドだ。団長含めエルグラのトッププレイヤー数人が在籍してる対人の強豪だね。
私の所属していた〈蒼穹愚連隊〉は古参の上位陣ばかりだが、アットホームが売りの小規模ギルド。社会人ばかりで夜のコアタイムでも1PT組めるくらいしか人はいない。攻城戦は同盟のギルドの助っ人的に参戦な感じで城持ちでは無いが、〈幻想騎士団〉と当たった事は何度もある。
『あー……くーさん所かぁ………うん、ごめん、覚えてないわ』
『覚えてねーのかよ!』
そんな事言われても、〈幻想騎士団〉って定員最大の百人とかいるんだから仕方無いと思う。
有名プレイヤーかフレでもなければ数万はいるPC全員が攻城戦に参戦する訳ではないとは言え、名前を覚えきれないよね。
うん、私が特別物覚え悪い訳じゃない。
『まー、〈幻想騎士団〉では上の方だけど、エルグラのトップって言えるのは団長と上位三人くらいで、俺と同レベルの連中は山程いるけどさぁ……そっかー、認識すらされてなかったかー……キャラ名も一文字で珍しいから印象には残りやすいんじゃないかなーとか思ってたんだけどなぁ………』
『なんか、ごめん。いや、ほら、今はゴブリンだし、余計にね?』
『高校の時のクラスメイトに結構可愛い子がいてさ、毎日挨拶もするし、休み時間なんかにも話したりしてたんだけど、卒業して一月位して街中で会ったんだよ。そしたらさ、「え?誰?」みたいな顔されたんだよなー……』
あー、それは一緒にいた友人が目当てで、彼は眼中になかったとかじゃ?
『ああ、もうっ。悪かったってば。それよりも、まだやる?こっちは元々あんた達が目的じゃないんだけど』
『ゴブリン退治に来たんじゃねーのか?』
『ゴブリンはゴブリンでも、ダンジョン産の方。あんた達は違うでしょ?』
漸く話を聞く気になってくれたようで、クロガネは立ち上がると剣を収める。
『俺達はもっと東に住んでるんだが、最近余所者がこの辺りを荒らしてるらしくてな。その調査に来ていたんだが……ダンジョン産?』
地元民からしてみればダンジョン産ゴブリンは余所者か。ゴブリン同士で仲良しって雰囲気ではなさそうだ。
広い森を地道に手掛かりを探さないといけないかと思ったけど、ダンジョン産の居場所とか規模とか知ってれば助かるんだけど………
『どうやら目的は一緒みたいね。詳しく聞かせてくれない?勿論こっちも情報提供するわ。それに……』
───ぐう。
お腹が鳴った。
『腹ペコキャラかよ!』
『ウッサイわね!これからご飯って時に来たあんた達が悪いわ!!』
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