第七十一話「転生したらゴブリンでした」
遅くなりました……。
『……って事は、あんた転生者?』
『いるとは思ってたが、実際に同郷の奴に会うとはな……』
やけに仕草が人間っぽいと思ったけど、本当にゴブリンに転生しちゃった人かー。
初めて会った転生者がゴブリンとか……転生者同士で仲間になったり結ばれるパターンは多いと思うけど、ゴブリンかー。
最近はあまり考えないようにしてたけど、本当に出会いフラグが酷くない!?
今回の王都行きで知り合った人だと……ランちゃんはおネエだし、〈叢雲〉は年上過ぎるし、アレは問題外だし、フラグが立ちそうな転生者はゴブリンだし……。
まったく称号さんは働き過ぎるよ!
てか、ダンジョン関係のイケメンの話はどーなったんだ?まだなの?やっぱりダンジョンの中で出会っちゃう感じなの?
『なんだよ溜め息なんか吐いて。悪かったなゴブリンで。俺だって好き好んでゴブリンになった訳じゃねーぞ』
『ああ、うん。まあ、そうだろうね』
ゲームでは人外キャラでゴブリンとかオークとか選べるものもあった。でも元人間としたら、リアルでは選びたくはないよねぇ。エルフとかケモ耳系とかはアリだと思うけど、この世界でゴブリンはGみたいな扱いだし……。
『まあ、俺の事はいい。あんたらゴブリン退治に来た冒険者ってやつか?』
『一応そうなるかな?』
『やっぱりそうか。なら、やる事は一つだな』
そう言って剣を構え直すゴブリンロード。
転生者と分かるとやり辛いんだけどなー。
『遠慮はいらねーぜ。せっかく久しぶりのPVPだ、楽しもうじゃねーか』
この戦闘狂め。やるしかないのか。
これまでゴブリンとして生きてきたんだ、向こうは向こうの都合もあるだろう。
私も小剣を構える。
相手はただのゴブリンロードじゃない。もし誰かの「やらかし」以前の転生者ならチートスキルも持ってる可能性すらある。
「みんな気を付けて!こいつらただのゴブリンじゃないわ!」
「みたいだな。それにしてもゴブリン語?何か話してたようだけど……」
「ゴブリン語じゃなくて遠い国の言葉なんだけど、あのロードが使ってたから話が通じるわ。聞きたい事もあるから出来れば無力化だけ出来ればいいんだけど……手加減する余裕は無さそうね」
ユースにそう言って、私はチラリと他のゴブリンを観察する。
ロードだけじゃない。他の取巻き達もおそらくただのゴブリンではない。手にした武器は様々だが、構えからして普通のゴブリンが振り回すだけとは違う事が伺えた。
「GUGYAGHYUU!」
ロードが叫ぶとゴブリン達が一斉に動き出す。
狙いは………私か。転生者の私をまず落とそうって事だろうけど、都合がいい。まさか一番軽装で年下っぽい私がPTの盾役とは思わなかったのだろう。
「《挑発》まとめて相手をしてあげるわ、かかってきなさい!」
敵視を集め、私は前に出てゴブリン達の攻撃を受け止める。最初に斬りかかって来たゴブリンの剣を払い、続く斧を振りかぶったゴブリンに切りつける。
「こっちも行きますよ。〈防御の加護〉を!」
「援護します!」
アークの《神聖魔法》が皆の防御を高め、シシリーが後列に矢を放ち牽制。
「〈火聖霊の槍〉!」
「〈再装填〉、カトレアさん一人にいい所は持って行かせませんわよ!」
続くユースの魔法が先頭のゴブリンを引かせると、そこにシャルちゃんが突貫する。前回の王蚕戦で随分と連携も良くなってきたと思うけど、今回の相手は簡単にはいかせてくれない。
牽制とはいえ、シシリーとユースの攻撃をかわし切り払う。シャルちゃんの突入は防御に徹し、そこで足を止められていた。
その間に残りのゴブリンが私に迫る。
「セオリー通りの良い連携ね」
片手剣持ちのゴブリンが正面から、それを受けると右から槍が。体勢が崩れる所に斧持ちが入れ替る。流れるような連続の攻撃だが、生憎私は全てを受けたりかわす必要は無く斧が肩に当たるが、《全周囲防御》に弾かれる。
『なんだそりゃ、防御スキルの類か!?』
『この程度じゃ、私の心の壁は抜けないわよ!』
前に出てきたロードが驚く。見た目はただのワンピースだからね。
しかしダメージは無いのは良いが、無力化するようなスキルが無いんだよね。〈竜魔法〉は威力が有りすぎだし、後は〈剣魔法〉に火と土魔法だからなぁ……むむむ、やっぱり搦め手のスキルは覚えたい所だけど、今無いものは仕方無い。
攻撃効かない事で諦めてくれれば一番なんだけど………。
『っち、やっぱり転生者は簡単にはいかねーか』
『そう言うアンタだって隠し技の一つや二つくらい持ってるんでしょ?』
『ま、そうだな。こういう事態を予想して備えてきたんだ、見せてやるさ。《慣性制御》!』
スキルを発動したロードはこちらに向かって突っ込んでくる。見た目の変化はないようだが、ただ突っ込んでくるだけならただの的だよ?……とりあえず《土魔法》で石の槍を作り出し、ロードを狙う。
――が、真っすぐに突進してきた筈のロードはいきなり直角に反転、槍をかわす!
『……そういうスキルか、やっかいね。人の事は言えないんじゃない?』
『車両は曲がるもんじゃない、曲げるもんだ!って言うだろ?』
『それパロディの方じゃない』
車は急には止まれないというけれど。物理は苦手なので細かい事は知らないけれど、慣性というものがあって普通は走り出したらその方向に掛かる力の為に急に曲がったりは出来ず、ましてや直角に曲がるなんて事はできないものだが。
どっかの走り屋さんも真っ青のコーナーリングを可能にするスキルか。最高速度が上がる訳ではないが、緩急の激しい戦闘時に使いこなせば厄介なスキルになるだろう。
こちらが切りかかれば、ロードは有り得ない方向に回避してみせる。向こうの攻撃は効かないが、こちらも当たらない膠着状態が続く。
『防御は良いが、速さはこっちが上のようだな。当たらなければどうという事はない!』
『くっ、少佐の台詞を言われるとは一生の不覚だわ』
「よく分かりませんが、素早い相手ならわたくしの出番ですわね!」
不可解な動きで繰り出される攻撃に苦戦する私だが、そこに割って入ったのはシャルちゃん。
ロードの剣をガントレットで受けて。
「速さの勝負なら負けませんわよ、《加速装置》!」
お読み下さりありがとうございます。
最近はお仕事忙しくてなかなか更新できていません、ごめんなさい(>_<)