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第七十話「初めて会ったその日から。」


 「では、ここで分かれて各々の方向を探索して欲しい。緊急時には信号筒を使って貰うが、直ぐに駆け付けられる訳ではないので、各PTの判断で使ってくれ」


朝、ギルド前に集合して馬車で〈小鬼の迷宮〉の入口まで来た私達。ここでPT毎に分かれるのだが。


「精々ぼくらの足を引っ張らない程度に頑張ってくれたまえ」

「そーねー、私達が倒しちゃうかもだけどー」


私とシャルちゃんは見た目がまだ十歳程なので、言われても仕方がないとは思うが、〈叢雲〉さんとかにそれは無いんじゃないかなぁ……。


あ、やっぱりイラっときてそう。

概ね辺境でも困ってないこの国は、人間同士のいざこざが少ないから、冒険者でもあまり柄の悪い人って見ないんだけど、やっぱりああいうタイプはいるんだなぁと思ってしまう。


「ま、あれは放っておいて、こっちはこっちでやりやしょうか」

「ああ。大丈夫だとは思うが、皆気を付けてくれ。群れを発見しても手を出す必要はないから、無事戻ってくる事を考えてくれ」

「はい。皆さんお気を付けて」


去っていった〈竜滅の剣〉にため息を吐き、各々の方向に向かう事となった。



さて。

数日前にも東の森には来たのだが、特に変わった様子はない。広葉樹が繁っているが、クロフォードの北の森のように下生えまで酷い事はなく、この辺りには人の出入りもそれなりにある感じだ。

駆け出し辺りの冒険者がゴブリンやファングウルフなんかを狩ったり、採集依頼なんかで来るだろうし。


「ゴブリンの集団、本当にいるのかなぁ」


先頭を歩く、斥候の技術を学んだシシリーが呟く。今の所、彼女にはゴブリン等魔物の存在は感じられないようだ。


「ちょっと興味があってダンジョンから出てみたゴブリンを偶然俺達が発見した可能性も無くはないとは思うけどな」

「そんなふらっと家から散歩に出た家猫みたいな可愛いものじゃないと思うんだけど」


ダンジョン内のゴブリンについては詳しく聞いてないが、特に大発生していた訳ではないようなので、ラノベとかによくあるダンジョンの魔物のスタンピートという事はないと思う。

あるとすると、ダンジョンから出たゴブリンが外で繁殖している可能性だと思うが、王都を脅かす程になるには、まだ時間が経ってはいないと思うので、小規模な集団が出来ているかも?くらいだと推測される。

勿論、放っておけば脅威になるので早い段階で駆除出来たらいいなって感じなんだと思う。


「まあ、居なければ居ないで良いと思うよ」

 「それもそうですわね。大きな集団になりそうになければ問題はないですもの」


 アークとシャルちゃんの言う事はもっともだ。

 今回は二日程の調査依頼で何事も無くとも一人頭金貨三枚になる。私達は何事もなく森をお散歩して帰ればそれで問題はなし、抜けがないとは言い切れないが差し当たって見かける範囲にゴブリンはいませんでしたー、で終われば一番なのだ。完全にゴブリンを駆除するなんてのは無理だしね。


 それからお昼は簡単に屋台で買っておいたアランチーナを頂いた。

 ライスコロッケというか、中に具材を詰めたオニギリを揚げた様な料理だね。ミートソースや、ハムとチーズを詰めたもの、カレーの三種類を買っておいたけど、お手軽で美味しい♪

 どこの料理だったかか忘れたが……ヨーロッパの方?


 夕方まで北上を続けて遭遇したのはファングウルフが数グループと、通常のゴブリンが三体だった。

少し安心なのは通常のゴブリンがいるって事かな。この森にいたゴブリンすべてがダンジョン種に変わっているなんて事が起こっていたなら大事だからね。

前回は通常のゴブリンをまったく見なかったので、もしかすると……とも思ったけど、それは杞憂だったようだ。

明日辺りには蚕エリアに入るだろうから、進路は東寄りに変えても良いかもしれないかな?


 「さて、今日はここら辺までかな」


 まだ日はあるけど手頃な広さの空き地を見つけたので夜営の準備に入る事にした。

 皆も随分手慣れたもので何も言わずとも既に役割は決まっている。勿論私とシャルちゃんはご飯担当だ。

今日のメインは鶏肉のマヨネーズ焼き。前日に漬け込んでおいたので、こっちは焼くくらいかな。

それからレタスとキャベツ、コーンのサラダに、茄子と玉葱のお味噌汁。

あと何か副菜が欲しいかなぁ………。


その時だった。


「何か来るわ!多分、ゴブリン?それにしては、ちょっと違うような……?」


設営などをしていたシシリーが声を上げた。

私も竃の火を消し、手を止めて《空間収納》から小剣を取り出して警戒する。まったくご飯時に来るなんて礼儀がなってないよ。


森の奥から現れたのはゴブリンとしては少し大きめだが引き締まった体躯のリーダーらしきゴブリンに率いられた一団だった。

その数は八体。


「あれはゴブリンリーダー………?いや、もしやロードかもしれません!」


錫杖を構えたアークが叫ぶ。

だとすると危険度は4。私達からすれば手は抜けないが余裕を持って当たれる相手ではあるのだけれど。

明らかに他のゴブリンとは違う気配。野蛮な感じはなく、知性を感じさせるゴブリンはこちらを見回すとやれやれといった感じに肩を竦めた。


こいつ、本当にゴブリンロードか?

会った事はないけど、やけに仕草が人間っぽい感じだ。ロードというのは確かに他のゴブリンに比べれば知能は高いのだが、それ以上な気がする。


「さて、こいつらはどっちかね」

「ダンジョン産ならちょっとまずいわね。チャンピオン辺りまでならともかくロードまでとなると、もっと下の階層からも来ている訳だし……」

「とりあえず倒せばわかりますわ」


ユースは杖を構え、シシリーは弓をつがえる。

シャルちゃんも既にガントレットを着けて臨戦体勢だ。


『やれやれ、こんな所で冒険者ってやつか?こっちは人間なんかに構ってる暇はねぇってのに』


ゴブリンロードはそう言って剣を構えた。


『これから晩御飯だってのに、そっちこそ遠慮して欲しいわよ!』

『そんな事知るか!こっちは忙しいんだ、とっとと終わらせてやるぜ』


出会ったのは偶然?侵入者を襲いに来たって訳ではないのかな。どっちにしても相手はゴブリンだ。このまま「じゃ、そーいうことで」と会わなかった事にはならないよね。


…………あれ?私、ゴブリンと会話してる?


『『まさか日本語!?』』


お読み下さりありがとうございます。


ピスタチオ味だそうですよ。

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