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第六十八話「カトレアさんと愉快な仲間たち(仮)」


「……つまり、夏のお蕎麦も美味しいっていう事ですよ♪」


 私はずずっと薬味を絡めたお蕎麦をすする。


 蕎麦には年二回の旬がある。春に種を撒き初夏に収穫する夏蕎麦と、夏に種を撒き秋に収穫する秋蕎麦だ。(厳密には工程の違いで「旬」と言えるのは幾つかに分かれるんだけど)

 夏蕎麦は淡い香りと清涼感のある若い味わいが特徴で、蕎麦と言えば秋、夏蕎麦はそれまでの繋ぎだなんていう人もいるけどね。確かに、寒暖差のある秋はしっかり澱粉が熟成するので風味はやっぱり秋蕎麦に軍配があがるだろうけどさー。


 まあ、夏に食べたい冷たくてさっぱりしたお蕎麦には夏蕎麦だって美味しいよねという話。


 蕎麦のアレンジは色々だけど、あえて言おう蕎麦は風味と喉越しを味わう物、王道こそが最強であると!


 ――今日はなににしようかなぁ?

 王都の宿暮らしだと必然的に外食中心となってしまう。まあ、お店はいっぱいあるから困る事はないんだけど、やっぱり悩むのはメニュー。

 なので、大概は誰かの一声でさくっと決まる事が多く、今日はシャルちゃんの「冷たくてさっぱりしたものがいいですわ」という夏にはありきたりなとも言える台詞で、冷たいお蕎麦になりました。


 そんな訳で、私は王道に天ざるです。

 蕎麦は蕎麦殻を挽き込んだ黒っぽい麺でつなぎに山芋を使ったタイプで、粗削りの鰹節たっぷりのツユにちょっと付けてつるりと頂く。あー、暑い日に冷たいお蕎麦最高ー!

 天ぷらも、大きな海老に、キス、ナス、オクラ、大葉、ゴーヤと夏野菜が嬉しいね。


 「で、蕎麦がうまいのは分かったが肝心のゴブリンの話はどーなった?」


 お蕎麦だけでは足りないと、ユースはとろろ丼のセット。うーん、とろろ蕎麦も捨て難い。


 「あー、うん、そうだったね。まだ緊急依頼は出ていないけど、東の森の立ち入りに警告が出ました。それから鉄ランク以上には招集があると思われるので出来るだけ待機の要請も変わらずだね」


 ギルドからはまだ討伐依頼自体は出ていない。カンナさん達も言っていたように先に調査もしないといけないので、本格的な討伐まではちょっと掛かりそうだ。おそらくその調査依頼が〈紅蓮花〉や幾つかのPTに出されるのが明日。多分推薦してくれるんだろうから、私達も参加になる。


 「調査依頼は出たら受ける方向でいいかな。北側は先日歩いてきたから、あの辺りがゴブリン達の縄張りの境目なんだろうから、南に向かえばいいとは思いますね」

 「ゴブリンはチャンピオンクラスは出る可能性があるっぽいかな?危険度は4くらいになるけど、戦闘面ではなんとかなると思う」


 基本的には戦闘というよりは、実際にゴブリンの集落のようなものがないかの確認と、ダンジョン産である事の確認。あと、生存はほぼ絶望的だと思うが消息を絶った駆け出しのPTの捜索かな。

 冷たいようだが、冒険者にはありがちな事でこういったケースで救助に向かう事はあまりない。そもそもどこにいるかも分からないしね。

 だからこそ事前の調査が必要になってくる。今回ももしチャンピオン以上の上位種がいたり、数が百を超えるような集団発生になっていたら銅ランクは勿論鉄ランクでも危険かもしれない。

 アーク達が以前参加したというゴブリン討伐はリーダーくらいまでで、数も五十を超えないくらいだったらしい。そのくらいの規模なら銅ランクの参加もありだろうけど、今回は難しいだろうね。


 「ま、この間の蚕がそれくらいだったし、大丈夫よね!」

 「油断は禁物だぞ、シシリー」

 「わかってるわよー。ゴブリンって結構賢いっていうか、狡賢い感じ?気を付けないとね」


 うん、油断は禁物。今回は「いつも」とは違うケースだし、これだけゴブリンゴブリン言ってると、「ゴブリンだけって言ってたのに……」なんていう往年のネタになったりするかもしれない。

 私達冒険者が掛けるのはゲームのように死に戻りなんてのがない、自分の命だ。消息不明の冒険者のようにならないためにも準備はしっかりやらないとね。


 最後に蕎麦湯を頂いて、私たちはそれぞれの宿に戻った。



 翌朝、私達は冒険者ギルドに集まった。

 朝の通常依頼を受ける駆け出し達は変わらずに見えるが、奥のスペースに集まっている私達は少し緊張気味だった。

 その場には私達と〈紅蓮花〉の三人、それから鉄ランクのPTが二組の四PTが集まっている。


 「俺たちは〈叢雲〉鉄ランクだ。色々やっちゃいるが、主に討伐依頼が専門だ。よろしく頼む」


一組目は三十代くらいの男性二人組のPT。二人共に剣を下げているから近接メインなのだろうか。ちょっと強面の経験を積んだ傭兵っぽい感じだ。


「ぼくらは〈竜滅の剣(ドラゴンバスター)〉さ。まあ、ゴブリン程度にぼくらが出る事もないと思うけどね、貢献ポイント多いみたいなんで参加してあげるよ」


もう一組は、なんか軽薄そうな坊っちゃん系の男と冒険よりも夜の酒場にでもいそうなお姉ちゃんが二人。あー、なんかラノベとかに居そうな雑魚キャラっぽいなぁ。大丈夫か、これ。

……てか、そのPT名で大丈夫?


「俺達は、知ってるだろうが〈紅蓮花〉だ。よろしく頼む」


グレンさんが名乗って、気が付いた。


「私達はねこd……名前はまだ無いわ!」

「そう言えば、決めてませんでしたわね」


うん、すっかり忘れてたねぇ。

常設の討伐以外、特別このPTで依頼受けたりはしなかったし、こういう合同の依頼だとやっぱり必要だよね。後で皆と相談か。


「結成したばかりのお子様PT?。この依頼はランクだけ上げたようなガキには無理じゃね?」

「そーねー、足手まといはごめんだわ」


〈竜滅の剣〉の女性二人があからさまに文句を言ってくるが、それはこっちの台詞なんだけど?


「まあ、このぼくが居れば問題なしさ!」


(グレンの旦那、あのちびっ子、例の〈グリムの救済者〉ですよね?)

(ええ、しかも〈幻光〉イチオシの娘だ。「多分、うちの弟より強いわよ♪」だそうだ)

(いくらなんでも、そりゃ………マジかよ?)

(噂じゃ、普段はレイゲンタットで狩りしてるPTだそうですよ。俺達の方が足手まといにならなきゃいいくらいかもしれませんね)


後ろでは〈紅蓮花〉と〈叢雲〉が小声で話をしているけど……聞こえてますよ?てかアネットさん、イザークさんと比べないでください。


「お待たせしました、奥の部屋にお願いします」


そんな不安な顔合わせをしていると、職員さんがやって来た。とりあえず依頼の内容聞かないとだね。

お読み下さりありがとうございます。

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