第六十七話「なぜ君と出会えたの?」
「みなさん、お久しぶりです。良かった、あの話を聞きたいと思ってたんです」
「ええ、私達もカトレアちゃんが遭遇したというゴブリンの事を聞きたいと思ってたの」
銀ランクPT〈紅蓮花〉は現在も〈小鬼の迷宮〉を中心に探索していて、今回も深部の調査に赴いていた。
最近のダンジョンの変化など、最も詳しい人達の筈だ。
「とりあえず、ここだと少しまずい。奥の部屋を貸してもらおう」
リーダーのグレンさんが受付嬢に頼み、依頼の話などで使う部屋を借りる。
やっぱり私達が遭遇したダンジョン産のゴブリンも関係あるのね。普通にフラグだもんなぁ、あれ。
「さて、どこから話したものか……」
「何となく予想出来るんですけど、ゴブリンが外で大発生してるとか、そういう感じですか?」
テーブルについて、言い淀むグレンさんに私は直球で聞いてみた。
「どうしてそう思う?」
「外でダンジョン産のゴブリンに遭遇しました。それだけなら偶然抜け出した個体と出会っただけかもしれませんが、討伐依頼の出ている地域で他のゴブリンをまったく見ていません。依頼が出されるという事はそれなりに生息している筈なのに、です。何かがあったと考えていいと思います。東の森から帰って来ていない方がいるとも聞きました。また、私達はグラスシルクウォームの繭の採集に行ったのですが、通常よりも群れが大きく、何処からか移動してきたと思われます」
討伐依頼なんてのは特に危険な魔物が出たとか、危険度は低くても数が多い場合に出されるものだ。数日滞在しても見掛けないようなゴブリンに出されるとは思えない。
蚕達はロード種に煽動されなければ、二度目の時のように大人しい筈で、もっと南側にいた群れが騒がしいゴブリンを嫌って移動してきたと考えられる。
「それからダンジョンで何かがあった。講習会の時のような変化が続いていて、冒険者は下の階層に行き来しやすいのですが、同時に上位種が外に出やすいとも言えます。もし、上位種を含むゴブリンがダンジョンを出て外で大発生してるなら、駆け出しの冒険者には脅威ですし、通常のゴブリンにも影響が出ていると考えます」
あと、魔物の大発生って定番のイベントだし?
「なるほど。俺達よりも外の情報がある分説得力があるな」
「ええ。大発生までになっているか分かりませんけど、ゴブリンの群れが既に外に出ていると考えていいと思いますね」
グレンさんが頷き、カンナさんは溜息。
「ダンジョンの方はどうだったんですか?」
「二十五階層から外に続く別のルートが出来ていた。確認できている分では半月前以降、その後いつ頃出来たのかは不明だな」
「今思えば、君達が参加した講習会で遭遇したダンジョンの変化は今回の変化の前段階だったとも言えるか。新しい入口が出来るのは流石に想定外だがなー」
「そうね。ゴブリンが外に出たりしなければ、私達のように深部を目指すPTには大幅なショートカットが出来るのは正直助かるルートなんですよね……」
複数の入口があるダンジョンは珍しくはないそうだが、今回のケースのように変化で新しく出来る事はあまりないみたい。
〈紅蓮花〉も毎回全てを調べている訳ではないので、最悪半月はゴブリンが自由に外に出ていた可能性があり、森の何処かで集団を形成していてもおかしくはない。
街道までは姿を見せていないようなので、大きな騒ぎにはなっていないが、放置すれば王都を脅かす災厄となるだろう。
魔法的なギミックの多いダンジョンだと何階層か毎に転移魔法陣があったりとかする場合もあるんだけど、ここのダンジョンはそういった便利なものはない上に、相手も実入りの少ないゴブリンとあってあまり人気のあるダンジョンとは言えない。二十五階層まで一気に進めればかなりの時間を短縮できる筈だ。
「とりあえず、新しい入口は報告したからギルドか国が封鎖に動くだろう。君達の情報も含め、今日明日中に東の森の調査の依頼が出ると思うのだが、腕の立つPTは歓迎だ、出来れば参加して欲しいね」
「分かりました。後で仲間と相談してみます。あ、参考までに二十五階層だとどれくらいの強さのゴブリンになるんでしょうか?」
「そうだなぁ……危険度で4ってところか」
セドリックさんが少し考えてから言う。
ここのダンジョン、ゴブリンが群れで行動し奥に行くと上位種などが混在するタイプなので、単純に3とか4とは言えなくなるらしい。
1,2階層が駆け出し向けと言われているのは、ここまでなら普通のゴブリンしか出現しないため。3階層にはいるとゴブリン以外でもその名称が付く「職業持ち」と呼ばれる上位種が混じり始める。ゴブリンファイターとかアーチャーとかいうやつだね。
この頻度や数が増えていき、十層を越えるとゴブリンリーダーが加わる。リーダーというだけあって司令塔として機能する為に一気にゴブリンの動きが良くなり難易度が上がる。リーダー自体の戦闘力はそれほど高くにはないのだが指揮能力もあって危険度3。
二十層になるとチャンピオンが加わる。一回りも大柄なゴブリンで危険度は3。リーダーが指揮官ならこっちは精鋭兵みたいなものだろうか。
以降、専門的に進化したようなゴブリンがたくさんいるんだが、長くなるので、また奥にでも行く機会があればその時に。
「少なくとも、その辺りのゴブリンには出会う可能性がるって事ですね。駆け出しのPTで上位種が相手では戦闘になったら……それが原因か」
森では様々な採集依頼があったり、危険度の低い魔物の討伐依頼なんかの常設依頼も多く駆け出しの冒険者の稼ぎになる場所だ。実際アーク達もここで狩りしたりしてたみたいだしね。
ギルドの方で話を詰める事になったので、私は退散。ロビーで他の皆が集まるのを待つことにした。
緊急クエスト開始です。
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