第六十一話「シャルちゃん覚醒と王蚕戦決着」
冒険者のランクが高い=強いという訳ではない。
あくまで「どれくらい冒険者として活躍してきたか」がポイントになる為───私のようにお肉目的の狩りは冒険者というより狩人のお仕事なのでポイントは無い───金ランクと言っても戦闘は苦手という人もいる。まあ、最低限の戦う技術は求められるので、駆け出しの新人並みという事はないけど。
私やシャルちゃんは多分、銀ランクくらいの実力はあるだろうしね。
だが目安として、銅ランクは危険度1~2、鉄は3~4、銀は5~6、金で7くらいの魔物を相手に出来ると言われている。最上級の白金は8というが、8はなー、もう人間レベルじゃないから戦闘向けのチートなスキル持ちでも厳しいと思うよ?
故に、アーク達が危険度5の王蚕に対して戦えているという事実は彼等の自信に繋がったのだろう。
「〈防御の加護〉を!」
アークの支援が飛び、シャルちゃんが王蚕を翻弄する。出来た隙にシシリーの弓とユースの魔法がじわじわと王蚕の体力を削っていく。
本来は攻撃役のシャルちゃんだけど、回避盾上手いじゃない。ただの脳k‥‥いや、失礼、攻撃専門という訳でもないのね。
「〈再装填〉!〈雷震の右腕〉!」
「これでも食らいやがれ、〈火聖霊の槍〉!」
シャルちゃんとユースの畳み掛ける攻撃に、王蚕は怯むが、倒れはしない。
むしろここからが本番だと言うように威嚇音を上げる。その身を丸めたかと思うと、先程までの突進よりも更に速度で跳ね回る。
ボスキャラにありがちな、所謂HPが減ると発動するギミックか。それとも皆を敵として認めたのか。
それは跳弾のように無軌道に四人を襲う。
今まで他の蚕と防御面はともかく、攻撃面では大差無かったが、こいつは上位種だ。同じ事しかしてこない方がおかしいか。
「きゃあ!」
「シシリー!」
王蚕の体当たりを受け、シシリーが突き飛ばされる。飛ばされた先の木の幹に体を打ち付け、更に追加ダメージを受ける。
シャルちゃんは、その動きに逆に翻弄され手を出し予ていたし、ユースとアークも自分も攻撃対照になっている為、防戦一方。
優勢だった所が、ピンチに変わる。
「これはマズイ雰囲気ねー」
私の相手は数だけは多い通常種。いや、これ一匹でも危険度4だから言うほど雑魚じゃないんだけど。
あちらに参戦するには、これをなんとかしないと、向こうを巻き込んでしまうから近付けない。
出来れば彼等の為にも自力で討ち取って欲しい。
頑張れ、きっとやれる力はある筈だよ。
まあ、本当に危機に陥ったら《挑発》掛けて王蚕もこっちに誘導するつもりだけどね。
私は十歳だけど前世もあるから、つい親目線と言うか、そういう風に見てしまう。シャルちゃんなんか可愛い金髪ツインドリルの幼女だからね!
頑張れ、頑張れ。私は心の中で必死に応援しつつ、周りの蚕達、残りは七十くらいかを絶対向こうに行かせないと《挑発》を連打した。
「く‥‥‥マズイですね」
シシリーはまだ倒れたままだ。今はそのおかげで標的になっていないので、アークは自分が近付くと逆に危険である事にやきもきしていた。
「相手が早くそして重い。、動きについて行けていないなら、ギアを上げれば良いだけですわ!」
ギア2という奴ですか!?
シャルちゃんは足に魔力を込める。
あれは、まだ‥‥いや、やらなきゃいけない、今!
相手が速いならどうするか。方法は幾つかあるだろうけど、シャルちゃんが選んだのは一番分かりやすい方法───即ち、相手と同等の速さを手に入れればいいという、脳筋スタイル。
これまでの特訓を思い出せ!欲しかった力はもう身に付けている筈。後はそれを出し切るだけだ。
「〈加速装置〉!!」
ぐんっとシャルちゃんのスピードが上がる!
戦闘は静と動の連続で出来ている。走り、打ち合い、相手を見る、ずっと動いているように思うが足を動かしたままという訳ではない。
シャルちゃんのスキルは音速で走ったり出来るものではないが───トップスピードを最初から出せるスキルだと後から聞くことになるんだが───そこの差は大きい。
迫る王蚕を避け、それを追従しての連打!側面からの連撃に王蚕はバランスを崩して地面に衝突し、漸く動きを止めた。
「さあ、追い付きましたわよ!〈再装填〉!」
両腕のガントレットに魔力が宿る。
「今のうちにシシリーさんを!」
「〈治癒の加護〉」
シャルちゃんが王蚕と睨み合い、動きが止まった所でアークがシシリーに回復魔法を使う。
「さあ、そろそろカトレアさんが退屈してそうですから終らせて差し上げますわよ!」
「おう!」
「あたしも行けるわ!」
ユースは魔法に集中し、復帰したシシリーが牽制に参加する。アークは静かに錫杖を構える。
こちらも王蚕も大分疲労が貯まり、そろそろ戦いも終わりが近づいていた。
「来ますわっ」
先制は王蚕。得意の糸をシャルちゃんに吹き掛ける。シャルちゃんは一気に加速してそれを避けると王蚕の側面に回り込む。
開いた導線からシシリーの渾身の矢が王蚕の額に突き刺さり、王蚕は大きく仰け反り糸が空中に撒かれる。
「〈雪聖霊の抱擁〉!」
そこにユースの魔法が発動。王蚕が雪に覆われ動きが止まる。
「これで終わりですわ!〈雷光崩拳〉!!」
王蚕は最期の足掻きか、シャルちゃんに噛み付こうとするが、遅い。必殺の拳が突き刺さり、輝く。
雷が王蚕を襲い‥‥‥遂にその動きを止めた。
「やったぜ!」
「やっと終わったー」
「なんとかなりましたわね」
ユースはガッツポーズ、シシリーはへたり込み、シャルちゃんは額の汗を拭い、アークはホッと息を吐いて構えていた錫杖を下ろす。
各々が勝利に喜んだ。
私抜きでの危険度5の討伐、凄いよ!
このPTならきっとダンジョン攻略もイケる。私は確信していた。
────ガンガンッ!
おおっと、蚕達を忘れる所だった。王蚕が倒されても興奮が収まらないようです。私に体当たりを繰り返して来るコイツらは‥‥‥。
「皆、とりあえず撤収~~~~~~!!」
私の声に蚕の群れを思い出した四人と共に私達は、その場を離脱。蚕達が諦めるまで、全力疾走する事になった。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m