第六十話「vsロードシルクウォーム」
「GIIIII!」
この辺りの仲間の全てを集めようとしているのか、再び王蚕が鳴く。
緩慢な動きだが、ぞろぞろと集まってくる蚕達は既に数え切れない数になりつつあった。
「これは流石にまずいですわね‥‥」
シャルちゃんも流石に声が震える。
一体ずつなら、レイゲンタットの麓で狩りをしてきた私やシャルちゃんには脅威ではないだろうけど、複数に囲まれればシャルちゃんでも危ういだろう。
ましてやアーク達三人は一体でもキツい筈。
「これが危険度4の理由です」
「アーク、詳しいね」
「昨日、一応調べてみたんです。相手を知っていれば対応出来るかもしれないですし」
流石、学院出のインテリだ。私とシャルちゃんはそこら辺は脳筋気味だからなぁ。
「どうする‥‥?」
「まあ、普通に逃げるのがベストかな。私が《挑発》で囮になるから、その間に皆は包囲を出て逃げてください」
「カトレアちゃんを置いていくなんて‥‥!」
「私には取っておきがあるから逃げる事は出来ると思う。大丈夫、私は死なないわ」
‥‥‥《全周囲防御》で守るもの。
王蚕の攻撃でも抜かれる事はないだろう。そして《空間魔法》で包囲から脱出も出来るだろうし、ね。
「解りました、お願いします」
「‥‥アーク!?」
じわりと蚕達の包囲は狭まっている。考えている余裕はあまり無い。アークは決断してくれたようだが、シシリーは納得出来ない。
「まず、包囲を出る。でも、逃げません。あれは煽動されているだけですから、王蚕を叩けば良い」
「ええ、ボスキャラはわたくし達に任せて、カトレアさんは雑魚を頼みますわよ」
アークとシャルちゃんは、蚕達はの群れの奥に陣取る王蚕を見据える。
「ああ、やってやるさ」
「そうね、あたし達はカトレアちゃんと一緒に戦えるように頑張って来たんだから!」
「‥‥‥わかった。こっちは全部引き付けてあげるわ。雑魚は無視して王蚕だけに集中して下さい」
本当に頼もしくなったね。最悪、私が一人で持久戦に持ち込んで、なんとかしようと思ったけど。
「《挑発》行きます!さあ、誰に喧嘩を売ったか教えてあげるわ!!」
私の声に蚕の群れが大海礁となって一気に押し寄せて来る。
おう、某有名アニメ映画のラストみたいだね。王蚕の怒りは大地の怒りじゃー。
お望み通り、薙ぎ払ってあげるわよ。
「〈火竜の吐息〉!!」
大きく息を吸って、《竜魔法》で先制の範囲攻撃!
炎のブレスは、最前列の蚕を焼き払って数体が黒焦げになるが、お構い無しに蚕達は押し寄せて来る。
その間にも《挑発》を撒いて、辺りの蚕を集中させる。ステータスで確認してみたら、《挑発》は見える範囲内の敵視を向けさせるスキルなので、死角の敵には効かない。こうして囲まれればどうしても届かない範囲が出来てしまうので、こまめに掛けないとシャルちゃん達に向かってしまいそうだ。
「皆さま行きますわよ!」
「「「おう!」」」
シャルちゃん達も蚕の間を縫って走り出す。
私は小剣を取り出し《剣魔法》で魔力を込める。
蚕達はその私に糸を吹き掛け、動きを封じようとして来る。ええい、全方向からだと流石に全部は切り払えないっ!
絡まる糸を払いつつ、正面の蚕に斬りかかる。しかし見た目は堅そうに見えないが、意外と弾力のある体皮を僅かに傷つけるに留まった。
まあ、多少倒した所で大差無いので、それよりは《挑発》重視で行こう。あちらが終われば落ち着くかもしれないし。
「〈再装填〉!先ずは、わたくしが参りますわ」
走りながらシャルちゃんがガントレットに魔力を込め、王蚕にそのままの勢いで右ストレート。続いての連撃もやはり弾力のある体皮に防がれ、あまり効果が無いのか、王蚕は糸を吹き掛ける。
それを転がって避けた所に、シシリーの弓が放った矢が王蚕に突き刺さり、ユースの炎が顔面を焼く。
こっちは、糸に体当たりにと忙しい。
代わる代わる蚕が突進してくる為に息をつくのも一苦労。これが数の暴力という奴か。
かわし切れなかった糸を《生活魔法》で焼き、《挑発》を続ける。
あまり倒すと繭の採集に困る事になるので、通常種は出来れば残したいんだけど、もう少し減らさないとキツい!
いっそのこと攻撃されるのを放置しても良いんだが、それはなんか負けた気がするし。
そうだ、せっかくだから《空間魔法》のアレの練習でもさせて頂きます。
空間を分断するイメージ。なかなか成功率が良くならないんだけど、目の前の蚕に集中する。
「〈次元断〉!」
一瞬光の線が走ったのち、ばくんと蚕が縦に真っ二つに割れる。うげ、なかなかグロいわっ。
でもこのランクを一撃なら十分使えそうだ。
そんな事をやっている間にも、王蚕戦は続いている。主にシャルちゃんがメインのようだけど、《挑発》スキルみたいなのが無いので、時折ユースが狙われているようだ。
耐久力ではタイラントボアの方がありそうだけど、地味にあの体皮がダメージを緩和しているようで、どの攻撃も決め手になれていない。
「くっ、こんなものっ!」
シャルちゃんが吐かれた糸に絡まれる。そこに王蚕が体を縮めて大きくジャンプ。体重を掛けてのし掛かりの攻撃。
咄嗟に身を捩って直撃は避けるものの、尖った爪が肩口を切り裂く。
「いい加減に倒れやがれ!!」
ユースの炎が槍となって突き刺さり、そろそろ王蚕の体力も削られて来たのか仰け反る。
「回復します!」
この隙にアークがシャルちゃんの元に走り、《神聖魔法》で傷を癒す。
「結構、しぶといですわ」
「だが、ちゃんと効いてる、やれるぞ!」
「ええ!」
危険度5を相手にも自分たちの攻撃は通じる。
アーク達は気合いを入れ直す────。
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