第五十七話「家にいる時はジャージ派でした‥‥‥」
「ええーと?」
「あの、私達の防具を作って頂きたいんです。〈緋色の槍〉のウィンディさんに、このお店なら良い物を作って貰えると聞きまして」
シャルちゃんは、あまりのショックに立ち直れていない。さもありなん。
私は覚悟と、前世でこういった方はテレビでも見ていたし、ラノベなんかのお約束だったから耐性があったけど、実際に見るのは初めてです。
「あら、ウィンディちゃんの紹介?それは頑張らないと怒られちゃうわね。あの子最近顔見せないけど、元気にしてる?」
「はい、今はクロフォード領に行ってます。そこで一緒に狩りをする機会がありまして。装備の相談をしたら教えて貰いました」
「それじゃ、クロフォードから態々王都まで来てくれたって事?あ、ワタシの事はランちゃんって呼んでね」
「確かランベルトさんと「アアァ?」‥‥ひぅ」
シャルちゃんが言い掛けるが‥‥ランちゃんの地声に、ビクッと小さく声を上げる。
そこはそういう事にしとかないとダメな所です。
「そ、それじゃ早速お願いしちゃおうかなー。ね、シャルちゃん」
「そ、そうですわね。よろしくお願いしますわ、ランちゃん」
「じゃ、どういう物が良いか‥‥‥あらいけない、お茶を淹れるから、ゆっくりと防具の希望を聞かせて貰うわね」
ランちゃんは、るんるんとスキップしながら奥に去っていく。
(昔は大剣使いの屈強な戦士として有名だったんだがなぁ‥‥何処でああなっちまったんだか‥‥)
ウィンディさんが遠い目で語ったのを思い出す。
しばらくして、ランちゃんはティーセットを持って戻ってきた。ふわりと紅茶の良い香り。
お茶請けはバターをたっぷり使ったマドレーヌ。
まずは紅茶を一口、それからマドレーヌ。さくっと頬張ると甘いバターの香りが口に広がる。
「「紅茶もマドレーヌもとっても美味しいです!」」
「そう、良かったわ。マドレーヌは手作りなのよ。さて、防具って事だけど今着ているような服で良いのかしら?」
にっこり微笑むランちゃんは、ちょっと怖いです。
「そうですね。私は変身系のスキルを使うので、しっかりした物だと困るので。特に肩と背中はこのくらい開いてるのと、袖は七分くらいで」
「わたくしは、胸当てとガントレットは使いますが、動きに支障が出る物はちょっと‥‥」
ランちゃんは「ちょっと見せて貰うわね」と私達の服装をチェックする。
「あとはそうね、好みのデザインとかあれば、それに沿った物を考えるけど、希望はあるかしら?」
デザインかー。自慢じゃないが、ファッションセンスなんてのは欠片もない。今着ているのも母が直してくれたものだし、お一人様歴二十‥‥うん年+貧乏貴族十年は「変な格好でなくて着れれば良い」が精一杯。前世では出掛ける用事なんて近所のスーパーとかコンビニくらいだし、今世はお洒落なんて余裕はなかったのよ。
シャルちゃんも似たようなもになのか、うーんと考え込んでいる。
「お委せで良ければワタシが一番似合うと思うデザインで作るわよ?」
「「お願いします」」
苦笑するランちゃんに、私達は頭を下げた。
その後は、サイズを色々計られました。ええ、なんか一部を計った時にシャルちゃんが勝ち誇ってましたが、気にしちゃダメです。
戦闘に耐える物なので、ちょっと大きめでという訳にはいかないし、私専用なのでそんな所まで?と思うくらい、きっちりと計測され、ぐったりです。
「問題は付与ね。ダメージ減少には出来るだけ良い素材で作りたい所だけど、その在庫が少ないので時間が掛かってしまうけど大丈夫かしら?早めに欲しければワンランク下げた素材で作っても良いんだけれど、そちらだと効果も下がってしまうのよねぇ」
「ええと‥‥その素材ってやっぱり魔物の、ですよね」
「そう。王都の東の森にいる魔物の繭から採れる糸がいるの」
来ましたよ。装備を作る時に必須の素材採集イベント!やっぱりコレが無いと、新装備って感じじゃないよね。
「つまり、わたくし達がそれを採集してくればよろしい、という事ですわね」
「ふふ、そうね。そうして貰えると助かるわ。ワタシが行っても良いのだけど他のお仕事も有るから、遠出は出来ないのよ」
「よし、それじゃ明日は素材採集だね!」
ランちゃんに、魔物の特徴と生息圏、その他注意事項を聞きます。
名前はグラスシルクウォーム。危険度は4。体長1メルクになる蚕の魔物で、王都から東に数日くらいの森の奥に生息しているそうだ。
必要なのはその繭で、夏の終わりから秋に繭を作り成虫になるそうなので、時期的に少し早いが繭を作っている個体もいるだろうとのこと。
私達が採集に行っている間に出来ることは進めているそうなので、頑張って探さないとね。
お店を出れば、もうお昼を随分と過ぎてしまっていた。あやや、ランちゃんにも迷惑だったね。
さて、お昼は何にしよう?
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m