第五十四話「野生のラスボスが現れた!」
白く輝く美しくも恐ろしい存在だった。
流線型の身体。二対の翼、長い首。確かに、「竜」の形状をしているが、鱗ではなく金属パーツで出来たような外郭。全長は比較対象が無いので正確には分からないが100メルクはありそうだった。
大陸で最も危険と言われるレイゲンタットの霊峰の奥に住み、伝説では彼に怒りを買った国を一夜にして滅ぼし、国土は極寒の凍土となった。当時最強といわれた魔王を倒した勇者一行が討伐に向かったが帰ってくる事はなく、未だ彼の地に君臨し続ける竜の王。
「〈混沌の監視者〉‥‥‥本物かよ‥‥」
流石のダスティさんも声が震えている。
圧倒的な存在感とビリビリとした威圧感を放ち、それはゆっくりと私達の上空を通過していく。
あれはダメだ。
本能的に感じるその力の前には、私のチートスキルも紙切れの様に引き裂かれるだろう。
竜王は声を上げる事もなく、森の上を、ただゆっくりと旋回し、戻っていく。それだけだった。
じっとその様子を緊張な面持ちで見つめていた私達は、その巨体が完全に見えなくなってから大きく息を吐き、座り込んだ。
「あれが、危険度9か‥‥」
「レイゲンタットの北方では稀にああして存在を示すように現れると聞きますが‥‥」
ぎりっと槍の柄を握り締めるダスティさんと未だショックが抜けないエドガーさん。
「アハハ、スゲーモン見ちまったな。南側には来た事なかったんだろ?」
「そう‥‥ですね。そういう記録は無かったと思いますけど‥‥」
半分自棄になってそうなウィンディさん。意外と冷静なリグリース君。反応は様々。
「少なくともクロフォードでそんな話は聞いた事ないですね。なんで急に‥‥?」
「まさか、わたくし達が山に近付いたせいとかではないですわよね?」
「いや、それはないだろ。現にこっちなんか気にもしないで行っちまったしな」
南側で変わったこと‥‥‥ダンジョン?
わざわざアレを見に来た?まさかね。
「とりあえず今日は素直に町に戻りましょうか。魔物もざわついているでしょうからね」
「だな。あんなのが出てきたら、魔物だって引きこもっちまったんじゃないかね」
エドガーさんの提案にウィンディさんが肩を竦める。私達も首肯いた。
手早く後片付けをして、出発。
森は静まり返り、ウィンディさんの冗談半分で言ったのが当たっていたのか、魔物に遭遇することもなく、獣道みたいな茂みをひたすら掻き分け進んだ。
お昼を過ぎた頃ようやく森を抜け、お昼ご飯にする。
ドラゴンショックも収まり、ダスティさんは間近で竜王を見れたのはラッキーだったと知合いに自慢しようなんて言えるくらい。
緊張が続いたせいかお腹はペコペコ。手早く、ガッツリしたものがいいかなー。
ご飯はあるので、竈を作ってからシャルちゃんに火をお願いして。
材料の豚バラ、長ネギ、キムチ切って、豚肉からごま油で炒める。色が付いてきたらキムチを入れて、砂糖、お酒、味醂、お醤油、それからコチュジャン少々。
あとは丼にご飯を盛って、炒めたお肉お肉、ネギ、チーズと白ゴマを振りかけて完成。豚キムチーズ丼!
「うん、ピリ辛で旨い!」
「溶けてくるチーズがまたいいねぇ」
甘辛の豚キムチだけでも美味しいけど、チーズのコクがまたしっかり食べたい時に良い♪ご飯あれば簡単に作れるので、忙しい時にもいいよね。
「そう言えば、みなさんはダンジョンは見ました?」
「なに、もう出来てるのか!?」
ご飯を食べながら訪ねてみると、ウィンディさんが驚く。昨日の朝にはあったけど、見てないのか。
「昨日行き掛けに寄ったら、外観の建物が建ってるのは確認しました。中には入れませんでしたけど」
「ここからだと、ちょっと見えないか。しかし入れないのでは仕方ありませんね」
「まあ、また狩りに出た時に確認すりゃいいか。もう二、三ヶ月くらいは掛かるんだろ?」
こんな感じーと説明したが、入れないなら急ぐ事はないので寄り道せずに帰る事に。
まあ、今日は早く帰りたいよね。
夕焼けに辺りが染まった頃、私達はギルドにたどり着いた。やはり朝のアレは、話題になっているようで、落ち着かない雰囲気。
とりあえず、ジャンおじさんに解体をお願いするのだが、量が多いので今回はそのまま買い取りをしてもらう。
最近はクロフォード領内だけでなくグリムにも卸しているのでお肉の需要は多いそうです。あっちは復興事業で賑わっているしね。被害に遭った村もだけど、アサヒナ湖周辺の治水工事も計画されているそうだ。
共同で狩った分は、タイラントボア8、ジャイアントスネーク12、ダイアーウルフ9匹だ。お値段はそれぞれ金貨十、八、四枚なので、232枚。約束では八割が私達なのですが切り良く180枚を頂いた。
貯めておいた分と合わせれば、それなりの金額になったけど、装備いくら掛かるかなー。
「今回は助かりました。改めてお礼を」
「いえ、偶然居合わせて良かったです」
頭を下げてくるエドガーさん。うん、逃げれはしただろうけど、結構ピンチみたいだったし助けられて良かったよ。
後の狩りも楽だったしね。人数的にこんなに貰って悪いくらい。
「あの例の肉まで食わして貰ったんだ、十分さ」
「だな。ありゃ旨かったなぁ‥‥‥」
ウィンディさんが笑うと、ダスティさんはあの味を思い出したのか、満足気だ。
「今日はありがとうございました。また宜しければ御一緒出来ると嬉しいです!」
「そうですわね。まだダンジョンが開くまで日もありますし、機会があれば」
「あの辺りは危険だしね。もう一日くらい掛けて狩りすればかなり狩れそうだね」
「はい、また近い内に行きましょう」
とりあえず今日はここで解散。
後日、二泊三日のレイゲンタット狩りツアーに出掛けるのだが、ジャンおじさんが大変な事になったのは言うまでもない。
いつも有り難うございます。
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