第五十二話「地雷職業じゃないんです。」
夢‥‥夢を見ていた。
MMORPG〈星層神記エル=グラシア〉を始めてまだ間もない頃の夢だ。
リリース前から膨大の職業全てに就けるという、やり込み要素。新エンジン搭載の美しいCGと某有名ゲームの作曲家が起用された事、話題にはなっていたが、私が始めたのは一年を過ぎ、新規ユーザーが落ち着いた頃だった。
理由は簡単だ。他にプレイしていたゲームがあったのと、家のPCだと要求スペックが辛うじて最低限を満たしている程度だったので、快適には遊べそうになかったからだ。
一年がたった頃、そのプレイしていたゲームは元々過疎化が進んでいたが、遂にサービス終了のお知らせが流れた。
いい加減旧型のPCも、そろそろ買い換え時だったし、思いきって最新のゲーミングPCを購入、一周年記念イベントをやっていたエルグラに参戦した。
エルグラは面白かった。メインストーリーはまあ、置いておいて、職業が多彩で覚えたスキルは他の職業になっても使える。好みのスキルビルドを目指して様々な職業を上げないといけないので飽きさせず、普通のゲームだと過疎化する低レベル帯も人は多い。
別ゲーでは近接物理だったので魔法職を育てていたが、あるPT向けのイベントで知り合った人に誘われ、初めてギルドに入った。基本的には、ギルドチャしつつも、皆ソロで好き勝手やっていて、気が向いた時とかイベント時にPTを組むくらいという話だったので、まあ、いいかと軽い気持ちで入ったのだが、居心地は悪くなかった。
それは、ある日の「戦争」の時間。
よくある対人コンテンツだけど、貰える名誉ポイントの交換品にスキル強化に必要な素材があるので、私も参加‥‥‥と言うか、早々に殺られて戦場で終了時刻まで転がっています。
うん、戦場にいれば時間でポイントが貯まるので、周りは死屍累々。そのまま放置で、リアルの用事を済ませる放置勢という人達だ。PVPは好きじゃないけど、スキルの為にポイント欲しいって人と、スキル書は高値で売れるので金策の為にって人もいる。
その日は隣で同じく転がっているギルメンの皇帝ペンギンさんとギルチャで駄弁っていた。
「世界を守る為に、魔法少女になったのよ!」
彼はそういうロールの人で、キャラは可愛いロリ少女だったが、ネカマという訳ではない。「ゲームやってて一番見る事になるのは、自キャラのお尻なんだから、野郎なんかやりたくない」そうだ。
「やっぱり守るって難しいよね」
「うん?」
「昨日さー、遂に軍に拠点が見付かっちゃって、襲撃を受けたんだ。また仲間が減ったんだ」
「そっか、それは大変だったね」
「エルグラなら守る力が手に入ると思ったけど、レベリング大変だしなー」
「魔法職はMP尽きると、休憩がねぇ」
「だよねー。MPポーションとか高くてソロ狩りで使うの勿体無いしね」
「うん、高くて使えないよ、あれ」
「範囲狩りとかできればいいけど、うちのギルド盾いないから‥‥」
「それなら私、盾職やってみようかな。魔法盾?みたいなビルドも面白いかなー」
「うわ、凄い矛盾してそうで面白いかも。でも私は魔法少女を極めないといけないからなぁ」
「なんだっけ、二段階変身するんだっけ?」
「うん、あとは魔法少女7つの秘密を鍛える感じかなー。世界を守らないと、本当に危ないんだよ」
「うん、やっぱり私が盾職やって手伝うよ。私がペンギンさんを守るよ!」
「私も守って貰えるんだ。嬉しいね」
そうして私は盾職を始めた。ソロとは違うPTを守る役割は、自分が必要とされているようで。
‥‥‥そこで目が覚めた。
前世の事は思い出す事も多いけど、夢なんて久しぶりかも。
ペンギンさん、言動がロール入ってて謎な事多かったけど、元気かなー。まあ、こっちでは十年経ってるから向こうがどうなってるかわからないけど。
たしか最後に会った時は、〈魔法少女の瞳〉強化で、ひよこ鑑定士やってた。
誰だろうあの職業発見した人。鑑定スキル上げてる人には必須な風潮だったけど、スキルレベル上げるのに、ひたすらひよこの雄と雌を分別するという苦行が待っているという‥‥‥。
「あ、カトレアさん起きましたか?」
ごそごそしていると、テントの外からエドガーさんの声。あ、もう交代の時間かな。
「はい、交代ですね。シャルちゃん起こします」
「はい、お願いします」
夜の見張りは、最初にリグリース君とウィンディさん、次がエドガーさんとダスティさん。最後に私とシャルちゃんだ。
また朝食準備もあるから、明け方の担当にしてもらった。
「シャルちゃん、時間だよー」
「ううん、カトレアさん、いけませんわ。そんな事をされたら、わたくし我慢ができなくなってしまいますわ‥‥‥」
声をかけると、シャルの可愛い寝言が。
‥‥‥‥可愛い?ちょ、夢の中で私何をさせられているの!?
「朝ー、朝だよー、朝御飯食べて学校いくよー」
「うぐぅー」
これでも起きないかー。定番のフライパンを叩いてみる‥‥‥は、迷惑なので没。
くすぐってみるとか、あとは‥‥。
《生活魔法》で氷を作り出し、おもむろにシャルちゃんのパジャマの襟を引っ張り、背中に投入。
「つめたっっ!」
「おはよう、シャルちゃん」
「もう、起こすなら優しく起こして欲しいですわ」
涙目で文句を言うけど、最初は優しくしたさー。
「‥‥‥たとえば?」
「お、おはようのキスとか?」
その展開は最終手段にしてください。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m