第五十話「vsダイアーウルフ」
私の挑発にダイアーウルフが一匹振り向く。あ、意識しないと範囲にはならないか。
多分槍師さんが盾役だし、女剣士さんは腕を負傷、後衛二人は無事っぽいけど、魔法使いさんは魔力が厳しそうかな、顔色が良くない。
狼は、槍師にあと二匹、女剣士さんに一匹。あと先刻見た魔法で倒された狼が、離れた所に二匹倒れているようだ。
状況を確認して、女剣士さんの方の狼にもう一回《挑発》を掛ける。
あまり手を出し過ぎるのも良くないし、そこまでするほどPT崩壊してはいないからね。
「二匹受持ちます。その間に立て直しして下さい！」
「挑発スキルか！無茶をするな！！」
まず最初の狼が飛び掛かって来るのを小剣であしらい、かわす。二匹目の飛び掛かりは《土魔法》で壁を作り出し防いだ。
あまり《全周囲防御》無双しちゃうと絵面が良くないし、頼らず捌ける練習もしないとね！
「‥‥結構やりますね。ウィンディ、回復するからこちらへ！リグは‥‥少し休んでなさい」
「すみません」
私の様子を見て、任せても大丈夫と判断した神官さんが指示を出す。彼がリーダーかな？
「シャルちゃん、行けそうな所から各個撃破で！」
「了解ですわ！」
狼の攻撃を防ぎながら、時々《挑発》を入れてタゲを固定。初対面を人に《竜魔法》はマズイので、《剣魔法》で小剣に魔力を纏わせ強化する。
「〈再装填〉！行きますわよ」
まずは、こちらからと決めたのかシャルちゃんは私の正面で牙を剥く狼に躍りかかる。
ヘイトは十分貯まっているようで狼は私に向いたままだ。うん、いい調子。
あちらは、女剣士さんの腕に神官さんが《神聖魔法》をかけている。槍師さんは狼二匹相手で防戦一方だが、上手くあしらっているようだ。
この辺りまで来る実力はちゃんと有るみたいね。
「沈みなさい、〈雷震の右腕〉！」
私が切りつけ怯んだ狼にシャルちゃんの雷を込めた拳が綺麗に入り、まずは一匹。
仲間が倒れたのを見た狼は、怒りを露に低く唸る。
「よし、こっちは大丈夫。シャルちゃん向こうを片付けちゃって！」
「わかりましたわ」
こっちは、牽制しつつ回避の練習でもさせて貰おう。女剣士さんが復帰、シャルちゃんが加わった事で、あっちも問題なさそうだしね。
そして、一匹ずつシャルちゃんと女剣士さんが狼を倒し、私が相手をしていた最後の狼は全員に集中攻撃され呆気なく倒される。
まあ、数は多いが単体としてはそこまでではないので安定しちゃば、こんなものよね。
うん、良い盾役の練習になったよ。
「ありがとう助かった。さっきはすまない、その、見た目がな‥‥」
「いえ、実際まだ子供ですし」
戦闘が終わり、落ち着いた所で槍師さんが頭を下げて来るが、まあ普通に十歳児だからね。シャルちゃんは、お胸がメロン並みなので、もうちょっと上に見られそうだけど。
私はいいのよ。見た目は子供、中身は大人、真実はただ一つだからね！
何？中身はアラサーだって？処すよ？
「俺達は銀ランクPT〈緋色の槍〉だ。俺はダスティ」
槍師さんはダスティさんね。槍と盾、鉄の半身鎧を着た見るからに盾役。年は二十になってない位？
「あんた達ちっこいのに強いわね。アタシはウィンディよ、よろしくね」
両手剣使いの女剣士さんはウィンディさん。身長は170越えてそうな長身でスタイルの良い女剣士。こちらも年は一緒位？
「リグリースです。お役に立てず、すみません」
おそらく《火魔法》使いはリグリース君。改めて見るとイケメンっていうよりは中性的な美少年ですな！多分年は十代半ば。
「助かりました、一応リーダーのエドガーです。この辺りまで様子を見に来たんですが、ダイアーウルフがもう一組絡んできてしまって」
あれは三匹一組だしね。流石に私もダメージは受けずとも六匹はキツい。
町周辺は初心者狩場だし、この辺りの情報は私もギルドに上げてあるから、遠征してきたのだろう。
最後は神官のエドガーさん。年長で二十代前半くらいの落ち着いた感じの方だね。
「シャルロッティ・エスト、銅ランクですわ」
「私はカトレア・クロフォード。鉄ランクです」
私が挨拶すると、エドガーさんが「ああ」と笑みを見せる。
「貴女方が〈グリムの救済者》ですか。私達はグリム出身でして。災害時は南のカレルナにいたのですが、お噂は聞いてます」
「い、いえ。あれは偶然ノルディンからクロフォードに向かう所だったのでお手伝い出来ただけですよ」
その称号はダグラスさんに祭り上げられた感じなので、少し恥ずかしい。
「それにしても、鉄と銅ランクって凄いですね。僕なんか銀になったというのに、力不足で‥‥」
「いや、リグは最初に二匹やってるだろ、十分活躍してるさ」
小さくなるリグリース君の背中をパンっと叩いて笑うダスティさん。
「ランクと強さは別って言うけど、流石にこの辺りは危険度５ばかりだし鉄と銅のペアで狩れるのは凄いね！」
「あはは、私達ギルドのポイントよりも、食材優先だったもので‥‥」
「危険度５を食材か‥‥‥」
素直に誉めてくれるウィンディさんと半ば呆れるダスティさん。
「美味しいお肉が食べたいじゃないですか～」
「ああ、確かに、タイラントボアは旨いな！ダイアーウルフは筋張っててイマイチなんだが」
「ダイアーウルフもしっかり煮込めば柔らかく食べれますよ。薪代掛かるのは難点ですけど」
三日間くらい煮れば、牛スジの煮込とかみたいに、味が染み込んでトロリとしたお味に。冬場にダイアーウルフの味噌煮込みはうちの定番の一つです。
「ほー、そいつはちょっと興味あるな」
「あー、なんかお腹空いてきちゃったよ！」
「確かに、小腹が空きましたね。片付けて、休憩にしましょうか」
素材として、牙と毛皮を剥ごうというダスティさんに提案して、全て私の収納の中に。
これでお肉が味見出来ると喜んでくれた。
後のダンジョン攻略のライバルになる〈緋色の槍〉との出会いはこんな感じでした。
お読み下さりありがとうございますm(_ _)m
