第四十七話「昔は後楽園球場単位だったそうです。」
「なんか出来てますわ!?」
私とシャルちゃんは、オーダーメイドの防具を作って貰うための資金を稼ぐ為にレイゲンタットに向かう事にした。
ギルドのポイントも兼ねると、すっかり常連になったトカゲさん家に行くのが良さそうなのだが、連日のように通うのもあって、素材の買い取りは高くない。お肉は美味しく頂いてますけど。
そこでこの際、ポイントよりもお金という事で、自重せずに山の麓まで遠征する事にしたのだ。
流石に中腹まで行くと、危険度7クラスがうようよいるらっしゃるので、その手前で狩りをしつつ、ひょっこりと出てくるかもしれない、二匹目のなんとやらを狙おうという訳だ。
最奥にいると言われる白竜王、〈混沌の監視者〉とか間違って出てくるとかは止めてくださいね?亜竜クラスでいいんですよ?フラグじゃないからね?
ついでにダンジョン予定地を見に来たのだけど。
何か白いドーム状の建築物が建っていました。
大きさは、そのまま東京ドーム一つ分。
何、ドーム単位じゃ分からない?うん、私も首都圏在住だったけど、良く分からないです。
一応、面積は46.755平米だったと思います。
とにかく大きなドームが建っています。見た目は例のドームに良く似てる。ぐるりと周りが回廊に囲まれていて、どこか入口は‥‥ありました。
大きな両開きの扉には竜っぽい何かと戦う剣士のレリーフが彫られ、固く閉ざされている。
その入口の左右はには剣を掲げる戦士の石像が二体あった。何か意味でもあるのかなー?
「L―28E56ダンジョン(仮)は今秋、開園の予定です。今しばらくお待ちください。工事中につき施設内は大変危険です、関係者以外の立ち入りは御遠慮下さい」
そして入口には、そんな文言が書かれた看板。
「良くわかりませんが、まだ入れないという事ですの?」
「そうみたいだねぇ」
このLなんとかって管理用かな?それとも座標とかかもだけど。
「とりあえず入れないみたいだし、後でギルドに報告しとけばいいかなー」
「そうですわね。少し残念ですけど」
ダンジョンの傾向とか分かれば、準備も出来るんだけど、この外観だけじゃ判断出来ないね。
山の麓までは森を抜けないといけないんだけど、厄介だし《竜魔法》の翼を出して一っ飛び‥‥‥と言いたいけど。
「それじゃ行きますか」
「や、優しくお願いしますわ‥‥っポ」
シャルちゃんが後から抱き付き、一緒に飛んでいくんだけど、そこ、顔を赤らめてモジモジしないっ!ちょっと変な気分になっちゃうと、色々まずいから!
勢い良く飛び立ち、上空へ。
実際に翼で飛ぶ訳ではないので、シャルちゃんをおんぶしてても問題は無いんだけど、只でさえ魔力消費が半端無い上に、体力的にキツい。
とにかく最短距離で森を抜けるルートで裾野を目指した。
「きっついーーー」
「ああ、カトレアさんの香りと体温を感じますわ」
「シャルちゃん、顔を擦り付けないでーー!」
消費を少しでも抑える為に、高度は木々のスレスレを飛んでいく。
シャルちゃん、落ちないようにしがみつくのは良いけど、あらぬ所をまさぐったりしないで!ちょっと敏感になって来てるんだから、集中力がーー!!
十五分程飛ばして、なんとか森を越えた私達は、草地に舞い降りた。シャルちゃんを降ろして、地面に倒れる。
「はー、き、キツかった。しばらく休憩ー」
「もう少し堪能したかったですわ‥‥」
荒い息を吐いて大の字になって転がる私と、違う意味で息が荒いシャルちゃんは残念そう。
‥‥‥これ、帰りもやらないといけないのか。
なんか身の危険を感じるので、別の方法を考えようと思います。
「!?」
森を抜けた山の麓、この裾野に入るとそこはレイゲンタットの領域。大陸最大の危険地帯の端っこだけど、ここに住む魔物は一段強くなる。
休憩中に襲って来たのは、タイラントボア。
音も立てずに丈の高い草むらに紛れ近付き、気が付いた時には、こちらに突進してくる所だった。
「シャルちゃん、危ない!」
狙われたシャルちゃんは、私の声に、咄嗟に避ける。その脇を巨大猪が凄い勢いで走り抜ける。
まったく、ゆっくり休憩もさせて貰えないね。
私は起きあがり、右手を《竜魔法》の爪に変化させる。コイツ相手に私の小剣など役に立たない。
「また来るよ!」
「ええ!〈再装填〉!!人が余韻に浸っている所を不粋ですわよ!」
巨大猪は反転、そのままのスピードでシャルちゃんに迫る。小回りの利く大型トラックが時速60㎞で突っ込んで来るのを想像してもらえれば大体あってる。
これを受け止めるのは不可能で、シャルちゃんは右に避けるが、手を出すには至らなかった。
タイラントボアの厄介な所は、この質量とスピード。単純なだけに接近戦には持ち込み難い相手だ。
「こういう時にヘイト取る挑発スキル欲しいんだけどなー!私が相手よ、〈石の礫〉!」
《土魔法》で石の弾丸を打ち出し牽制、こっちに目標を変えてくれると良いんだけど、猪は気にもせずに、執拗にシャルちゃんに狙いを定める。
「っち!」
草むらに足を摂られ、一瞬回避が遅れる。直撃こそ避けたものの、手をクロスしてガントレットで防御したシャルちゃんが、吹き飛ばされ、地面を転がる。
「やはり危険度5は伊達じゃないですわね」
「シャルちゃん、大丈夫!?」
「ええ、平気ですわ」
シャルちゃんは、なんとか立ち上り猪を見据える。
まったく、こっちは、万全じゃないってのに!
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